銀髪の女
フリーズルートを横切り、隣接している騎士団基地に辿り着いたレイズたち。
ダミーではあるが、一応連絡は行っている。よって、基地に容易に入ることができた。
視察名目であること、他のメンバーは新人で、騎士団証の手配がまだであることを説明していた。
門番は「全員分の身分が証明できないと……」と渋っていたが、リゼルの「責任は自分がとる」とのトドメの一撃。
リゼルの騎士団証は本物である上に、騎士団内では中の上の部隊に所属している。それに、後から団長も来る予定である。
地位が信用を勝ち取った形。
敷地内に入り、全員に注意を促すリゼル。
奥に(規模は中程度だが)要塞のような基地が見える。
「できるだけ目立つなよ。基地内部は平常運転だ。分かってるな?レイラ」
「はい」
レイズ、バージルならまだしも、一国の王であるレイラは見つかる訳にはいかない。
騎士団内での肩書きはないが、国の最高位でもある彼女。
レイラたちの視察を知る人間は、基地長のほか数名だ。一般団員に見つかってしまえば、大騒ぎとなる。
バレ防止のため、彼女はフードを深くかぶっている。
レイズとバージルもそれに合わせている。ただ、彼ら二人は、怪しまれすぎないように、顔が見える程度にはしてある。
ちなみに、リゼルはこの集団の責任者という立場だ。顔は隠さない。
「でも、コソコソするのも変だぜ」
「あぁ。レイラの顔さえ見られなければいい。話しかけられても、適当にかわせ。絶対に詳細を喋るな」
「へーい……」
話している間に、基地の出入口に到着した。雪を払い、騎士団基地へ入るレイズたち。
建物内部は、だいぶ暖かかった。防寒着では暑いくらいだ。
施設内も綺麗に掃除されていて、不快感は全くない。付け焼き刃の掃除ではなさそうに感じるが、実際はどうだろうか。
フリーズルートやペルソスの寒さに耐えるだけの防寒着。
その状態で暖かい室内にいるのは、少々堪えるかもしれない。
寒暖差が大きいことで、レイラは思わず声を漏らした。
「……っ」
本当に小さな声だったが、リゼルには聞こえたらしい。
「部屋に着くまで我慢できるか?」
「……はい。もちろんです」
服の裾を仰ぎ、風を通すレイラ。
その横で、バージルはぼやく。
「俺らも暑いなー……なんて」
「知るか。我慢しろ」
「ほいほい」
冗談気味に言ったが、一瞬で切り捨てられる。
案の定な反応に、バージルは心の中で毒づいた。
(リゼル君も平常運転でーす……)
そんなこんなで、フリーズルート基地内を進んでいくレイズたち。
すれ違う団員も、見慣れぬ顔にこちらを見るが、特に詮索する様子はない。
軽い挨拶を交わして通り過ぎていく。
目的の基地長の部屋は奥にある。案内図があるたびに確認し、施設内を進んでいく。
と、リゼルは階段の下で足を止めた。
「約束の部屋はこの上だな」
「えぇ、行きましょう」
「っ、待ってくれ。トイレに行きたいんだけど」
バージルは軽く震える。このタイミングを逃せば、次はだいぶ先になりそうな雰囲気。
基地内は暖かいが、そこそこな時間屋外にいたため、実は尿意を我慢していたのだ。
肝心な時に、とでも言いたげなリゼル。
しかし、攻撃的な言葉は出てこなかった。気遣う言葉も出てこなかったが。
「……先に行く」
自分なら一人で動いても問題ないと判断されたのか、待ってはくれなかった。
それでも良い。とにかく今は、この尿意を何とかしたい。
「すぐ追いつく!」
リゼルたちの返事を待つことなく、バージルはトイレに走った。
「……行くぞ」
「はい」
「おっす」
リゼルたちは、隊長の部屋に向かう。
その一方で、バージルは危機を乗り越えたところだった。
「ふぃーー……スッキリしたー……」
バージルはトイレを終え、トイレ脇の廊下の端で一息ついていた。
ハンドタオルで手を拭きながら、「そろそろ行くかー」と考えていると、背後から声を掛けられた。
「あれ?あんたは……」
「ん?」
振り向くと、騎士団の制服を着た女(歳は自分と同じくらい)が立っていた。
腰には剣を携えている。
そして、最も印象に残ったのは、銀色の髪。
女と目が合った瞬間、バージルの時計は止まった。
目が大きく開き、心臓が高鳴る。
「お前……確か……」
見たことがある。
確か、騎士団の入団試験の日だ。
その日は言葉を交わすことはなかったが、紅一点だったため、よく覚えている。
そして、入団試験の合格者でもある。
自分とリゼルの戦いを見ても、怖気づかなかった女。
名前は……思い出せない。
「フォリアだよ。フォ、リ、ア」
リズムを取るように名乗る女。
ニマ、とほほ笑むその顔に、バージルは戸惑いながらも喜びを感じていた。
しかし、彼はこの再会に後悔することになる。




