秘密
トイレに行きたいと言い出しだバージルを残し、レイラ、リゼル、レイズの三人は、基地長の部屋に入っていた。
軽く自己紹介を済ませ、彼待ちの状態となる。
基地長の名前は、ジンと名乗った。彼は今までの隊長より、やや高齢な印象だ。
ぱっと見だが、50代くらいだろう。ただ、例によって、龍力者の外見年齢不一致率は高い。
故に、もっと歳は行っているかもしれないが。
そうこう考えていると、ドアがノックされた。
「すませんッ……」
バージルも入室し、騎士団長以外のメンバーはとりあえず揃った。
団長は遅れてくると聞いていたが、この報告会にも遅れるとは。
それだけ多忙なんだろう、とレイズは思う。マジで忙しいなら、式典どころの騒ぎではないのも納得である。
バージルが着席したのを確認し、レイラは口を開く。
「で、例の件なのですが……」
「はい。団長はまだのようですが、摺り合わせの後、説明しましょう」
フリーズルートの基地長ジンは、騎士団長から『例の件』について、どの程度聞いているかをレイラに確認している。
詳しく聞かされていないレイズたちは、この場に居て良いのか迷いながらも、指示を待って座っていることにしている。
「……彼らには、まだ詳しく言っていません。直接聞いた方が良いかと思いまして」
「そうですか。承知しました。漏れてもいけませんしな……」
「……!」
ピク、とバージルの眉が動く。が、全員がジンに着目しており、誰も気付かない。
例外なく、レイラも。
「はい。事が事ですし……」
先日レイラが事細かく話さなかった理由の一つだ。
かと言って、概要に留めるには、組織図が少々複雑である。
そのため、表面をサラッと伝えただけである。
「それに、あの時は私も動揺していました……人払いも十分ではありませんでしたし……」
「そうですか……では、今一度説明した方がよろしいですかな。この部屋は、そういう意味でも安全です」
今日は『視察が来る』とフリーズルートの団員たちには伝えてある。
そのような日に好き好んで上の人間がいる部屋に来る人間はいない。
また、防音、盗聴対策もできている。
「……団長へは別口でお話しします。この後もおありでしょう」
「はい。お願いします」
レイラたちは、ペルソスにも行く必要がある。
団長が間に合わなかったのは残念だが、いつまでも待つわけにはいかない。
自分たち単独で、先に話を聞くことにした。
「では……」
ジンは、時系列を追いながら説明を始める。
リゼル、レイズは真面目に聞いていたが、バージルはずっとソワソワしている。
彼の説明に集中しており、誰も自分のソワソワに気づいていない。
「ペルソスと連携し、『魔物の群れ』の対応を……」
「しかし、団内ではどうにもならず……」
「規模感からも、四聖龍に頼った方が、損害も時間も少ないと考え……」
断片的に耳に入ってくるが、それすらも右から左。
先ほどのフォリアとの会話が気になっており、話が頭に入ってこない。
(絶ッ対マズいよな……う~……)
唇を噛み、眉間にしわを寄せる。
時は、トイレから出た後まで遡る。
フォリアとの再会を驚くバージル。
「フォリア!?久しぶりってのもなんか変だけど!久しぶりだな!」
「あぁ、元気そうだね」
入団式でも、彼女のことをバージルは気にしていた。
怖気づかなかった紅一点の志願者。気にならないわけがない。
「ん~~~……」
フォリアはバージルをまじまじと見つめる。
「……配置転換の辞令も出てない……とすると……」
(こいつ……!?)
フォリアは、自分がここにいる理由を考え始めた。
勘が鋭そうだ。さっさと退散した方が吉。気持ち的には、もっと話したかったが、タイミングが悪すぎる。
「じゃ、用事あるから……」
バージルが若干残念そうに静かに去ろうとした瞬間だ。
「……何か面白そうなニオイがする」
「え……?」
そう言われ、服を掴まれた。
フォリアの顔は何かニヤニヤしている。
「視察団の一人かもと思ったけど、新人が来るわけない。同期のあんたが、な、ぜ、か、こんな辺鄙なところにいる?絶対面白いだろ?」
「いや、意味が分からん……」
こいつの言う「面白い」とは何だ。
概要しか知らないが、聞く限り、事態は全然面白くない。
それなのに、フォリアの顔は満面の笑み。
普段の生活が余程退屈なのか、目がキラキラしている。
その輝きに、バージルは思わず目を背ける。彼女のキラキラとは対照的に、バージルの目は真っ黒である。
どうやって退散しようか、それしか考えていない。
しかし、退散先は基地長の部屋。見つかってしまった時点で、積んでいるのかも……
「視察だって……」
「嘘だね。新人が視察何て聞いたことないよ。それに、上の人間が近くにいないのも変だよ」
「……トイレに行きたかっただけだからな」
「ふ~~ん……?」
納得したのかしてないのか分からない顔で、彼女はバージルの周りを一周する。
服装や装備類を確認しているように見える。
「ただの視察、か……なら、大型新人が視察に来たって言い回っても良いね?」
「ダメだ!言うなよ!?絶対に言うなよ!?」
「何でよ」
「秘密だからだ!!……あ……」
つい、ぽろっと言ってしまった。
「へ~~~……新人がひ・み・つの視察ぅ……」
「く……」
フォリアは満面の笑みを浮かべる。
口が滑った自分へ苛立つと同時に、こいつ、可愛いな。とバージルは一瞬思ってしまう。それがまた、悔しい。物凄く。
「教えな」
「は!?」
「何しに来たか、教えな。じゃないと、言いふらして回る。視察は嘘だって」
それはマズイ。
ここには、視察名目で入っている。それが嘘と分かれば、当然、基地長だけでは対処できない。
副基地長や、ここに配属されている騎士団の隊長クラスまでもが無理やり調査に入るだろう。そうなれば、レイラが来ていることがバレる。視察に女王が来るなど、有事以外滅多にない。大騒ぎとなり、話が広まってしまう。
どうすれば切り抜けられる?バーバルは必死に頭を回すが、可愛い笑みを浮かべる女子に見つめられながら、この短時間で思い浮かぶほど、彼の頭は良くなかった。
かくん、と頭を下げ、懇願するように言う情けない男バージル。
「……絶対に秘密だぞ。これだけは守ってくれ……マジで」
「もちろん」
フォリアは器用にウインクする。
閉じた瞳から星が飛び出しそうななくらい、イキイキしていた。
そして、現在。
(俺のバカ……本当にバカだ……)
こうして、バーバルはここに来た理由を、ざっとであるが、話してしまったのだ。
レイラが来ていることや騎士団長が来ることはぼかして伝えたが、どうなることやら。
(コイツに殺される……)
秘密を漏らしたことがバレれば、自分はリゼルに殺されるかもしれない。
いや、ガチで。9割は殺されるだろう。虫の息にされ、騎士団もクビ。
自分の最優先事項である、真実を知ることなく、弾かれてしまう。
こんなにも緊張するのは、生まれて初めて。入団試験以上だ。
だが、もう自分にできることは何もない。
フォリアが大人しくしているよう、祈るばかりであった。




