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【3巻発売記念SS】番外編 舞踏会

*8/4『悪役令嬢はシングルマザーになりました3』3巻発売です。ついにエステルが自分は悪役令嬢だと知り覚醒する(?)物語です。番外編も含めて99%書き下ろしの内容になっています!


*ボイコミ(YouTube動画)も良かったら見てください! 詳しくは活動報告に(^^♪

 

*3巻ではジョゼフも活躍します(カッコいい!)。このSSでは恩義を感じたフレデリックが『仕方ないな』としぶしぶエステルとジョゼフのダンスを認めたという背景があります。普通なら絶対に「嫌だ!」と言いそうです(笑)

「エステル王女殿下、俺と踊っていただけませんか?」


 跪きながら手を差し伸べられ、エステルはゆっくりと瞳を瞬かせた。


「フレデリック、構わないかしら?」

「まぁ、彼には世話になったし。一曲だけなら構わないよ。でも、その後は僕としか踊らないでほしいな」

「分かったわ」

「あまりエステルに近づきすぎるなよ」


 エステルの隣にいたフレデリックが一言告げると、ジョゼフは口元を緩ませながら「仰せのままに」と返答した。


 今宵は王宮で開かれる夜会。


 エステル・ド・ラ・ヴァリエール王女の前に跪いているのは、ジョゼフ・ド・メーストル伯爵。優秀な法律家として名を馳せ、若くして未来の宰相と噂される有望な独身貴族だ。高位貴族の令嬢たちは、獲物を狙う鷹のような視線で彼を追っている。


 そのジョゼフが最初に誘った相手がエステルだったことで落胆した令嬢も少なくない。もっともエステルには既に婚約者がいる。だからこそ彼女たちは、二曲目の相手を狙って今か今かと機会を窺っているのだった。


 そんな熱い視線を感じながら、エステルは優雅にジョゼフの腕に手を添えた。余裕の表情のジョゼフはダンスも上手である。


「ものすごい視線を感じるわ。ジョゼフ様はさすが人気者でいらっしゃるわね」

「言わないでくれよ。捕食者に狙われる獲物の気分だ」


 弱り切った表情のジョゼフにエステルは思わず噴き出した。しかし、無言でダンスを続ける。ジョゼフがエステルに好意を持ってくれていたのは知っている。だからこそ何も言葉が出てこなかった。


「エステル、君は幸せかい?」

「ええ。幸せよ。ココとミアと、フレデリックがいてくれるから」

「そうか。それなら良かった」


 ジョゼフは眩しそうにエステルを見つめる。彼の端整な顔が吹っ切れたように明るく緩んだ。


「俺はこれからも良き友人として君たちを支えていくよ」

「ありがとう。ジョゼフ様には学生時代からお世話になってばかりね」

「学生時代は俺のほうがずっと面倒をかけていた。人間関係が苦手だったからな。余計なことを言ってしまい揉め事になった時にはいつも君が助け舟を出してくれた」

「そうだったかしら? ジョゼフ様はいつも理にかなった正論しかおっしゃっていなかったわよ」

「ありがとう。そう言ってもらえると救われる。俺的には黒歴史だったからな」

「ふふ、黒歴史?」

「ああ、例えば……」


 学生時代の思い出話が終わった頃、最初のダンスの曲が終わりを迎えた。


 ジョゼフはエステルの手を取り、フレデリックに向かって「ありがとう、フレデリック。もう心残りはないよ」と陰のない笑顔を向けた。少し仏頂面だったフレデリックの口元も柔らかくなる。


「いや、構わない。エステル、次の曲は僕と。いいかい?」


 背後で令嬢たちがジョゼフへ群がる気配を感じる中、二曲目のダンスが始まった。


「さっきはジョゼフと随分楽しそうに話していたね?」


 フレデリックが少し拗ねた口調で言った。エステルは目をぱちくりさせる。


「え? そうだったかしら?」

「ああ、何を話していたの?」


 優雅に踊りながらもフレデリックは真剣なまなざしで尋ねた。


「学生時代の話とか……昔話が多かったわね」

「そうか」


 フレデリックの表情が曇った。


「僕は学校に行ったことがないから……羨ましいな」


 幼少期は体が弱く、容姿や家柄が良いため年上の令嬢たちから婚約相手として狙われ、襲われかけた経験すらあるフレデリックを心配した父親の先代ラファイエット公爵は、彼を学校には通わせなかった。


「ごめんなさい」

「いや、君が謝ることは何もないよ」


 フレデリックは微笑むが、少し寂しそうに見える。


「だからエステルの学院時代の話や前世での学校の話はとても面白い。もっと聞かせてほしいよ」


 フレデリックの表情に無理している様子はなかったので、エステルは前世の高校の話をすることにした。


「私が通っていた前世の高校…えっと高等学校はとても古くて伝統があってね」

「そうか」

「創立されて百五十年も経つ学校だったの」

「百五十年か」

「ええ。それで古くなった校舎を建て直すために取り壊したら、下から武家屋敷……えーっと、古い時代の歴史的な建造物が出てきたの」

「へぇ」

「考古学者が研究する時間が必要だからって新校舎の建築が大幅に遅れてね。学生時代のほとんどを仮校舎で過ごしたのよ。廃校になった小学校、えーっと、幼年学校みたいなところを借りて校庭にプレハブ……えっと、一時的な建物を建ててね。水飲み場とかみんな小さくて高校生の私たちには使いにくかったわ」

