ー龍学問の町マナラドー
ホーストに揺られて約1時間。
レイズたちは、龍学問の町マナラドに到着した。
想像していたとおり、研究所、養成所、予備校、塾などが並ぶ。何となくだが、研究区域と学校区域が分かれている様子。
飲食店や食料品店は、その合間にポツポツある感じだ。大人も学生も利用しやすいし、人がばらけてくれる。
しかし、多くの建物が使われていない様子だった。
人はそこそこいるが、町の大きさに対しては少なく、静かな印象を受ける。
「全然人がいないな」
「そうだな……店は空いていてありがたいけど」
ピーク時はそれなりに混み合うが、少し時間が変われば、飲食店でも普通に座れる。
王都では、時間をずらしても座れない店は多いのに。
その理由は、すぐに分かった。
食事を摂った店で、研究員らしい男が同僚と話しているのが聞こえてくる。
「……中々戻ってこないな」
「あぁ。『上』は安全だとか言ってるが、親は心配だろうよ」
彼らの言う『上』は、彼らの上司か、我々『国』か。
「学生もそうだが、『あの件』から、研究材料が不足してる」
「あぁ。学生データが少なくなった。その分、ロスだぞ」
それを悟られぬよう、雑談を交えながらレイズたちは耳を傾けている。
その研究員たちが席を立ったところで、レイズはコップを片手に呟く。
カラカラ、と氷が音を立てる。
「……やっぱり、『あの日』か」
「あぁ。以前は龍魂の資格のために教育機関が賑わっていた……けど、『あの日』以来、龍力者は急増した。ここも『被害』に遭ったんだろうな」
「それで、人も数も減った……」
町の規模から、前は人が多かったと推察する。
どれくらい非龍力者がいて、どれくらい『発現・暴走』したかは不明だが、それで休校になっているところが多いのか。
町行く人を見る限り、再開しているところもチラホラある様子だが、全くだろう。
「ここの教育は、龍力者でも学びがあるとされています。(龍を得た後も)前向きな方が多かったはず」
「だから、ここで学ぶのか」
「そういった方が多い印象ですね」
龍魂と平和に付き合っていたころは、龍力向上に騎士団は深く関わってはいなかった。
よって、向上心のある者はこの町で勉学に励むのだ。
しかし、『あの日』でエラー龍力者が増え、騎士団が教育に力を入れ始める。
国に信用はないにしても、マナラドの規模と騎士団の規模を比較すれば、騎士団に流れていくのはある程度は仕方ない。
「……中には諦めたやつもいるだろうな。龍力の恐怖ってヤツを知っちまったから」
コントロール下の龍力は、言うほど恐ろしくない。
逆を言えば、暴走状態の龍力は、どうにもならないレベルまで力が湧き上がることが多い。
解放型や影響型など、その性質は異なるが、「人が扱っていい力じゃない」と龍魂から距離を置きたくなる人が増えてもおかしくない。
龍を宿していても、自ら龍を呼び起こさなければ、龍魂をもたない人間と変わりないのだ。
暴走の恐怖は、加害者も被害者両方の心に深い傷を残す。
「…………」
紛れもない、王都の責任。
レイラ個人は悪くないが、彼女は俯くことしかできない。
町の現状。一見平和に見えていても、爪痕は濃い。
改めてリアルを突きつけられる。
「気にするな、は(お前の性格上)無理だろうが……気にするな」
リゼルは「そんなこと興味なし」の態度だ。
「僕が気になってるのは、龍魂の可能性だ。それ以外は関係ない」
「はい……」
そう。ここへ来たのは、龍魂の可能性を探るためだ。
しかし、研究所で成果が出れば間違いなく騎士団に報告が入る。
それがない以上、可能性は薄いと考えるのが普通だが。
「で、どうやって調べる?」
「騎士団の名前を使って一番大きな研究所に入る。新人研修の名目で、説明を聞きながら聞き込みに入る」
「それから?」
「まぁ、聞き込みからは何も出ないだろう。そこから話を広げる」
「うん?」
「……ここからはただの憶測だ。ここからはその都度話す」
「了解だ。リゼルを信じよう」
「……そうですね」
何もヤケになってここに来たわけではなさそうだ。
リゼルはリゼルなりの考えがある。
それが当たっているかは、また別の話だが……