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龍魂  作者: 熟田津ケィ
ーマリナ=ライフォードー
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王レイラと騎士団長クラッツ

その日の夜。

レイラはレイグランズ城の自室で一人、ぼんやりと外を眺めていた。

外は、城下町の街灯が美しく輝いている。火は沈んでいるが、町の音が隣で聞こえてきそうなくらい、活気に溢れている。


復興は順調。一見、平和である。

問題は、山積みだが。


「…………」


彼女は、先ほどの騎士団長との話を思い出していた。





「レイラ王、落ち着いて聞いてください」

「……はい」


クラッツの重々しい会話の切り出し+敬語に、レイラは緊張する。

自分を『王』として話している証拠だ。


「四聖龍の一人が、倒されたようです」

「ぇ……え!!??」


『四聖龍』

騎士団には直接属さず、本当に必要な時に力を借りる秘密戦力。

その見返りとして、団長以上の待遇が約束されている。


その存在を知るのは、上層部のみである。

これは、「四聖龍がいるからいいや」と彼らにおんぶにだっこにならないようにするため。

原則、自分たちで対応するように努めている。


四聖龍の存在はレイズとバージルに知られても構わないが、『倒された』ことは今は伏せたい。

故に、騎士団長クラッツは、部屋から追い出した。


「その……倒された……とは?」

「……詳しいことは分かりません……ですが、倒されただけではなく、四聖龍のイスが、何者かによって奪われた可能性もあると」

「え……!?」


四聖龍が倒され、しかも、そのイスを奪われるとは。

秘密戦力を倒せるだけの実力者がいることすら騎士団にとっては脅威だが、更にそのイスを奪っている可能性もあるとは。


しかも、四聖龍の存在は良くも悪くもシークレット。

他人と入れ替わっても、即座に気付くことは不可能である。

最悪の可能性として、四聖龍の地位を使い、騎士団を崩壊させることが容易にできてしまう管理体制だ。


(そんな……国のことだけでも手一杯なのに……)