「幼年学校? 君たちの世界では何歳から学校に通うんだい?」

「えっとね、大体六歳で入学して……」


 前世日本の学校制度を説明している最中に二曲目の音楽が終わる。


「次の曲も僕と……」


 言いかけたフレデリックが口を閉じた。


「ごめん。二曲連続で踊ったんだから疲れているよね。休憩しよう。飲み物を持ってくるから、バルコニーの外で待っていてくれる?」


 言わなくても理解してくれるフレデリックの勘の良さにエステルは感謝した。最近、こういうことが多い。


(以心伝心、っていうのかな? 黙っていても気持ちが伝わるから助かるわ)


 エステルはそっと扉を開けてバルコニーに出る。夜のひんやりとした空気がダンスで火照った体に気持ちいい。


「あの……」


 誰もいないと思っていたのに突然背後から声をかけられて、エステルの肩が驚きで揺れた。振り返ると十代半ばくらいの若い男性がエステルの後を追ってバルコニーに出てきたようだ。短髪のプラチナブロンドの青年が熱心にエステルを見つめている。


「はい、なんでしょうか?」


 無礼にならない程度に素っ気なく返事をすると青年の頬が紅潮した。


「あの、エステル王女殿下、ですよね?」

「はい?」

「実はずっとお会いしたかったのです。ずっとずっとお慕い申し上げておりました……」


(え!? ま、まさか愛の告白!?)


「ご、ごめんなさい」

「エステル王女殿下の婚約者の……」


 謝りながら動揺するエステルだったが、不意に力強い腕に肩を抱き寄せられた。


「エステル王女殿下は僕の婚約者だ!」


フレデリックが器用に片手で二つのグラスを持ったまま、もう片方の手でエステルの肩を抱き寄せている。


「フレデリック!」

「遅くなってごめん。君を一人にするとすぐに男が寄ってくる。まったく油断も隙もない」


 険しい目つきで青年を睨みつけるフレデリック。しかし、その青年は恐縮するどころかますます瞳を輝かせた。


「ああ! ずっとお慕い申し上げておりました! フレデリック様!」


 青年が叫び、エステルとフレデリックの目は点になる。フレデリックは持っていたグラスを手近なテーブルに置き、指で眉間を揉みながら口を開いた。


「ちょっと待ってくれ。今聞き捨てならない言葉を聞いたのだが」

「はい! ずっとお慕いしております」

「誰が?」

「私が」

「誰を?」

「フレデリック・ラファイエット公爵閣下を!」

「君は誰だ?」

「あ、自己紹介が遅れて申し訳ありません」


 キラキラした瞳は相変わらずだが、優雅に会釈をする姿は堂に入っている。


「私はポール・デュボアと申します。デュボア伯爵家の次男です。私は体が弱く、親が心配性で学校に行かせてもらえないのです。ずっと自邸で家庭教師に教えてもらっています。あなたと同じです!」

「あ、ああ」


 フレデリックはすっかり毒気を抜かれて呆然とポールの話を聞いている。


「学校に行かないとひとかどの人間になれないのではないか?と私はずっと不安に思っていました。しかし、フレデリック様も学校に通わず、貴族社会で友人が少ないのにご立派に出世なされ、王女殿下と婚約するという偉業を成し遂げられました! あなたは私の目標です!」

「お、おお」


 何と答えて良いのか分からないフレデリック。


「それに自分の髪色はフレデリック様と似ています。ずっと兄のようだとお慕い申し上げておりました! ぜひお友達になってください。私も友人が少ないのです」

「いや、勝手に友達が少ないって想定されても……」


 フレデリックは不満そうにぶつぶつ呟いていたが、エステルがぷっと噴き出してクスクス笑い出したので、つられて口角が上がる。


「そうだな。王宮でまた話をする機会もあるだろう。今は愛おしい婚約者との大切な時間だ。二人きりにしてくれないか?」

「も、もちろんです! お邪魔して大変申し訳ありませんでした!」


 エステルの首筋に唇を寄せるフレデリックの色気に当てられて、まだ若いポールは真っ赤な顔であたふたとバルコニーから出ていった。


「まったく!」


 大きくため息をつくフレデリックと対照的にエステルはまだくすくす笑っている。


「悪い方じゃないと思うわ。お友達になってさしあげたら?」

「仕方ないな。学校に行かないと友人は作りにくい。それは事実だから」


 コホンと照れ隠しのように咳払いしたフレデリックはグラスのワインを一気に飲み干した。


「本音を言うと、君さえいてくれれば僕は友人なんていらないんだけど」


 月を反射して青く光る瞳に吸い込まれそうだ、と思いながらエステルの頬が熱くなる。


「お友達は多いほうがいいですわ。信頼できる方ならば」

「そうかい?」

「年下のご友人と談笑するフレデリック、というのも新鮮で嬉しいかも」

「惚れなおす?」

「惚れっ……!」


 赤くなりながらエステルは「はい」と小さく頷いた。


「それならいいや」


 フレデリックはエステルを思いっきり抱きしめた。


*『悪役令嬢はシングルマザーになりました3』は、番外編も含め99%書き下ろしです。1%の部分は【初夜編】です。なろうの番外編でも投稿した作品を加筆修正して掲載させていただきました。


*完全書き下ろしの本編では、エステルがついに自分が悪役令嬢だと自覚します。双葉はづき先生が描いてくださった『悪役に覚醒したエステル』がもう最高に妖しい美しさで、ラフを拝見した時点でぞくぞくと鳥肌が立ちました! 王宮での勢力争いに巻き込まれピンチに陥るエステルの逆転劇! 多くの方に読んでいただけたら嬉しいです!

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