テスト勝たせる気がない試験官
ただ待つだけというのは、本当にしんどい。
減っていく入団希望者、過ぎていく時間、ダレてくるバージル。
(あ゛~~……流石にだりぃ……)
最初の受験者が呼ばれて、一時間くらい経過しただろうか。
自分以外の入団希望者が、次々と呼ばれていく。その間隔は一定ではなく、長いのもあれば、短い時間で呼ばれるのもあった。
頑張った試合もあれば、速攻で決着が付いた試合もあったのだろう。これはつまり、試験管側もそれ相応の実力者を用意していたことになる。
周囲の緊張に釣られ、自分も緊張していたが、時間の経過とともに、緊張<ダレになっていた。
人を呼びに来る時以外、団員は入ってこない。しかも、しっかりとノックされる。だから、中の状況を知られる可能性は少ない。
つまり、待機時間中の態度は試験に影響しないと判断できる。
そう考えたバージルは、部屋の中をウロウロしたり、窓の外をぼんやりと眺めたりして、何とか暇を潰していた。
レイズの件も気にはなるが、悪いようにはされないだろう。重要なのは、自分の方だ。
大欠伸をぶっこいていたら、扉が三回鳴った。時間だ。
ただ、不満も大きい。
(なんもしてないのに……もうしんどい)
待ちくたびれた。
何でこんなに待たされたのか、運営サイドに問い合わせたいくらいだ。
もっと班を細分化し、待ち時間を減らす努力が必要である。
「どうぞ」
「……はい」
団員に案内されるまま付いて行くと、騎士団の広場に通された。
建物に囲まれたこの広場で、戦闘を行うっぽい。
多分、二階かどこかで見ているのだろう。視線を感じる。
(班はそれなりにあったな。そこそこの数こんな場所があるってことか)
周囲に迷惑がかからない、広い場所。
その数に班の数を合わせているのか。なら、仕方がないな。
「さ、これをどうぞ」
そこで、オモチャと見分けがつかない武器を渡される。模擬試験故の対応か。
バージルは黙って受け取り、それを見る。刃に指を添えてみるが、皮膚は切れない。
精巧に出来ているが、ニセモノだ。
剣の刃が光に反射し、光る。と、バージルはふと口を開いた。
「全員、剣タイプですか?」
「あぁ。申し出がない限りは」
「……なるほど」
長旅で、杖を使っていたが、まぁ良いか。
いつかはメジャーな武器種である剣に変えるつもりでいたし。
(つか、マジでよくできてるな)
重さも本物の剣に似ている。
少し触ったくらいでは皮膚は切れないが、龍力が籠れば話は別。しっかりとした武器になる。
実力が優位であろう試験官側も、それなりの覚悟が必要だな。
バージルは剣を数回振り、雰囲気を掴む。
「いつでも良いぜ……良いです」
「よし。始めよう」
団員が合図する。
奥の重厚な扉が開き、中から出てきたのは……
闇色の髪、目が隠れる前髪、整ったご尊顔、そして、背が低い少年。
「リゼル!?」
だった。
バージルは試験官がいそうな場所を見回す。
「勝たせる気がないだろ!?」と更に運営に問い詰めたくなる。
リゼルは表情を変えず、言う。
「特別に僕が相手をする。条件は同じ。運が良ければ死ぬことはない」
彼の持っている武器も、同じように、レプリカの武器だった。
ただ、形状が異なり、ゆるくカーブしている。ミナーリンで扱っているのを見た武器の形によく似ていた。
同じ剣タイプでも、使い手に合わせて種類を用意しているのか。
というか、今は武器の形などどうでもいい。
コイツは、「運が良ければ死ぬことはない」と言った。
確実に勝つ気でいる。
「はぁ、クソ……」
バージルは項垂れる。
実力差を見せつけられて、ナイーブになっていたばっかりなのに、この仕打ち。
ただ、圧倒的戦力差で勝つ気でいるリゼルにも、腹が立つ。
鼻を明かしてやりたいが、策がない。どうするか……
バージルがうだうだ考えていると、リゼルが口を開く。
「叩き潰す。覚悟はいいか」
「まじかよ……」
もう時間だ。やるしかない。
合格は、絶望的になってしまったかもしれない。
バージルが構えると、開始を告げる音が響いた。
その瞬間、二人は駆け出し、剣を振る。
龍力の解放。リゼルの実力は分かっている。
初めから、全開だ。
「「!!」」
風の龍と闇の龍。
両者がぶつかり、彼らを中心に圧が生まれた。
広場全体に、二人を中心に風が駆け抜ける。緑の葉が舞い、空間を揺らす。
「~~~~~!!」
やや押されの鍔迫り合い。
リゼルは小柄だが、龍力はバージルを大きく上回っている。
このまま組み合うのはジリ貧だ。
「があっ!!」
力を振り絞ぼり、リゼルを弾く。
龍力では負けているが、腕力で補える。圧倒的に不利なわけではなさそうだ。
その優位を最大限に活用させてもらう。
龍力を充填する暇も少ない中、バージルは床を強く蹴る。
「くっそ!!風龍剣!!」
体勢の崩れたリゼルに、技を叩きこむ。
