光
時は、レイズたちが全滅した後まで遡る。
その女ーマリナ=ライフォードーは遺跡の外で佇んでいた。
彼女の頭上を流れる雲に、龍力は一切感じられない。
彼女は、先ほどの戦闘を後悔していた。それも、激しく。
頭を抱え、顔を歪ませる。乾ききっていない頬に、再度涙が流れる。
「なんでっ……!」
自分が、憎い。
また、傷付けてしまった。しかも、かなり強力な雷で。
マリナは、拳を強く叩きつける。
何度も。何度も。何度も。
「どうして……!!」
この手で、雷を操作し、この手で剣を具現化。
この手で、倒した。
ここにくる人間で、敵意を全く感じないことは初めてだった。
ただ、全員がそういう思考の下で動いておらず、敵意が上手く識別できずに誤射(?)してしまうことはあった。それは朦朧状態でも、把握していた。
雷龍の支配下と、自分の意識。相手は正義の人間だ。傷付ける必要はない。
だが、どうしても支配から抜け出せなかった。
手を出したくない。それなのに、身体が言うことを聞かない。
勝手に動き、力を放出する感じだ。
そんな戦いを何度も繰り返した。そして、その後も意識は呆然としたままが日常。
こうして後悔できるのは、戦闘後かなり時間が経過した後だ。
ただ、今回は少し違った。何故だか分からないが、彼らが消えた後、割とすぐに、気持ちが落ち着いていた。
多分、今まではどうしようもなかった支配から、少しだけ抜け出せたから。
戦闘中に自我が戻りかけることなど、基本なかった。彼らの波だと声に心が震え、少しだけ『前』に出れた気分。
だから、支配が浅く、クールダウンも早い。
それに加え、苦しんでいる自分を見つけてくれた気がしたのもある。
排除すべき敵ではなく、救うべき対象だと。自分の背景を思い、涙を流してくれた。
それなのに、自分は剣を向け、力を放った。
「ごめん……なさい……」
溢れる涙で、ダルトの地を濡らすマリナ。
また、あの地獄が始まる。意識が生きるも消えるも、龍次第。
(ぁ、来たかも……)
心の中で、ズズ……と底なし沼に沈むような感覚が渦巻く。
案の定だ。
マリナは数秒後、気を失う。しかし、倒れることはない。
聞こえたのは、地面を転がる音ではなく、舌打ちのような音。
「チィ……」
その時点で、涙は既に枯れていた。乾いた頬を一度だけ拭い、雷龍は定位置に戻る。
尽きることのない『敵』を、ひたすらに、待つ。
「…………」
あれから、どのくらい時間が経っただろうか。
ぼんやりと、意識を呼び起こされる。雷龍が戦闘準備に入ったらしい。
どこかで見たことあるような人間が、またやってきた。
今度は、二人で。茶髪の自信がなさそうな少年と、金髪の可愛らしい女性。
女性の方は、覚悟を決めたような顔。しかし、敵意は感じないし、龍力レベルも低い。
(あぁ……また……)
自分の中の力がざわつくのが分かる。
しかし、ある一定の気分の高まりを感じた後、それ以上感じなくなる。
(あ……れ……)
こんな感覚、初めて。
ざわつきが一定ラインを超えると、雷が抑えきれなくなるのだが。
ただ、雷龍的には攻撃対象らしい。
頭上の雲を媒介に、雷を放っている。しかし、マリナの意識が邪魔をしているのか、マトモに当たることはない。
その事実に、何かを確信した顔になる二人。
敵意がなく、龍力レベルも低い状態のまま、どんどん距離が近くなる。
雷はカス当たりでも、稲妻の余波は食らっているはず。それでも、彼らは龍を上げてくることはなかった。
雷龍もこの「アンノウン」の存在に戸惑っているようだが、退くことはなく、龍力は充填している。
が、技を放つより、近づかれる方が早い。そして。
「……を迎え……した!!」
「助け……!!苦し……ろ!?」
途切れ途切れだが、頭に響く声。
武器や龍力、罵声ではなく、優しい声。
「たす、……け?」
ずっと欲しかった、助け。その事実に、心が震える。
ただ、極端に龍とのバランスが不安定となり、雷が四方八方に迸る。
(ッ!抑えて……!!)
稲妻の走行を操作し、二人を避ける。
幾本にも走る稲妻を操作できたことに驚きだが、それ以上に龍の支配も強い。
数本は捌ききれず、貫いてしまう。
(ダメ!!)
思った時は、もう遅い。が、二人は倒れない。
それどころか、またも距離が詰まる。そして、今度は強く、声が聞こえてきた。
「負けるな!頑張るんだ!あんたは強い!!それに、俺たちもいる!!」
ハッキリと聞こえた声。
来てくれた心の震えにより、バランスが崩れる。
龍が乱れ、力が膨れ上がってしまう。
(抑え、きれないッ……!!)
身体から、大量の放電。二人はぎょっとし、防御態勢を取った。
この量の稲妻が二人を貫けば、流石に倒れてしまう。必死に支配下の中でもがき、稲妻を捌く。
戦闘中にこれだけ龍に介入できるのは、始めてだ。これも、彼らに敵意がないことが大きいと思う。
「頑張れ!!戻ってこい!!」
うん。頑張る。
そう答えようとした瞬間、肩を掴まれた。
「!?」
自分は帯電している。
当然、手を通じて稲妻が走っていく。それなのに、少年は手を離さない。
「聞こえるか!?もう少しだ!!戻って来やがれ!!」
「ッ……!!」
彼の行動に驚いていると、今度は手に温もりが。
金髪の女性の手だ。彼女も稲妻のダメージを受けているだろうに、表情は穏やか。
それだけでなく、優しい声まで聞こえてきた。
「大丈夫です……大丈夫です……もう、一人じゃないんです」
「痛いよな……苦しいよな……俺も、暴走したんだ……」
「けど、コントロールできた。一人じゃなかった。お前も、もう、一人じゃない」
「そうです。私たちがいます。落ち着いて……ゆっくり……」
その声に、心が満たされる気がした。
雷龍のモノと思われる、荒れた感情が沈んでいくのも感じる。
(あぁ……気持ちいい……)
自然と、涙が流れた。
龍の感情が沈み、眠る様に意識が沈んでいく。そうなると浮上するのは、マリナ=ライフォードの意識。
「ぁ……」
視界が徐々にはっきりし、以前の自分の世界が戻ってくる。
ダルトの空気感、身体の感覚が強く感じられてきた。
そこでマリナは顔を上げ、自分を助けてくれた二人の顔をはっきりと認識した。
「……ありがとう。あなた達の声、届いたよ……」
マリナにとって、彼らの声は光だ。
その光のおかげで、意識の闇から救われた。
彼女はすぐに意識を失うが、龍が起きたわけではなく、疲労感から来るもの。
目覚めた時、彼女は遺跡ではなく、ダルト町内にいることだろう。




