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龍魂  作者: 熟田津ケィ
-全ての始まり-
41/689

時は、レイズたちが全滅した後まで遡る。

その女ーマリナ=ライフォードーは遺跡の外で佇んでいた。

彼女の頭上を流れる雲に、龍力は一切感じられない。


彼女は、先ほどの戦闘を後悔していた。それも、激しく。

頭を抱え、顔を歪ませる。乾ききっていない頬に、再度涙が流れる。


「なんでっ……!」


自分が、憎い。

また、傷付けてしまった。しかも、かなり強力な雷で。


マリナは、拳を強く叩きつける。

何度も。何度も。何度も。


「どうして……!!」


この手で、雷を操作し、この手で剣を具現化。

この手で、倒した。


ここにくる人間で、敵意を全く感じないことは初めてだった。

ただ、全員がそういう思考の下で動いておらず、敵意が上手く識別できずに誤射(?)してしまうことはあった。それは朦朧状態でも、把握していた。

雷龍の支配下と、自分の意識。相手は正義の人間だ。傷付ける必要はない。

だが、どうしても支配から抜け出せなかった。


手を出したくない。それなのに、身体が言うことを聞かない。

勝手に動き、力を放出する感じだ。


そんな戦いを何度も繰り返した。そして、その後も意識は呆然としたままが日常。

こうして後悔できるのは、戦闘後かなり時間が経過した後だ。


ただ、今回は少し違った。何故だか分からないが、彼らが消えた後、割とすぐに、気持ちが落ち着いていた。


多分、今まではどうしようもなかった支配から、少しだけ抜け出せたから。

戦闘中に自我が戻りかけることなど、基本なかった。彼らの波だと声に心が震え、少しだけ『前』に出れた気分。

だから、支配が浅く、クールダウンも早い。


それに加え、苦しんでいる自分を見つけてくれた気がしたのもある。

排除すべき敵ではなく、救うべき対象だと。自分の背景を思い、涙を流してくれた。

それなのに、自分は剣を向け、力を放った。


「ごめん……なさい……」


溢れる涙で、ダルトの地を濡らすマリナ。

また、あの地獄が始まる。意識が生きるも消えるも、龍次第。


(ぁ、来たかも……)


心の中で、ズズ……と底なし沼に沈むような感覚が渦巻く。

案の定だ。


マリナは数秒後、気を失う。しかし、倒れることはない。

聞こえたのは、地面を転がる音ではなく、舌打ちのような音。


「チィ……」


その時点で、涙は既に枯れていた。乾いた頬を一度だけ拭い、雷龍は定位置に戻る。

尽きることのない『敵』を、ひたすらに、待つ。




「…………」




あれから、どのくらい時間が経っただろうか。

ぼんやりと、意識を呼び起こされる。雷龍が戦闘準備に入ったらしい。


どこかで見たことあるような人間が、またやってきた。

今度は、二人で。茶髪の自信がなさそうな少年と、金髪の可愛らしい女性。

女性の方は、覚悟を決めたような顔。しかし、敵意は感じないし、龍力レベルも低い。


(あぁ……また……)


自分の中の力がざわつくのが分かる。

しかし、ある一定の気分の高まりを感じた後、それ以上感じなくなる。


(あ……れ……)


こんな感覚、初めて。

ざわつきが一定ラインを超えると、雷が抑えきれなくなるのだが。

ただ、雷龍的には攻撃対象らしい。


頭上の雲を媒介に、雷を放っている。しかし、マリナの意識が邪魔をしているのか、マトモに当たることはない。


その事実に、何かを確信した顔になる二人。

敵意がなく、龍力レベルも低い状態のまま、どんどん距離が近くなる。

雷はカス当たりでも、稲妻の余波は食らっているはず。それでも、彼らは龍を上げてくることはなかった。


雷龍もこの「アンノウン」の存在に戸惑っているようだが、退くことはなく、龍力は充填している。


が、技を放つより、近づかれる方が早い。そして。


「……を迎え……した!!」

「助け……!!苦し……ろ!?」


途切れ途切れだが、頭に響く声。

武器や龍力、罵声ではなく、優しい声。


「たす、……け?」


ずっと欲しかった、助け。その事実に、心が震える。

ただ、極端に龍とのバランスが不安定となり、雷が四方八方に迸る。


(ッ!抑えて……!!)


稲妻の走行を操作し、二人を避ける。

幾本にも走る稲妻を操作できたことに驚きだが、それ以上に龍の支配も強い。

数本は捌ききれず、貫いてしまう。


(ダメ!!)


思った時は、もう遅い。が、二人は倒れない。

それどころか、またも距離が詰まる。そして、今度は強く、声が聞こえてきた。


「負けるな!頑張るんだ!あんたは強い!!それに、俺たちもいる!!」


ハッキリと聞こえた声。

来てくれた心の震えにより、バランスが崩れる。

龍が乱れ、力が膨れ上がってしまう。


(抑え、きれないッ……!!)


身体から、大量の放電。二人はぎょっとし、防御態勢を取った。

この量の稲妻が二人を貫けば、流石に倒れてしまう。必死に支配下の中でもがき、稲妻を捌く。

戦闘中にこれだけ龍に介入できるのは、始めてだ。これも、彼らに敵意がないことが大きいと思う。


「頑張れ!!戻ってこい!!」


うん。頑張る。

そう答えようとした瞬間、肩を掴まれた。


「!?」


自分は帯電している。

当然、手を通じて稲妻が走っていく。それなのに、少年は手を離さない。


「聞こえるか!?もう少しだ!!戻って来やがれ!!」

「ッ……!!」


彼の行動に驚いていると、今度は手に温もりが。

金髪の女性の手だ。彼女も稲妻のダメージを受けているだろうに、表情は穏やか。

それだけでなく、優しい声まで聞こえてきた。


「大丈夫です……大丈夫です……もう、一人じゃないんです」

「痛いよな……苦しいよな……俺も、暴走したんだ……」

「けど、コントロールできた。一人じゃなかった。お前も、もう、一人じゃない」

「そうです。私たちがいます。落ち着いて……ゆっくり……」


その声に、心が満たされる気がした。

雷龍のモノと思われる、荒れた感情が沈んでいくのも感じる。


(あぁ……気持ちいい……)


自然と、涙が流れた。

龍の感情が沈み、眠る様に意識が沈んでいく。そうなると浮上するのは、マリナ=ライフォードの意識。


「ぁ……」


視界が徐々にはっきりし、以前の自分の世界が戻ってくる。

ダルトの空気感、身体の感覚が強く感じられてきた。


そこでマリナは顔を上げ、自分を助けてくれた二人の顔をはっきりと認識した。


「……ありがとう。あなた達の声、届いたよ……」


マリナにとって、彼らの声は光だ。

その光のおかげで、意識の闇から救われた。


彼女はすぐに意識を失うが、龍が起きたわけではなく、疲労感から来るもの。

目覚めた時、彼女は遺跡ではなく、ダルト町内にいることだろう。

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