ペルソスへ
基地長本人から、四聖龍のことについて詳しく聞いたレイズたち。
騎士団長はまだ合流していないが、次はペルソスの隊長から話を聞くことになっている。
ただ、自分たちは表向きには視察名目で来ている。よって、表面上だけでも視察を行う必要があった。だから、すぐにはここを発つことができない。
表向きの仕事を果たすため、リゼルのみジンに同行し、基地内を見て回っているところだ。
レイラはともかく、レイズとバージルはジンに誘われたが、遠慮した。
リゼルと三人なんて、絶対に嫌だ。また、バージルは、別の理由もあり、断っているが。
そんなこんなで、レイズ、バージル、レイラの三人は、基地長室で待機中である。
(当たり前だが)この部屋には娯楽がない。時間を持て余してしまう。
思い出したように、レイズは呟いた。
「結局、間に合わなかったな」
「えぇ……来るのは確実なのですが……」
彼は「誰が・何が」とが言わなかったが、流石に分かる。団長クラッツのことだろう。
自分たちが話を聞くまでには間に合わなかったが、来ることは確実だ。
ただ、彼はレイズの評価に重きを置いている様子。
よって、道中までの戦闘が少ないであろうフリーズルートまでは、来ないだろうなとは思っていた。
(ですが、私的には……)
それとは無関係に、一緒にいてくれた方が非常に心強いのだが。
ただ、この規模の基地に団長にぞろぞろついて回る団員も目立ちすぎる。しかも、自分はフードを被っているのだ。
そういう意味では、自分たちだけの方が動きやすいのかもしれない。
レイラの「繰ることは確実」の返答に、少し慌てるレイズ。
団長を疑っている訳ではない、と言いたげに「いや……」と呟いていた。
「いや……まぁ、暇だな……」
「えぇ……ですね……」
会話(?)もそれで終わり。
沈黙が続く。空気自体は重くないが、落ち着かない。
レイズはこう思っているが、レイラの脳内はそれなりに働いている。
(次は、ペルソス……)
ペルソスに行っても、似たようなことを聞く可能性は極めて高い。ただ、町が大きい分、ペルソスの方が騎士団の規模は大きい。
変わった視点から話が聞けるかもしれないし、ペルソスの基地長は、四聖龍の目撃者の一人だ。
話を聞く価値は、十分にある。
(状況はこんな感じ……四聖龍は……)
この時間を利用し、レイラは事細かにノートに状況を記した。
前の四聖龍のこと。容姿や使用する武器、属性に、文面での言葉遣い。
そして、新しい四聖龍のこと。容姿不明なことや、属性などだ。
魔物の凶暴化や四聖龍に依頼した経緯などは、サラッとメモ程度に残している。
今回重要なのは四聖龍であり、魔物の凶暴化ではない。
これと、ペルソスの隊長の話を比べるつもりだ。
事細かく記せたが、同時にこれは絶対になくしてはならない代物になった。管理には気をつけよう。
彼女は荷物を整理しながら、ノートを詰めた。
「!」
レイラは、そこで手を止める。
荷物の中にあるのは、仕事用のノートと、日記用のノート。
彼女はその二種類を使い分けている。
今聞いた話は、勿論仕事用。仲間のことや、国のことは、日記用。
内容次第でごっちゃになることはあるが、何となくで分けている。
誰に言われたかは忘れたが、幼い頃、日記をつけるようしつこく言い聞かされていた。
(誰でしたっけ……)
流石に前過ぎて、覚えていない。
まぁ、父グランズではないのだけは確か。きっと、城に出入りしている騎士団や要人だろう。
今では、一言だけでもいいから書かないと、落ち着いて眠れないレベルにまで生活の一部となっている。
リゼルのことは勿論、レイズやバージルのこと、マリナのことも、記されている。
今では膨大な数になっているが、自分の中で精査し、最低限の記録を持ち歩くようになっていた。
懐かしさを感じつつ、荷物の口を閉じたレイラ。
団長関連で気まずさを感じたのか、今度はバージルに話しかけたレイズ。
「しっかし……大変なことになってるな……」
「ん?あぁ、そうだな……」
明らかにぼんやりとしていたバージル。だが、レイズは気付かない。
暇すぎて「こう」なっているのだと解釈しているのだ。
(何だっけ……全然聞いてなかった……)
騎士団や四聖龍は、本当に大変である。ただ、バーバルはバージルで個人的に大変なことになっている。身から出た錆ではあるのだが。
正直、話をほとんど聞いていなかった。
「……何かありましたか?」
「え!?いや、何も?」
「本当ですか?」
レイラに心のうちを見透かされた気がして、慌てて否定する。が、彼女は食い下がってきた。当然だ。声が裏返っているのだから。
「「…………」」
レイラのせいで、レイズの視線まで刺すように感じる。
この状況を切り抜ける、良い話題は無いか?バージルは必死に頭を回す。
「トイレが……ちょっと……その……間に合わなかっただけだ」
言うと同時に、激しく公開する。
(バッカじゃねぇの!?)
自分は、本当に頭の回転が鈍い。
こういう緊急な時、上手い嘘が出てこない。
場を支配する沈黙。
「…………ん゛ん゛ッん゛」
レイズは、席を二つ横にずらした。
沈黙が耐えられないのか、小さく咳払いする。
その後、レイラは黙って消臭ペーパータオルを差し出した。
「…………」
彼はそれを、黙って受け取る。
彼女は彼が受け取ったのを確認し、素早く距離を取った。
戦闘中でも、なかなかあの動きはできない。
「…………」
秘密は守られたが、バージルは大切な何かを失った。
そして、数十分後。扉が開き、ジンとリゼルが部屋に帰ってきた。
「おい、次に……」
リゼルの口が止まる。
レイラ、レイズは普通に座っているのに、バージルだけが部屋の隅で瞑想している、という奇妙な状況になっているのだ。
「……何だ。あれは」
「リゼル……やめましょう。これ以上は可哀そうです」
「そうだぜ。あいつのライフはゼロだ」
「バカが何かしたのか……」
二人にそう返され、リゼルも訳が分からない。
これ以上詮索しても、プラスになるようなことはなさそうだ。その空気は感じ取れた。
バカのすることは想像つかない。
話を切り替えるように、ジンが口を開く。
「次はペルソスへ?」
「あぁ。違う視点でも話が聞きたい」
「分かりました。団長殿が着きましたら、そう伝えましょう」
「そうしてくれ」
そう言えば、とレイズは思い出す。
「……団長さんを待たなくていいのか?」
「構わないと思います。業務が溜まっているようでしたし、待たなければいけない状況でもありません」
「進んで問題ないだろう。長居して、レイラの存在がバレてもマズいからな」
「…………」
バージルは一瞬身を固くする。が、誰にも感づかれていなさそうだ。
レイラたちは、来た時と同じようにフードを被る。
「門まで一緒に行きましょう。その方が安全です」
「……助かる」
ジンに案内され、門番をスルーするレイズたち。
次は、ペルソスだ。




