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【コミック2巻発売記念】番外編 ココとミアの社交デビュー

*本日(6/30)『悪役令嬢はシングルマザーになりました』コミック2巻が発売になりました!星川きづき先生の作画が素晴らしく、とても素敵な作品にしていただきました(#^^#) 発売記念の短編です!


*SSにするつもりが、気がついたら9000字超えていました(;^ω^) はっきり言って長いです。すみません…

「本当に大丈夫?」

「「だいじょうぶよ~!」」

「私が付き添い(シャペロン)を務めさせていただきますのでご安心ください」


 礼儀作法マナーの家庭教師が胸を叩く。


 ココとミアは明るい笑顔で手を振りながら馬車へ乗り込み、そのまま元気よく出発していった。


 しかし、二人を見送るエステルの表情は晴れない。


「……いじめられたりするんじゃないかしら?」


 心配そうに頬へ手を当てるエステルに、フレデリックは苦笑した。


 双子のココとミアがラファイエット公爵邸へ移り住み、正式に公爵家の令嬢であることが公表されると、屋敷には数多くの招待状が届くようになった。


 ほとんどは貴族たちのお茶会への招待だったが、中にはあからさまに縁談を意識したものもあり、エステルとフレデリックは丁重に断り続けていた。


 そんな中、礼儀作法の家庭教師から「実際に社交の場へ出たほうが良い経験になります」と勧められ、双子がお茶会への参加を希望したのである。


(礼儀作法は教えてきたけれど、貴族令嬢同士の腹の探り合いなんて経験はさせてこなかったもの。平民として生きるなら必要のないことだったし)


 エステルはココとミアの将来について真剣に考えていた。


 このまま公爵令嬢として生きるのか、それとも平民としての暮らしを選ぶのか。


 どちらを選ぶにせよ、後悔のないようにしてほしい。


「どちらの道も選べるようにしておけばいいんじゃないか?」


 そう言ったのはフレデリックだった。


「貴族令嬢との社交も経験しておけばいい。成長して平民の生活がいいと思ったらそうすればいいし、公爵令嬢として生きたいと思ったらそれも選べる。選択肢は多いほうがいいだろう?」


 その言葉に納得し、お茶会への参加を認めたエステルだったが……いざ送り出してみると不安は尽きなかった。


(ココとミアは賢いし逞しいから簡単にいじめられることはないと思うけど無視されたり嫌味を言われたりしたら……? 人の悪意に慣れていない分、傷ついてしまうかもしれないわ)


 そんな母親らしい心配をしていると、フレデリックが悪戯っぽく笑った。


「こっそり様子を見に行ってみる?」

「えっ!? そんなこと可能なのですか?」

「今日のお茶会はハミルトン伯爵家だ。ラファイエット公爵家とは代々親交があるから、多少の融通は利かせてもらえるんだよ」


 どのお茶会に出席するかは、事前にフレデリックと相談して決めていた。


 ハミルトン伯爵は穏やかな人柄で知られ、悪い評判も聞かない。


 だからこそ参加を許したのだが、こっそり様子を窺えるのならそれに越したことはない。


 少し罪悪感を覚えながらもエステルはおずおずとフレデリックを見上げた。


「いいのかしら?」

「もちろん!」


      ***


 ハミルトン伯爵家では、当主自らがエステルとフレデリックを出迎えてくれた。


「謎に包まれた深窓のご令嬢、ココ様とミア様が当家のお茶会にご出席くださり大変光栄に思っております」

「こちらこそ二人を招待していただき、ありがとうございます」


 エステルがお辞儀をすると、ハミルトン伯爵は穏やかに微笑んだ。


 年齢相応の皺が目元に柔らかな弧を描いている。その人柄の良さがにじみ出るような笑顔だった。


「何しろ、ラファイエット公爵家先代の落としだねが見つかったという知らせは、社交界に大きな衝撃を与えましたからね。しかも双子のお嬢様方が初めて出席されるお茶会です。大変な注目を集めているようです」