血の気が引いていくのを直に感じるレイラ。


「……順を追って話しましょう」


こんなの、グランズだったとしても動揺する。

十代後半女性には重い現実だが、立場は王。共有しなければならない。


「お願いします」


話を聞いていくと、大体の状況が分かった。




海を挟んだ北の大陸。

そこには、ペルソスとフリーズルートという町がある。

一年中雪に覆われた地域だ。人間が生活するには厳しいが、龍力発展のお陰で、不自由なく暮らしている。

フリーズルートは田舎町だが、ミナーリンのように漁業が盛ん。

また、銀世界の入り口として、重要な役割を担っている。よって、小さな町だが、人の出入りは多い。


そして、その奥に位置しているペルソスは、都会である。

フリーズルートから山越えをする必要があるが、かなり栄えている。

海鮮が美味しいと有名だし、龍の属性の一つである氷龍に関係する場所もあるとかで、氷龍使いがよく足を運ぶ。



さて、ここからが本題だ。

その地域で、お互いの騎士団では解決しにくい問題が起こったらしい。


その問題とは、魔物の異常なまでの凶暴化。

『あの日』以降、魔物が凶暴化している話は聞いていたし、実感している。

ただ、当然ムラはある。

穏やかになっている地域、変わっていない地域、進んでいる地域……

その地域では、それが極端に進行していたのだと聞く。


「そんなことが……」

「あぁ。私も各地を飛び回っている身です。すぐには駆けつけることができませんでした」


規模も大きく、騎士団員では対処できない。しかし、緊急に解決しなければならない。

王都からの応援を待っている時間はない。


そこで、お互いの騎士団基地長は、四聖龍の力を借りようと試みた。

それ自体は成功し、魔物の鎮静化には成功したとのこと。

これで一件落着だと、普通ならば思う。


しかし。


「……当然ですが、四聖龍と深いかかわりがあるわけではありません。ですが、明らかに『変わっていた』ようです」

「え?騎士団に断りもなく……ですか?」

「のようです」


四聖龍の魔物討伐戦。

本来であれば、四聖龍に依頼した時点で、騎士団が出る幕はない。

が、規模が規模だっただけに、心配になった両基地長は、現場近くで魔物の動向を見ていたようだった。


そして、四聖龍と魔物の戦いも。

それを確認していた両隊長の話では、その四聖龍の姿が以前とは違っていた……つまり、人が変わっていたのだという。


「見間違い、という可能性は……?」

「二人ともが『変わった』との認識です。その線は薄いかと」


四聖龍に依頼した以上、四聖龍の言うことは守らなければならない。


・騎士団含め、人を近づけないこと。

・戦闘中に近づかないこと。

・撮影しないこと。

・報告は、こちらが指定した形式で行うこと。

・こちらを詮索しないこと。


などなど、条件を出そうと思えばいくらでも出せる。

また、これらの条件も、四聖龍個人の匙加減だ。対面報告OKな者、NGな者、騎士団なら近付いてもOKとする者もいる。

共通している条件ではないため、その区域の基地長は、かなり気を遣って彼らに依頼するのだ。


「二人の違和感は、おそらく本物でしょうね……」


大きく理由は二つ。


一つ目は、四聖龍の戦いを、遠くでだが見ていたこと。その際、使っている武器や龍の『属性』が変わっていたこと。

武器は別に変っていてもあまり気にはしない。が、龍の属性となると話は違う。

龍の属性を変えることはリスクが大きい。四聖龍という実力者だとしても、それをするとは考えにくい。


そして二つ目。報告形式についてだ。


「以前は、しっかり面と向かって報告してくれていたそうです。気のいいおっさんだったと申しておりました。ですが……」


もちろん、対面での報告を嫌う四聖龍もいる。北の四聖龍は、偶々それが平気な人物だったらしい。


だが、今回はそれが全て書面だったらしい。

その『気のいいおっさん』とも書面でやり取りしたことはあった。

しかし、その時と比べても、文章の構成にも違和感があるとのこと。


「それは……確かに……怪しいです……」


騎士団に報連相もなく、変わることはNGとしている。

四聖龍に出している最低条件だ。


これがなく、人が変わっているのならば、北の四聖龍は十中八九落とされている。

仮にだが、既に死体が出ていたとしても、一般騎士団員では四聖龍だと分からない。

これが、このスタイルの厄介なところだ。


「そこで、です。調査を頼みたいと思います。私も合流する予定です」


とはいえ、と、クラッツは机の上の書類を絶望的な表情で眺める。


「……久しぶりの王都で、事務仕事が溜ますので……時間は遅らせてもらうことになりそうですが」


副団長もいるのはいるが、最終決定権は団長である。

彼が承認しないといけない書類は、山ほどあるのが現状。


「分かりました。調査、とは……?」

「調査と言っても、深入りはしません。基地を回って、直接話を聞きます。今のは、報告書レベルの話ですから……彼らは直接見ているようですし、身体的特徴や武器、属性も把握しておきたいですね」

「そうですね」

「四聖龍の席を奪う輩です。騎士団活動で会わないとも限りませんし、情報として知っておくべきでしょう」


任務中、その特徴に合致する人間に出会うかもしれない。

即逮捕は当然しないが、騎士団として、マークしておく必要があるだろう。


「承知しました」

「流石にこの内容です。王と団長が直接出向くべきかと」


今のところ、四聖龍の件については、ペルソスとフリーズルートの隊長のみで情報が止められている。

外の人間を入れるとなると、少人数かつ、信用できる人間が必要だ。


「リゼルも信用していいでしょう。貴女の右腕となり、盾となる男です。後の二人も、中々興味深い経歴ですしね」


エラー龍力者と、その師匠。

エラー龍力者については、騎士団初の自発的入団だ。

しかも、フリーズルートの基地長からも良い評価を得ているとのこと。


「ダルトの件も、彼が力になったと聞きましたが」

「えぇ。(戦力的には何とも言えませんが)違和感の摺り合わせで、意見を参考に」


こく、とクラッツは頷く。


「基地長、そしてレイラ様の評価も高い。そして、実績も上げている。彼らを連れていくのに、充分な理由でしょう」


そうなれば、自分の目でも彼を見ることができる。


「四聖龍の調査を口実に、レイズ君を評価したいと思っています。私も、レイズ君の力を見極めたい。四聖龍も気になりますが、積極的に捜査もできないでしょうし……」

「……分かりました」


そうして、王と騎士団長の話は終わった。




時は今、自室で考え事をしているレイラ。


本当に四聖龍の一人が倒されていれば、この国始まっての大事件だ。

しかし、同時に国民に報告ができにくい事態でもある。


唯一の救いは、その新四聖龍が騎士団に協力していたことだ。

恐らくだが、団長もそれがあるため、そこまで焦っていない。


しかし、協力的だからとスルーしていい事柄ではない。

深入りしないでも、特徴を把握しておく必要はある。


そして、その調査にレイズも同行する。

道中戦闘もあるだろうし、彼の性格も把握できるだろう。

そこで、団長の判断が下るっぽい。



……脳が湧きそうだ。

様々なことを考えていると、コクン、と意識が一瞬飛んだ。


「……あ、もうこんな時間」


考えごとの途中で、眠気に負けていたらしい。時計の針は23時を回っていた。

明日に備えて眠らなければ。


(お父さん……私は……どうすれば……)


行方不明の父グランズを思いながら、彼女はベッドへ横になった。

この国はどうなるのだろうか。自分は、国の王としてやっていけるのだろうか。

不安に押しつぶされそうになりながらも、何とか眠りにつくことができた。


彼女の不安とは裏腹に、レイグランズの夜は輝きを失わないのだった。

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