四聖龍
レイラが騎士団長と話を終えて戻ってきたのは、日が暮れてからだった。
リゼルに指示され、騎士団本部の休憩スペースで時間を潰していたレイズたちは、さっそくレイラに話を聞く。
「何があったんだ?」
「えぇ……それは……」
言いにくそうに口ごもるレイラ。バラフライ中かのように目が泳ぎ、表情は暗い。
何かを察したのか、リゼルが間に入る。
「待て。それは言えることなのか?」
「「!」」
レイズとバージルの動きが止まる。
騎士団長クラッツは、騎士団員のレイラではなく、女王という立場のレイラと話すと言った。
リゼルならまだしも、自分たちはド新人。普通であれば、試用期間中の身である。
その新人含め、情報を開示できるのか。それが先だ。
「……調査段階ですので……ですが、この四人なら、言える範囲で言っても良いと……」
「言える範囲……?」
レイズとバージルは顔を見合わせる。
つまり、深い話をしたが、言えるのはごく一部の触り程度と言うことか。
「……聞いてもいいか?」
「はい。ですが、場所は変えさせてください」
レイラもかなり動揺しているようだ。
どこを見ているのか分からないくらい焦点があっておらず、声も少し震えている。
レイズたちは、開いていた騎士団本部の一室に入る。
部屋に入り、皆が席に着いたことを確認すると、リゼルはカギを閉めた。
リゼルが頷くのを確認すると、レイラは大きな紙を取り出し、広げて見せる。
頂点は一つ。
そこから枝分かれして、下に伸びている図が書かれてあった。
「これが、騎士団の組織図です」
「へー……これが」
レイズは、組織図とやらにざっと目を通す。
自分の配属先も、これのどこかにあるのだろう。それの説明か?
そう思ったが、レイラは声を低く、小さくして続けた。
「……正確には、上層部だけが閲覧できるものです」
「え……?」
騎士団長を頭に、副団長。
それより下は複雑に腺が伸びている。
末端には、地名により名前が変わる騎士団基地が書かれている。
レイズは線を目で追っていたが、ふと、何も線が書かれていないシマを見つける。
名前も書かれていない、ただの四角形で囲まれた部分。それが、四つある。
何回も確認したが、組織図上で線の繋がりがない。また、その四つの四角同士も、繋がれていなかった。
「これは……?」
彼の問いに、レイラは頷く。
「一般公開されている組織図には、この部分が隠されています。このように」
彼女はそのシマを適当な紙で隠す。
一般的に隠されている組織が、騎士団に存在するのか。
彼女はその紙をどけ、説明を続けた。
「一般非公開の組織……『四聖龍』の方々です」
「四聖龍?」
「国を四分割して、それぞれの地区の保護管理を担当しています」
「線がないのは?」
「名目上ここに記していますが、正確には、騎士団の一員ではありません。基地を総括している訳でも、その義務がある訳でもありません。また、その四人も、繋がりはありません」
彼らに担当区域はあるらしいが、担当区域内の騎士団基地を管理監督する義務はない。
また、その四聖龍とやらは、お互いが協力関係にあるわけでもないらしい。各々独立して、動いている様子。
最初に言われたように、これは公開されていない資料だ。故に、四聖龍の存在を知らない団員がほとんどである。
だから、『上層部だけが閲覧できる資料』と言うわけだ。
「……私たちのように、日々依頼を受けて動く立場でもないのが特徴です」
「どういうことだ?意味が分からん」
レイズは頭を捻る。
国・国民を守るのは騎士団の役目だ。
王都に騎士団本部があり、それぞれの地区にある騎士団基地と関係している。
しかし、四聖龍は違うらしい。
「それであれば、前情報が必要ですね。大陸には、当然複数の町があり、騎士団基地があります。普通なら、その基地同士が協力すべきですが、うまくいかないことはあります」
「……?」
イマイチ理解できない。
騎士団と言う組織で国や国民を守るという目的で集まっているのに、連携が取れないとは。
「騎士団も組織大きな組織です。功績を挙げれば上に行くことができます。なくてもペナルティはありませんが、功績がある基地とない基地では、報酬にかなりの差ができてきます」
「え?取り合いになるってことか?」
国・国民を守る騎士団員とは言え、仕事だ。報酬は良い方が、やる気が出るに決まっている。
それに、一律にしてしまうと、依頼が多い地区少ない地区、危険度が高い地区やそうでない地区など、不平等が生じる。
だから、依頼件数や難易度で、報酬に差がついているのが現状。
ならば、基地ごとに競争が発生しそうなのは納得である。
その先は、リゼルが口を開いた。
「……その逆もある。ダルトは基地がそこしかないから、そんな下らないことは起こらないが……本部に応援要請が来る前に、別の基地が独断で動く場合もある」
得点稼ぎに動くかどうかは、基地長やその時の状況次第だ、とリゼルは言う。
確かに、隣の基地で対処できない問題が、自分の所で対処できそうで、報酬も上がるとなれば、介入しない理由がない。
だが、100%そう動くかどうかは分からず、時と場合や基地長の判断になるらしい。
「ダルトの件のように、一度は本部に応援要請が来ます。それでも対処できなかった場合に、四聖龍の出番となります」
「な、なるほど……」
先日の件で言えば、自分たちがマリナを救えず帰還し、その後の騎士団対応も失敗に終われば、彼女は四聖龍によって倒されていた、と言うことか。
レイラは四聖龍の枠に目を落とす。
「ダルトではなく、近隣に基地がある地域であれば、お互いが様子を見合う状況になっていたかも……」
「は?そこに困っている人がいんのにか!?」
「……長く居ると分かる」
リゼルは悟ったように呟く。
レイラとリゼルの騎士団歴は長い。
イメージからくる光の部分と、実際のやるせない部分はよく理解している。
やる気に満ちた新人にする話ではないことも。
「……最終手段の四聖龍への応援ですが、具体的なタイミングや方法は私では分かりません」
「……マジか」
「えぇ。団長がするのか、応援で解決できなかったときに地域の基地長がするのか……場合によっては、本部を飛び越えて四聖龍に頼るのか、も……」
「とにかく、最終的にはその四人?が動くのか。」
「そうですね……彼らが事に当たることになります」
騎士団が抱える秘密組織『四聖龍』。
話を聞く限り、その力は絶大だ。しかし、彼らはこの状況下でも動かない。否、秘密故に、彼らに情報が行く前に止まっているだけか。
力はある様子だが、騎士団組織が自由に扱える戦力ではないらしい。ただ、いざとなれば動いてくれる、個人として最強クラスの隠し玉。
秘密戦力があるんだなと感心しつつも、国が大変な状況なのに動かない彼らに、納得いかないレイズだった。