が、体勢が崩れているにも関わらず、リゼルはそれに反応した。
くるりと身体を回転させ、彼の剣を止めにかかる。
龍技発動による龍圧。それにより、崩れた体勢からでも力のモーメントを生み出すことが可能となる。
「闇龍閃」
闇の一閃。
バージルの剣を弾き、その勢いのまますり抜ける。
回転する闇の一閃により、技の余波を食らってしまうバージル。
「ッ……!」
風龍剣は空振りに終わり、しかも逆に技を打たれた。
これが本物の武器であれば、大ダメージだっただろう。
「クッ……」
なんとか堪え、振り向きざまにさらに技を繰り出す。
「風圧撃!!」
広範囲の技。すばしっこいリゼルには、ピンポイントよりも範囲技が手っ取り早い。
「ち!!」
リゼルは剣を上手くガードに使い。耐える。
数歩下がらせるだけで、ダメージを与えるには程遠い。
「おらァ!!」
バージルはそのまま走り、リゼルに猛攻を仕掛ける。
純粋な剣劇では勝てない。後退させ、力のベクトルが前に向いていない今。
バージルはわざと大きく動き、剣を振りかぶる。本気で技を撃つつもりで。
しかし、その直前、リゼルの軸足が見えた。
その刹那。
バージルは剣を振りかぶったまま、その足にローキックを食らわせる。
「!!」
誰がどう見ても。かつ、キックした本人ですら、剣に注力していた。
それなのに、この直前での変更。それ故に、威力は不十分だが、後退していたリゼルの体勢を、更に崩すのには、充分な攻撃だった。
がくん、と彼の膝が折れ、床に着く。
最大のスキ。今しかない。時間はないが、全力だ。
「風龍乱刃!!」
剣を纏う旋回する刃。風龍オーラによる斬撃。
渾身の一撃を振り下ろした。
しかし。
前腕を支えにした形の防御で、完璧に止められてしまう。
ずん、と彼の身体を通じて、力を感じた。十二分な威力だったはず。
床こそめり込まなかったが、相当量の龍圧による攻撃だったはず。しかし、リゼルは完璧に受けきった。
インパクトの瞬間の衝撃音の後、広場には静寂が訪れる。
「「…………」」
バージルもリゼルも、何も言わない。
そのポーズのまま固まっていたが、バージルのが先に剣を引いた。
それに対し、彼は防御姿勢のまま動かないが、明らかに龍力量が増大している。
ヤバい。怒らせたか。
顔が伏せられ、表情が見えない。
彼はゆっくりと立ち上がり、一つだけ呟いた。
「……終わりだ」
彼の龍力が、さらに上昇する。
それと同時に、黒と紫が混じったような龍力オーラが噴出した。
「……!!」
身の毛が逆立つのを感じた。試験のレベルを超えている。
危険だ。逃げろ。全てを投げ出してでも、逃げろ。
しかし、バージルは逃げない。
広場に充満する闇龍の圧に怯えながらも、歯を食いしばる。
(俺は騎士団に入る!!)
潰れそうなプレッシャーの中、バージルも龍を高め、防御に回す。
そんな中、リゼルの構えが変わる。戦闘中にも関わらず、ゆっくりと。
「……闇龍鋭爪斬」
リゼルの持つ剣に、闇龍の爪がダブって見える。
次の瞬間、彼は消えた。
「消え……!」
違う。移動した。それも、斜め前空中に。
「!!」
自分でも褒めてあげたいくらいの反応速度。
しかし、襲い掛かる大技に、バージルができることは限られてくる。
それは、龍力を少しでも高め、防御力を上げることだけだ。
「ぐッ……!!」
爪が振り下ろされ、バージルは地面に叩きつけられる。
勢いのまま十周回転がり、壁に激突した。
「いって……!!」
そのまま地面に落ち、崩れるバージル。
何とか起き上がろうとするも、目がかすみ、頭がふらつく。
世界が揺れる。下肢に力が入らない。
(真実に……絶対に辿り着くんだ……!!)
そのまま寝ていたい気持ちを殺し、必死に立ち上がろうとするが、自力では無理。
幸い、背後は壁。その壁を利用し、身体を起こすまでは出来た。
もうひと踏ん張りだが、力も残っていない。立てたとしても、戦えないだろう。
ならば。
「へへ……最後っ屁だ」
バージルは右手を前に出す。
そして、「風龍砲!」と心の中で叫び、龍力の塊を打ち出した。
「!!」
リゼルは、大技を打った反動で次の動作に移れていない。
それどころか、自分が技を撃ったことすら認識できていない様子。彼は全く動けていない。
思いの外、エネルギーを消費した様子だ。
これでは、避けられないだろう。
(ざまぁ……みやがれ……)
前髪の隙間から少しだけ見えた彼の目。それが、大きく開かれる。
バージルの風龍砲は、リゼルに命中した。
後方に吹っ飛ばされるリゼル。無様に転がる様まで見たかったが、マジで限界。
「ッ……」
小さく息を漏らし、バージルは気を失った。
龍力も消え去り、ただ風が抜けていくだけの広場。
激しい戦闘があったと説明されても、誰も信じない。
そのくらい、広場には安寧が訪れていた。




