ぬくもりに呼ばれて
ガタン、ゴトン……
私たちは今、電車に揺られながら三つ隣の町__自身の出身地へ向かっている。
異形が意味深にのこしていった母子手帳。持ち主は、川橋咲良。メイの母親だ。
私たちはお互い、することもない浪々の身。せっかく気になったことを追求できるのだから、異形の正体を突き止めようと、母子手帳に名前のあった産婦人科へ向かい、担当医らしき人物「一条太一」に話を聞くことにしたのだ。
車窓の外を、昔見た町並みが流れていく。
隣の席では、メイが母子手帳を両手で抱えたまま、静かに窓の外を眺めている。
自然と、乗客たちは私たちを避けて座る。正確には、私を避けているのだろう。
昔はよく通報されていたものだが、最近は「こいつは捕まらないんだ」と気づき始めたのかそんなこともなくなりつつある。
結果的に快適になってしまった電車の旅も、終わりが近づいてきていた。
「ねえ、マイちゃん。」
メイが服の裾を軽く引っ張って言った。
「ふしぎだよね。わたし、流産の予定だったみたいなのに。」
「そうらしいね……。で、急に正常……っていうか、めきめきと成長しだしたと。」
母子手帳に書かれていたメイの記録は、はっきり言って異常だった。
あまり詳しくないため、メイに教わった知識なのだが。通常、メイは22週目までには死んでしまう……流産の可能性が極めて高い状態だったらしい。
しかし、20週目あたりから急に成長速度が速まっている。そして、出産時には健康な数値をもって生まれてきていた。
そのかわり、備考欄にはこう書かれていた。
「妊産婦死亡」
「次はぁ~、……駅ぃ~、……駅ぃ~。お出口は……」
「メイ、この駅で合ってる?」
「うん、だって、ほら。」
メイは車窓の向こうを指さす。見ると、そこには母子手帳に書かれたものと同じ名前の看板があった。
電車を降り、改札を通って外へ出る。どこか懐かしい、故郷の匂いが鼻をくすぐる。
歩いて数分もしないうちに、目的の産婦人科へとたどり着く。
「あれ、そういえばマイちゃん。わたしたち、どうやってママのこと聞くの?」
すこし不安そうにメイが訊く。
私は「任せてって。」とウインクすると、病院らしいガラス戸を蹴り開け叫んだ。
「一条太一って医者に心当たりがあるやつはいない!?」
静かだったであろう院内は、一転してパニックに陥る。
立ちあがる患者、うろたえる看護師。
「ちょ、マイちゃん……!そんな乱暴にしなくても……!」
予想外だったのか、メイまでも驚いているようだ。
「ちょっとちょっと、いったい何の騒ぎなの!?」
廊下の奥から、恰幅のいい看護師が現れる。そこまで事態を深刻には受け止めていなさそうだったが、私の顔を見るなり顔色を青く変えた。
「あなた、連続大量殺人の……!!」
「看護師長っぽい感じだけど、アンタ、役職は?」
「ひっ!こ、来ないで!」
体格差のある相手だったが、長年の殺しの経験から得た身こなしで押し倒し、ナイフを突きつけながら尋ねる。
「一条太一って医者に心当たりは?」
青ざめた顔のまま震える看護師。
わずかにナイフを首に食い込ませると、あまりの恐怖に耐え切れなかったのか、「きゃああ!!!」と甲高い悲鳴をあげた。
病院関係者とみられる人々が徐々に集まり、さすまたをもってこちらに向けている。
「あーもう、面倒だなぁ……!」
こうなってしまっては、自身の運の強さに賭けるしかない。
できる限り弱そうな職員に向かって突撃する。あわててさすまたを突き出す職員。しかし、そのさすまたは音を立てて折れてしまう。
しめた。これは運が私に味方している。
思い、勢いそのまま職員の首を掻っ切る。あふれ出る鮮血。いつもならゆっくりと鑑賞するところだが、そうもしていられない。
目の前で人が殺されている状況。当然のように、冷静さを欠いていく人々。
ある者は私を捕えようと襲い掛かる。その者は数秒ののち、まともな抵抗すらできずに床へ転がることになった。
またある者は、理解が追い付かないといったように入口付近で棒立ちのメイに逃げるよう促す。これはしばらくしないうちにアイツも死ぬな、などと考えていると、先ほどの看護師が叫んだ。
「一条先生は院長室で休憩中よ!わかったら早く出て行って!!」
私は振り返り、まだ入口付近で固まっているメイに視線を送り言った。
「ね、簡単でしょ?」