 そこで伯爵は少し困ったように苦笑した。


「普段なら格下の貴族のお茶会には顔を出さないカイエ侯爵家のミレーユ嬢まで出席されていますし」

「カイエ侯爵家の?」


 それまで黙っていたフレデリックの眉がぴくりと動く。


「ミレーユ嬢はなかなか勝気なご令嬢だと聞いていますが」


 彼の言葉にハミルトン伯爵はさらに苦笑を深めた。


「我が娘アデルにはココ様とミア様に失礼のないよう、よく言い聞かせております。アデルは十二歳、ミレーユ嬢も同じ年齢です。年下の令嬢に意地悪をするような愚かな真似はしないと思いますが……」

「なるほど。様子を見に来て正解だったかもしれないな」


 フレデリックが真顔で頷く。ハミルトン伯爵は思わず目を瞬かせた。


「それほど大切なお嬢様方なのですね」

「ええ、その通りです。もし彼女たちが傷つけられるようなことがあれば、ラファイエット公爵家が総力を挙げて……」


 そこでフレデリックは咳払いをした。


「……こほん。いえ、何でもありません」


 ハミルトン伯爵の顔がわずかに引きつっていたからだ。


「ええと、お茶会は中庭で開かれております。こちらの部屋からでしたら様子がよく見えますので、どうぞこちらへ」


 案内された部屋の窓からは中庭の様子が一望できた。手入れの行き届いた庭園の中央にはテーブルと椅子が並べられ、令嬢たちが集まっているのが見える。


「今日は天気も良いですし、外から部屋の中は見えにくいでしょう。こちらでお茶会が終わるまでお待ちください。後ほどお茶もお持ちいたしますので」

「ありがとうございます」


 エステルとフレデリックは礼を述べ、窓際に用意された椅子へ腰を下ろした。


      ◇◇◇


「ママとフレデリック、しんぱいそうだったね」

「しかたないよ。あたしたちのはじめてのお茶会だもの」

「ココ様、『あたし』は厳禁ですよ」


 ハミルトン伯爵家に向かう馬車の中で、付き添い(シャペロン)を務める礼儀作法の家庭教師が注意するとココは表情を引き締めて「もうしわけありません。気をつけます」と会釈をした。


「よろしい。お二人ともその気になれば淑女としてのふるまいは完璧ですから」

「「はい」」


 ココとミアが上品な微笑みを浮かべると家庭教師は満足そうに頷いた。


      ***


「いらっしゃいませ! お待ちしておりましたわ」


 ハミルトン伯爵家で出迎えてくれたのはアデル・ハミルトン嬢だ。栗色の髪色に薄茶色の瞳、落ち着いた物腰の令嬢である。優しそうなお姉さんの登場にココとミアの緊張が解けた。


「「おまねきいただいて、ありがとうございます」」


 二人揃って綺麗な膝折礼カーテシーを見せるとアデルだけでなく周囲の使用人も感心したように目を見開いた。


「こちらこそラファイエット公爵家のお嬢様をお迎えできるなんてハミルトン伯爵家の誉れですわ。お越しいただいてありがとうございます」


 アデルと双子は顔を見合わせてにっこりと笑うと、連れだって茶会の会場である中庭へと向かった。


      ***


 バサッバサッ


 ココとミアは好奇心旺盛だが、淑女として歩きながらきょろきょろしてはいけないと学んでいる。しかし、突然大きな羽音がして思わずそちらを振り返ると頭上スレスレを二羽の鳥が掠めていった。


