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初恋

*本日二話目の投稿です。読んで下さってありがとうございます!


(赤毛というのは聞いていたが、光に透けると金褐色に近くなる。キラキラしてとても綺麗だ)


フレデリックは初めてエステルの素顔を見て嘆息した。


そして左目の下の泣きぼくろを見た瞬間に、彼の記憶は子供の頃に巻き戻った。


**


フレデリックは子供の頃体が弱く、ほとんど外出したことがなかった。


しかし彼が五歳の時に、女王にお目見えするために父親に連れられて王宮にやってきた。


幼い子供には初めて見る巨大な城だけでも圧倒されるだろう。見るものすべてに恐怖を覚えるのも無理はない。


しかも、運悪くその日に自然災害が起こったという知らせが入り、重鎮である父親のラファイエット公爵は急にその対応をしなくてはならなくなった。


フレデリックに「この部屋から動くなよ」と言って出て行った父親はいつまで待っても帰って来ない。退屈になったフレデリックはついふらふらと部屋から離れ、迷子になってしまったのだ。


しかも、フレデリックが王宮の中でウロウロと彷徨っていると、裏庭で騎士のような男と侍女のラブシーンを目撃してしまった。


ガサッと音を立ててしまい


「誰だ!?こんなところで何をやってるんだ!?」


と怒鳴られて、恐怖のあまりフレデリックは逃げ出した。


見知らぬ大人しかいないこの恐ろしい場所でどうしていいか分からずに茂みの陰で蹲って泣くしかなかった。


そのとき


「どうしたの?具合が悪いの?」


と鈴の鳴るような心地よい声が降ってきた。


顔をあげると、光に照らされて金褐色のように輝く髪の美少女がフレデリックを見下ろしていた。左目の下にあるほくろが印象的で、新緑のような瞳が心配そうに彼を見つめている。


「・・・っ!」


ここでは子供は自分だけだと思っていた。


城の大人たちはみんな大きくて怖い。


ようやく優しそうな少女が現れてホッとしたフレデリックはボロボロと涙をこぼした。


「大丈夫?これで涙を拭いて」


と渡されたハンカチには赤と金色の薔薇の刺繍が施されている。


「きれい・・・」


丁寧な刺繍の繊細さに感動して呟くと少女は顔を赤くした。


「あ、ありがとう!贈り物にって刺繍したんだけど『いらない』って言われちゃったの。気に入ったなら、あなたにあげるわ」


こんな美しいハンカチを『いらない』なんて失礼だな、と思いながらも


「え・・そんな・・・いいんですか?・・僕なんかに」


と遠慮するフレデリック。


「いいのよ。気に入ってくれる人に使ってもらいたいわ。」


とニッコリと言われて、ハンカチを握る手に力が入った。


「あ、ありがとう・・・」


「いいのよ。もう大丈夫だからね」


少女の落ち着いた声と堂々とした態度がフレデリックを安心させてくれる。


彼女の温かい笑顔のおかげで涙は乾き、不安で苦しかった胸がフワフワと軽くなった。


「あなた、名前はなんていうの?」


「フレデリック・ラファイエットです」


「ああ、ラファイエット公爵のご令息ね?もう大丈夫よ」


そう笑って少女は護衛らしき騎士に小声で何かを告げた。



実はその少女 = エステルは王宮で多くの迷子を助けた経験があるので手慣れたものである。


毎日のように王宮に通っているエステルと違い、たまにしか来ない王宮で迷子になる貴族の令息や令嬢は想像以上に多いのだ。


しかしフレデリックにとって、堂々と大人の騎士に指示を出し花のように艶やかに微笑む少女は眩しい憧れの存在になった。



その後すぐにフレデリックは父親に保護された。


少女と顔を合わせたのはほんの僅かな時間だったが、彼にとっては衝撃的な出来事だった。


彼は少女からもらったハンカチを決して誰にも触らせずに大切に大切に扱った。


そして、父親に何度もその少女のことを尋ねたが、その度に


「フレデリック、すまない。助けてくれた令嬢のことは分からないんだ」


と言われて泣く泣く少女を探すのを諦めた。


しかし、その時にもらったハンカチを今でも大切に持っている。


大人になって考えると、父親が彼女の素性を知らなかったはずがない。


フレデリックが少女に惹かれていると気がついた父親は『彼女は王太子の婚約者だ』という残酷な現実を息子に告げられなくて、そんな嘘をついたのだろう。


(あの少女が今僕の腕の中にいる)


という奇跡のような幸福感にフレデリックは酔っていた。


しかし、一方で


(エステルはそのことをすっかり忘れている。


当たり前か。


もう十三年も昔の話だ。


彼女に伝えるべき?


・・・ずっと想い続けていたって重すぎるかな?


今でもハンカチを大切にしてるって言ったら


・・・引かれる?)


その想いが重すぎる自覚が(一応は)あるフレデリックは、一人思い悩むのであった。

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