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龍魂  作者: 熟田津ケィ
-全ての始まり-
21/689

テスト勝たせる気がない試験官

ただ待つだけというのは、本当にしんどい。

減っていく入団希望者、過ぎていく時間、ダレてくるバージル。


(あ゛~~……流石にだりぃ……)


最初の受験者が呼ばれて、一時間くらい経過しただろうか。

自分以外の入団希望者が、次々と呼ばれていく。その間隔は一定ではなく、長いのもあれば、短い時間で呼ばれるのもあった。

頑張った試合もあれば、速攻で決着が付いた試合もあったのだろう。これはつまり、試験管側もそれ相応の実力者を用意していたことになる。


周囲の緊張に釣られ、自分も緊張していたが、時間の経過とともに、緊張<ダレになっていた。

人を呼びに来る時以外、団員は入ってこない。しかも、しっかりとノックされる。だから、中の状況を知られる可能性は少ない。

つまり、待機時間中の態度は試験に影響しないと判断できる。


そう考えたバージルは、部屋の中をウロウロしたり、窓の外をぼんやりと眺めたりして、何とか暇を潰していた。

レイズの件も気にはなるが、悪いようにはされないだろう。重要なのは、自分の方だ。


大欠伸をぶっこいていたら、扉が三回鳴った。時間だ。

ただ、不満も大きい。


(なんもしてないのに……もうしんどい)


待ちくたびれた。

何でこんなに待たされたのか、運営サイドに問い合わせたいくらいだ。

もっと班を細分化し、待ち時間を減らす努力が必要である。


「どうぞ」

「……はい」


団員に案内されるまま付いて行くと、騎士団の広場に通された。

建物に囲まれたこの広場で、戦闘を行うっぽい。

多分、二階かどこかで見ているのだろう。視線を感じる。


(班はそれなりにあったな。そこそこの数こんな場所があるってことか)


周囲に迷惑がかからない、広い場所。

その数に班の数を合わせているのか。なら、仕方がないな。


「さ、これをどうぞ」


そこで、オモチャと見分けがつかない武器を渡される。模擬試験故の対応か。

バージルは黙って受け取り、それを見る。刃に指を添えてみるが、皮膚は切れない。

精巧に出来ているが、ニセモノだ。


剣の刃が光に反射し、光る。と、バージルはふと口を開いた。


「全員、剣タイプですか?」

「あぁ。申し出がない限りは」

「……なるほど」


長旅で、杖を使っていたが、まぁ良いか。

いつかはメジャーな武器種である剣に変えるつもりでいたし。


(つか、マジでよくできてるな)