「ああ、ごめんなさい。この屋敷には木が多いし、背後に森もあるので野鳥が多いのですわ」


 アデルが説明している間にも、二羽の黒い鳥がもつれるように争いながら飛んでいく。


「今の時期はその……」


 赤くなってうつむくアデルにミアが思わず口を挟んだ。


「はんしょくきの鳥はこうげきてきになるものです」

「まぁ、小さくていらっしゃるのに難しい言葉をご存じなのですね」


 アデルが感心すると、背後にいた家庭教師がドヤ顔をしながら胸を張った。


 中庭にはすでに令嬢たちが集まっていた。いずれもココとミアよりかなり年上の少女たちである。


「皆さま、こちらがラファイエット公爵家のココ様とミア様ですわ!」


 高らかにアデルが宣言すると令嬢たちが一斉に頭を下げた。


「はじめまして、ココです」

「はじめまして、ミアです」


 二人の愛らしい挨拶に周囲からは早くも賞賛の空気が広がる。


「ラファイエット公爵家のお嬢さまとご一緒できるなんて光栄ですわ!」

「どうかこれからは〇〇伯爵家とも懇意にしていただいて」

「はじめまして。〇〇子爵家の……」


表面上はにこやかでありながら、どこか探り合うような貴族特有の空気が漂っていた。ココとミアは、こっそりと目配せを交わす。


(油断しちゃだめ)


