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魔力特性


エステルの噂はあっという間に国中に広まった。


『平民として暮らしていたエマ・ガルニエが実は無実の罪で追放された公爵令嬢で、王宮でその正体が明らかになり王女となる』


という事実はまさに御伽噺おとぎばなしのようで貴族だけでなく庶民の間でも大きな話題となり号外まで配られた。


エステルが身分を隠して働いていた居酒屋が隣国にあるということも喧伝され、店には客が押しかけて大変なことになっているらしい。



*****



「いや~、まさかこんなことになるとはね!」


ジョゼフが書類をめくりながら面白そうに宣った。


今日ジョゼフとエステルが面会しているのは、王宮からの依頼でエステルの魔力特性を確認するためである。


ヴァリエール王国で魔力を持つ人間は、自分の魔力の特性を記録し登録しなければならない。


指紋のように、魔力の特性は人によって全て異なり終生不変という特徴を持つ。


この世界では魔力特性を個人認証のために使用しているので、女王の養女になるエステルが登録されているエステル・ド・リオンヌと同一人物かどうかを確認する作業である。


魔法の力で姿形を自在に変えられるシェイプシフターがいる世界だからこその個人認証の作業であるが、


「ま、でも、シェイプシフター・・・変身能力なんて珍しい魔力を持つ人間はこの百年くらい生まれてないけどな」


とジョゼフが呟いた。


「そうね。でも、個人認証だけじゃなくて、魔法を使った犯罪が少ないのもこの登録制度のおかげだし、悪いことじゃないと思うわ」


魔法を使うと術師の魔力の特性が残る。魔法で犯罪を行っても魔力の残滓で特定されてしまうので、今では魔法を使った犯罪を行う愚か者はほとんど存在しない。


代わりに魔力特性の残滓が残らない魔道具を使った犯罪は後を絶たない。なので、武器になり得る魔道具には厳しい規制がかけられ、購入者を登録する制度もある。


ちなみにこの世界の魔道具は、動力源が魔力なだけで前世の家電やロボットに似ているとエステルは常々不思議に思っていた。


(前世のファンタジーとかSF映画に出てきそうなものも多いのよね。なんでかしら?)


それはこの乙女ゲームが前世日本で作られたからだが、エステルがそれを知ることはない。



書類上の確認が終わったジョゼフがカバンから石板を取り出した。


この石板にエステルの魔力特性が記録されているのだ。


エステルは、ひんやりとした滑らかな感触の石板に両手を当て、魔力を籠めた。


フワッと青い光が生じ、一瞬だけ強く輝いた後に消えた。


これは石板に記録されている特性と一致することを示す。


「はい!確認終了!あなたは確かにエステル・ド・リオンヌ元公爵令嬢です!」


ジョゼフが少しおどけて言った。


「ありがとうございます」


「いや。簡単な手続きだから。それよりもココとミアの養子縁組の手続きの方が難しいよ。君の名前と立場をどうしたらいい?」


ジョゼフは困惑しているようだ。


それも無理はない。


フレデリックの依頼で、ココとミアに関する事務手続きはジョゼフに一任されているからだ。


ココとミアは遺産相続のために一度正式なラファイエット公爵家の令嬢として登録される。魔力特性の登録手続きも最近ジョゼフが行った。


その後の手続きとして、エステルと双子の正式な養子縁組をするようフレデリックはジョゼフに依頼している。


ただ、エステルの立場が微妙だ。


平民なのか?


貴族なのか?


そして、現在いまでは王族なのか?


それぞれの立場によって手続きが変わってくる。


エステルも頭が痛い。自分でもどうなるのか分からないのだ。


「とりあえず・・・ココとミアの相続手続きが終わったら考えましょう。現段階では自分でもどうなるのか分からないの・・・」


エステルは溜息をついた。


「すみません・・・まさかこんな事態になるとは思わず・・・」


小さくなるエステルにジョゼフは慌てて手を振った。


「いや!何も謝る必要はないよ。それにしても、エステルが王女様になるなんてね。ただ、そうなると居酒屋の方はどうする?」


「そうですよね・・・。まず女王陛下に私には荷が重すぎることを説明してみます。それで無理だったら、居酒屋は他の人に任せるようにしなきゃいけませんね・・残念ですけど」


「女王陛下の気は変わらないと思うよ。議会まで招集して発表したということは相当の覚悟だ。正式に王女になったら行動に制限がかかるから、居酒屋に行くなら今のうちの方がいい」


「・・・やっぱりそうですか。分かりました」


エステルの気持ちは晴れない。


自分は女王なんて器ではないし、双子の立場がどうなるかという問題もある。


彼女が一番恐れているのは双子と引き離されることだ。


(でも、フレデリック様は絶対に一緒に居られるようにするって言ってくれた。彼を信じよう!)


フレデリックの言葉を思い出すと心強い。


そのとき・・・




『僕は君が好きだ!』




突然彼からの告白も思い出して、エステルの顔がバフンと赤くなった。

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