重さも本物の剣に似ている。

少し触ったくらいでは皮膚は切れないが、龍力が籠れば話は別。しっかりとした武器になる。

実力が優位であろう試験官側も、それなりの覚悟が必要だな。


バージルは剣を数回振り、雰囲気を掴む。


「いつでも良いぜ……良いです」

「よし。始めよう」


団員が合図する。

奥の重厚な扉が開き、中から出てきたのは……


闇色の髪、目が隠れる前髪、整ったご尊顔、そして、背が低い少年。


「リゼル!?」


だった。

バージルは試験官がいそうな場所を見回す。

「勝たせる気がないだろ!?」と更に運営に問い詰めたくなる。


リゼルは表情を変えず、言う。


「特別に僕が相手をする。条件は同じ。運が良ければ死ぬことはない」


彼の持っている武器も、同じように、レプリカの武器だった。

ただ、形状が異なり、ゆるくカーブしている。ミナーリンで扱っているのを見た武器の形によく似ていた。

同じ剣タイプでも、使い手に合わせて種類を用意しているのか。


というか、今は武器の形などどうでもいい。

コイツは、「運が良ければ死ぬことはない」と言った。

確実に勝つ気でいる。


「はぁ、クソ……」


バージルは項垂れる。

実力差を見せつけられて、ナイーブになっていたばっかりなのに、この仕打ち。

ただ、圧倒的戦力差で勝つ気でいるリゼルにも、腹が立つ。

鼻を明かしてやりたいが、策がない。どうするか……


バージルがうだうだ考えていると、リゼルが口を開く。


「叩き潰す。覚悟はいいか」

「まじかよ……」


もう時間だ。やるしかない。

合格は、絶望的になってしまったかもしれない。


バージルが構えると、開始を告げる音が響いた。

その瞬間、二人は駆け出し、剣を振る。


龍力の解放。リゼルの実力は分かっている。

初めから、全開だ。


「「!!」」


風の龍と闇の龍。

両者がぶつかり、彼らを中心に圧が生まれた。

広場全体に、二人を中心に風が駆け抜ける。緑の葉が舞い、空間を揺らす。


「~~~~~!!」


やや押されの鍔迫り合い。

リゼルは小柄だが、龍力はバージルを大きく上回っている。

このまま組み合うのはジリ貧だ。


「があっ!!」


力を振り絞ぼり、リゼルを弾く。

龍力では負けているが、腕力で補える。圧倒的に不利なわけではなさそうだ。

その優位を最大限に活用させてもらう。


龍力を充填する暇も少ない中、バージルは床を強く蹴る。


「くっそ!!風龍剣!!」


体勢の崩れたリゼルに、技を叩きこむ。

が、体勢が崩れているにも関わらず、リゼルはそれに反応した。

くるりと身体を回転させ、彼の剣を止めにかかる。

龍技発動による龍圧。それにより、崩れた体勢からでも力のモーメントを生み出すことが可能となる。


「闇龍閃」


闇の一閃。


バージルの剣を弾き、その勢いのまますり抜ける。

回転する闇の一閃により、技の余波を食らってしまうバージル。


「ッ……!」


風龍剣は空振りに終わり、しかも逆に技を打たれた。

これが本物の武器であれば、大ダメージだっただろう。


「クッ……」


なんとか堪え、振り向きざまにさらに技を繰り出す。


「風圧撃!!」


広範囲の技。すばしっこいリゼルには、ピンポイントよりも範囲技が手っ取り早い。


「ち!!」


リゼルは剣を上手くガードに使い。耐える。

数歩下がらせるだけで、ダメージを与えるには程遠い。


「おらァ!!」


バージルはそのまま走り、リゼルに猛攻を仕掛ける。

純粋な剣劇では勝てない。後退させ、力のベクトルが前に向いていない今。

バージルはわざと大きく動き、剣を振りかぶる。本気で技を撃つつもりで。

しかし、その直前、リゼルの軸足が見えた。


その刹那。

バージルは剣を振りかぶったまま、その足にローキックを食らわせる。


「!!」


誰がどう見ても。かつ、キックした本人ですら、剣に注力していた。

それなのに、この直前での変更。それ故に、威力は不十分だが、後退していたリゼルの体勢を、更に崩すのには、充分な攻撃だった。


がくん、と彼の膝が折れ、床に着く。

最大のスキ。今しかない。時間はないが、全力だ。


「風龍乱刃!!」


剣を纏う旋回する刃。風龍オーラによる斬撃。

渾身の一撃を振り下ろした。


しかし。


前腕を支えにした形の防御で、完璧に止められてしまう。

ずん、と彼の身体を通じて、力を感じた。十二分な威力だったはず。

床こそめり込まなかったが、相当量の龍圧による攻撃だったはず。しかし、リゼルは完璧に受けきった。


インパクトの瞬間の衝撃音の後、広場には静寂が訪れる。


「「…………」」


バージルもリゼルも、何も言わない。

そのポーズのまま固まっていたが、バージルのが先に剣を引いた。

それに対し、彼は防御姿勢のまま動かないが、明らかに龍力量が増大している。


ヤバい。怒らせたか。


顔が伏せられ、表情が見えない。

彼はゆっくりと立ち上がり、一つだけ呟いた。


「……終わりだ」


彼の龍力が、さらに上昇する。

それと同時に、黒と紫が混じったような龍力オーラが噴出した。


「……!!」


身の毛が逆立つのを感じた。試験のレベルを超えている。

危険だ。逃げろ。全てを投げ出してでも、逃げろ。


しかし、バージルは逃げない。

広場に充満する闇龍の圧に怯えながらも、歯を食いしばる。


(俺は騎士団に入る!!)


潰れそうなプレッシャーの中、バージルも龍を高め、防御に回す。

そんな中、リゼルの構えが変わる。戦闘中にも関わらず、ゆっくりと。


「……闇龍鋭爪斬」


リゼルの持つ剣に、闇龍の爪がダブって見える。

次の瞬間、彼は消えた。


「消え……!」


違う。移動した。それも、斜め前空中に。


「!!」


自分でも褒めてあげたいくらいの反応速度。

しかし、襲い掛かる大技に、バージルができることは限られてくる。

それは、龍力を少しでも高め、防御力を上げることだけだ。


「ぐッ……!!」


爪が振り下ろされ、バージルは地面に叩きつけられる。

勢いのまま十周回転がり、壁に激突した。


「いって……!!」


そのまま地面に落ち、崩れるバージル。

何とか起き上がろうとするも、目がかすみ、頭がふらつく。

世界が揺れる。下肢に力が入らない。


(真実に……絶対に辿り着くんだ……!!)


そのまま寝ていたい気持ちを殺し、必死に立ち上がろうとするが、自力では無理。

幸い、背後は壁。その壁を利用し、身体を起こすまでは出来た。

もうひと踏ん張りだが、力も残っていない。立てたとしても、戦えないだろう。


ならば。


「へへ……最後っ屁だ」


バージルは右手を前に出す。

そして、「風龍砲!」と心の中で叫び、龍力の塊を打ち出した。


「!!」


リゼルは、大技を打った反動で次の動作に移れていない。

それどころか、自分が技を撃ったことすら認識できていない様子。彼は全く動けていない。

思いの外、エネルギーを消費した様子だ。


これでは、避けられないだろう。


(ざまぁ……みやがれ……)


前髪の隙間から少しだけ見えた彼の目。それが、大きく開かれる。

バージルの風龍砲は、リゼルに命中した。

後方に吹っ飛ばされるリゼル。無様に転がる様まで見たかったが、マジで限界。


「ッ……」


小さく息を漏らし、バージルは気を失った。

龍力も消え去り、ただ風が抜けていくだけの広場。


激しい戦闘があったと説明されても、誰も信じない。

そのくらい、広場には安寧が訪れていた。

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