 言葉にしなくても互いの意思が通じ合うのは双子のいいところだ。


「皆さま! おどきになって!」


 甲高い声がして、ずいっと前に出てきたのは金髪碧眼の大柄な令嬢だ。金色の髪によく似合う鮮やかな青い髪飾りをしている。


「わたくしはミレーユ・カイエ。カイエ侯爵の次女でございます。はじめまして。お会いできるのを楽しみにしておりましたわ。さ、ココ様とミア様はわたくしの隣にどうぞ」

「申し訳ありません、ミレーユ様」


 その時、アデルが穏やかに割って入った。


「慣例通り、主賓のココ様とミア様は主催者である私の左隣、次に身分の高いミレーユ様が右隣、とさせていただけますか?」


 アデルが説明するとミレーユの目じりが吊り上がった。この場で最も高位の貴族は公爵家令嬢であるココとミア。次が侯爵令嬢のミレーユである。


「なんですって! 格下の伯爵家がわたくしに指図……」

「その通りですわ」


 ミレーユの言葉をココとミアの家庭教師がさりげなく遮った。


「それが正しい茶会の作法でございますね」


 にこやかな圧に押され、ミレーユは唇を噛みながらも席に着いた。そして面白くなさそうに髪につけていた青い髪飾りを手に取ると、苛々した様子でそれをこねくり始めた。


 ココとミアも席につき、アデルや他の令嬢たちとの歓談を楽しみ始める。


「失礼いたします」


 ハミルトン伯爵家の侍女たちが次々と茶器を運び込み、手際よく令嬢たちにお茶を注いでいく。


 やがてバターの香り豊かな焼き菓子や繊細に飾りつけられたケーキも運ばれてきた。


「どれもとてもおいしいです。お茶の香りもすばらしいですね」


 ココが微笑みながら感想を伝えると、アデルは少し照れたように頬を染めた。


「ラファイエット公爵家のココ様にそう言っていただけると嬉しいですわ。公爵家のお食事やお茶は素晴らしいと評判ですもの」

「そんなふうにおっしゃっていただけて光栄です」


 ココは嬉しそうに微笑み返した。初めてのお茶会とは思えないほど、ココとミアの立ち居振る舞いは落ち着いている。


 言葉遣いも所作も非の打ちどころがなく、まるで幼い頃から社交界で育ってきた令嬢のようだった。


 二人の背後に控える家庭教師はその様子を見守りながら満足そうに口元を緩めた。


「なによ! 我が家のお茶会の方がもっとずっと豪華だわ!」


 アデルの右隣に座るミレーユが鼻を鳴らしながら言った。


 その言葉に背後で控えていた家庭教師がわずかに眉をひそめる。


「もちろんカイエ侯爵家にはかないませんわ」


 アデルは表情を崩さず穏やかに微笑んだ。


「お口に合いませんでしたら申し訳ございません」


 嫌味を向けられても取り乱さない対応に、周囲の令嬢たちはほっとしたような表情を浮かべる。一方のミレーユはまだ面白くなさそうに唇を尖らせていた。


 ココとミアはそんなやり取りを黙って見守っている。口は挟まないが、二人ともアデルの落ち着いた対応に感心していた。


「大体、この屋敷は田舎っぽくて嫌ですわ。木ばかり多くて興ざめですし。さっきも変な鳥に襲われかけましたのよ!」

「それは大変申し訳ありませんでした」


 アデルが素直に頭を下げているのに、ミレーユは気が済まない様子でさらに言い募る。


「今だって、ほら! 鳥が食べ物を盗んだわ!」


 実際には、鳥がテーブルの端にこぼれたパン屑をくわえて飛び去っただけだった。


「なんて失礼なの! 客人がいるのにあんな汚い野鳥を平気でテーブルに来させるなんて!」

「あ、あの……申し訳ございません」


アデルの顔色がわずかに青ざめる。


「まったく! こんな茶会、来なければよかったですわ」


 ミレーユの罵倒が続き、アデルの顔が泣きそうに歪む。


 ムッとしたココとミアが何か言おうとする前に、家庭教師が静かに口を開いた。


「僭越ながら申し上げます。ヴァリエール王国では伝統的に茶会の席に鳥が舞い降りることを吉兆の印だと考えております。特に八代目王妃陛下は鳥を大変好まれて茶会の席でも飼っていた鸚鵡を同席させるほどでした。たとえ野鳥であったとしても茶会に鳥が来ることは非礼ではございませんよ」

「な、なんですの? それくらい知っていますわ」


 穏やかながら揺るがない声音に、ミレーユは言葉を詰まらせた。家庭教師がラファイエット公爵家の付き添い(シャペロン)であることは覚えていたのだろう。それ以上は口ごたえをせずに黙々と菓子をほおばり始めた。


 茶会は再び令嬢たちの楽しげな笑い声に満ちるようになった。内心はともかくアデルと双子も笑顔で歓談を続ける。


 しかしその平穏は突然破られた。


「あら⁉ わたくしの髪飾りがないわ!」


 ずっと面白くなさそうに黙っていたミレーユが突然大声をあげたのだ。


「どうなさいましたか?」


 アデルが慌ててミレーユに向き合うと、ミレーユはテーブルの下を覗き込んだり、テーブルの茶器を持ち上げたりして何かを探している。


「かみかざり?」

「青いリボンのついた?」


 ココとミアの質問にミレーユは泣きそうな顔で訴えた。


「お父さまに買ってもらったばかりなの。さっきテーブルのここに置いておいたのに……」


 ミレーユが髪飾りを手に持っていたのはココとミアも覚えている。


「テーブルの下にも落ちていないみたいで」

「皆さま、どうか青いリボンのついた髪飾りを探してください!」


 アデルの声に令嬢たちは全員立ち上がり、テーブルの下や茶器の下を覗き込む。しかし、ミレーユの髪飾りはどこにも見つからなかった。


「まったく! どうなっているのよ!」


 ミレーユが地団太を踏む中、ハミルトン伯爵家の使用人達も慌ただしくミレーユの髪飾りの捜索を始めた。


 しかし、どこを探しても見つからない。


 苛立ったミレーユはアデルに向かって怒鳴りつけた。


「きっとハミルトン家の使用人が盗んだに違いありませんわ!」

「そんなはずはありません! 我が家の使用人は全員信用できる正直者です!」


 アデルの顔が怒りで真っ赤になる。


「だって、そうとしか考えられませんわ! ここにいる誰かが盗んだのよ!」


 その時、騒ぎを聞きつけたハミルトン伯爵が足早にやって来た。


「ミレーユ嬢、話は伺いました。お茶会の最中に髪飾りがなくなったそうですね?」

「なくなった、じゃありませんわ! 盗まれたのよ! どうしてくださるの!?」


 ミレーユは伯爵に詰め寄る。しかし、証拠もないまま盗難と決めつけられては、ハミルトン伯爵としても返答に窮するしかない。重苦しい空気を破るように、ココとミアがすっと前へ出た。


「なんのこんきょもなく人をうたがってはいけません」

「な、なんですの。だって他に考えられませんわ! わたくしが髪飾りを手に持っていたのは覚えていらっしゃるでしょう?」


 身長が肩にも届かない年下のココに言われて、ミレーユは口をとがらせて反論する。ミアも口を開いた。


「たいせつな物がなくなってあわてるのはわかります。でも、むやみに人をせめてはいけません。おちついてください」

「うっ……」


 自分より高位の貴族である双子に諭されてミレーユは言葉に詰まった。ハミルトン伯爵が軽く会釈をして謝意を伝える。しかし、次にミアの口から飛び出した言葉にその場にいた全員が呆気に取られた。


「あの、かみかざりを持っていった犯人がわかるかもしれません」

「何ですって⁉」


 ミレーユが勢いよく顔を上げる。


「いくら公爵家のご令嬢だからといって、いい加減なことを言わないでください!」


 ミレーユの顔が苛立ちに歪むが、ココもミアもまったく怯まない。


「いいかげんではありません。紙とペンをかしていただけませんか?」


 ハミルトン伯爵は何も言わずに頷き、使用人へ合図を送る。すぐに紙とペンが運ばれてきた。


「ココはとても絵がじょうずなのです」


 ミアと目を合わせた後、ココはペンを手に取った。迷いのない筆致で紙の上を走らせていく。幼い少女が描いているとは思えない確かな線に、周囲の大人たちから感嘆の声が漏れた。


 やがて描き上がったのは、一羽の黒い鳥だった。全体はカラスに似ているが、丸みを帯びた体つきでずんぐりしている。


「羽根の色は青みがかっています。この鳥をしっているかたはいますか?」


 ミアが絵を見せると使用人の一人が声をあげた。


「この辺でよく見かける野鳥です! 庭師なら詳しいかもしれません」


 すぐに庭師が呼ばれてきた。突然呼び出されたためか、何事だろうという不安そうな表情を浮かべている。


「あの、この鳥の巣がどこにあるか、わかりませんか?」


 ミアの質問に、庭師は目をぱちくりと瞬かせた。だが、すぐに穏やかな笑みを浮かべる。


「はい、お嬢様、分かりますよ。ご案内しましょうか?」

「「おねがいします!」」


 ココとミアが声をそろえる。周囲の人々は事情が飲み込めず困惑していたものの、双子の真剣な様子に何か理由があるのだろうと感じたのか、誰も反対しなかった。


 こうして一同は庭師の後に続いて庭の奥へと向かうことになった。


      ***


「こちらです」


 庭師が指し示したのは、大きな木の根元だった。小枝や藁が丁寧に組まれ、その周囲には数え切れないほどの青い物が並べられている。


 その光景を目にした瞬間、一同は思わず息を呑んだ。


 青い花びら、青いカップ、青いガラスの欠片、青い陶片……。青色だけを集めて飾り立てた芸術作品のようだった。


「な、なにこれ……」


 ふくれっ面のままついてきたミレーユも、さすがに目を丸くする。


「あっ、ほら! あった!」


 ココが思わず普段の口調に戻り、巣へ駆け寄った。そして青い物の中から見覚えのある髪飾りを拾い上げる。


「あっ! わたくしの髪飾り!」


 ミレーユが目を見開いた。


「どうしてこんなところに? それに、どうして青い物ばかり……?」

「アオアズマヤドリという鳥のしゅうせいなのです」


 ミアが一歩前へ出て説明する。


 アオアズマヤドリのオスは、メスを惹きつけるために小枝などで巣を作り、その周りを青い花や木の実、鮮やかな青色の物で徹底的に飾りつけるという独特の習性がある。


東屋あずまや』という言葉が名前に入っているのもそのためだ。


「さきほど、アオアズマヤドリのオスが争っているのを見かけました。今ははんしょくきです。巣づくりのきせつでもあります」


そしてミレーユの髪飾りを見る。


「青いリボンがついていましたから、この鳥が気にいって持っていったのではないかとおもいました」


 幼い少女とは思えない筋道立った説明に、その場の大人たちは感心したように顔を見合わせた。


 ハミルトン伯爵も感銘を受けた様子で深く頷く。


「お見事です。ココ様の観察力も、ミア様の推理も素晴らしい」


 そして穏やかな笑みを浮かべながらミレーユへ視線を向けた。


「これで一件落着、ということでよろしいでしょうか? ミレーユ嬢」

「……まぁ、仕方がありませんわね」


 ミレーユは気まずそうに頷いた。


 しかし、ココとミアはそこで終わらせなかった。


「ミレーユさまは、理由もなく人をうたがったことをおわびするべきです」

「しつれいなことをしたのですから」

「わ、わたくしは侯爵令嬢ですのよ」


ミレーユは思わず声を上げた。だが、ココとミアは一歩も引かない。


「たとえ身分がたかくても、まちがったらあやまることが大切だとならいました」

「それがきぞくとしての品格だそうです」


 真っ直ぐな言葉にミレーユは返す言葉を失った。


 しばらく唇を噛みしめていたが、やがて観念したように肩を落とす。


「……申し訳ありませんでした」


 ミレーユはハミルトン伯爵とアデル、そして使用人たちへ向かって深く頭を下げた。


「使用人の方々を疑ってしまいました。失礼なことを言ってしまい申し訳ありません」


 その瞬間、張り詰めていた空気がふっと和らいだ。


「わるいことをしたあと、ちゃんとあやまれる人はすてきです!」


 ココがにっこりと微笑んだ。その言葉にその場の誰もが自然と笑顔になる。


「ミレーユ様、どうかお気になさらないでくださいまし」


 アデルが優しく声をかける。


「さあ、中庭へ戻ってお茶会を再開しましょう」

「あ、ありがとうございます」


 ミレーユは少し照れたように頷いた。


 先ほどまでの尊大な態度はどこかへ消えていた。


      ◇◇◇


「それでね! アオアズマヤドリの巣のなかで、かみかざりを見つけたのよ!」

「まぁ、そうなの! 無事に見つかって良かったわね」


 エステルが嬉しそうに相槌を打つ。


 ココとミアは身振り手振りを交えながら、今日のお茶会であった出来事を生き生きと語ってくれた。二人とも鳥や動植物が大好きなので、幼い頃から森を散策してはいろいろなことを教えてきた。


 エステルとフレデリックは、ハミルトン伯爵邸でお茶会の様子を見守っていたことを秘密にしている。


 騒ぎが起こったとき、事情を知った二人は心配のあまり飛び出していきたくてたまらなかった。だが、ココもミアも自分たちの考えをしっかりと貫いた。


(この子たちも成長しているのね。もう、私があれこれ心配する必要はないのかもしれないわ)


 付き添いとして同行した家庭教師も、二人の振る舞いは立派だったと褒めていた。


「それでね、アデルさまだけじゃなくて、ミレーユさまとも仲よくなったのよ」

「またいっしょにお茶を飲みましょうね、って言われたの。かみかざりを見つけてくれてありがとうって」


 楽しそうにお茶会の話を続けるココとミア。その輝くような笑顔を見つめながら、エステルは胸の奥から安堵が広がるのを感じていた。


(本当に、自慢の娘たちだわ)


 エステルはそっとフレデリックと視線を交わす。


 同じ思いを抱いているのだろう。フレデリックもまた誇らしげに微笑んでいた。


*アオアズマヤドリの巣をオーストラリアで実際に見たことがあります。鮮やかな青が広がり美しくてとても驚きました。その中に青いリボンが混じっていたのを思い出しつつ書いた短編です。

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