第1話 塩で除霊する男
除霊師になったばかりの男
四六死苦 魁斗18歳。
初心者マークをもって参上
「( `・∀・´)ノヨロシク」
たまに失敗する。
いや結構失敗する。
でもなぜか、結果オーライになる。
今日の依頼は「娘に悪霊が取りついた」という洋館。
大豪邸の重厚な扉。
軋む床。
いかにも“出ます”な雰囲気。
依頼主の父親が不安そうに言う。
「……本当に、大丈夫なんですか?」
魁斗は胸を張った。
「任せてください!悪霊には塩です!」
「いや、それ日本の幽霊の話じゃないか!?」
「塩分は大体の霊に効きます!」
「雑すぎるだろ理論が!!」
ぜんぜん聞いてない。
その時。
ギィィ……
二階から娘が降りてきた。
目は虚ろ。
首がカクン、と曲がる。
「……娘の身体は、もらった」
低く、重い声。
父親が震える。
「で、出た……!」
魁斗は構える。
「来ましたね……!」
取り出したのは――
業務用サイズの塩袋。
「多すぎるだろ!!!」
魁斗、全力でぶちまける。
「塩分多め!地中海のソルト攻撃!!」
ザバァァァ!!
床一面、真っ白。
悪霊「……効かんわ!!」
父親「だろうな!!」
魁斗、焦る。
「くっ……ならばこれだ!」
取り出したのは
いびつな白い十字架。
よく見るとザラザラしている。
父親「まさかそれ……」
魁斗「塩を固めた十字架です!」
父親「意味がわからない!!!」
悪霊が笑う。
「そんなもので――」
魁斗、ドヤ顔。
「これを作るのに徹夜で頑張ったんだ!」
父親「努力の方向おかしい!!」
魁斗、突撃。
「くらえ!!ソルトクロス!!」
ガツン!!
悪霊「意味わかんねぇけど――」
ジュゥゥゥ……
悪霊「浄化されてくううううう!!!???」
父親「効くんかい!!!」
バタリ。
娘がその場に倒れる。
しばらくして――
「……あれ?私……」
父親「無事か!!」
娘は普通に戻っていた。
魁斗は満足そうに頷く。
「やっぱり塩分は正義ですね」
父親「いやもう何が正義かわからん」
魁斗はメモを取る。
・塩は効く
・量は大事
・見た目も大事(十字架っぽいと強い)」
通りすがりの先輩除霊師がつぶやく。
「……あいつ、たぶん理屈じゃなくて気合いで祓ってるな」
帰り道。
魁斗はドヤ顔で語る。
「やっぱり塩分は万能ですね」
その時、背後の空気が歪んだ。
ビキッ……!
振り向くと、そこにいたのは――
巨大な“水の悪霊”
全身が濁った水でできている。
「……我は“渇き”を喰らう者」
父親「なんで、まだいるんだよ!!!」
水の悪霊が笑う。
「塩など……我には無意味――」
魁斗、ニヤリ。
「それはどうですかね?」
リュックから取り出す。
さっきの残りの地中海の塩(業務用)
父親「やめとけ!!!」
魁斗、全力でぶちまける。
「超濃縮!ソルトストーム!!!」
ザァァァァァ!!
水の悪霊「な……やめ――」
ジュワァァァァ!!
どんどん濃くなる水。
ドロドロに変質していく。
水の悪霊、絶叫。
「しょっぱすぎィィィィィ!!!」
「無理!!!無理無理無理!!!」
「浸透圧がァァァァァ!!!」
バシャァァァン!!!
完全消滅。
静寂。
父親「……」
魁斗「……」
魁斗、メモを取る。
・水系には塩めちゃ効く
・しょっぱすぎると悪霊は死ぬ
父親「当たり前だろ!!!」
その時、遠くで別の声がした。
「……我は“渇き”を喰らう者」
父親「まだいるのかよ!!!」
魁斗「え、さっき倒しましたよね!?」
振り向く。
そこにいた“それ”は――
さっきと同じ形をしている。
だが、決定的に違う。
水が、濁っていない。
透き通っている。
「……二度目は、学ぶ」
悪霊の声が、わずかに笑う。
「塩分……対策済み」
父親「進化すんな!!!」
魁斗、固まる。
「……え?」
ゆっくりと、塩を取り出す。
「いやでも、塩は効くし……」
投げる。
パラパラ……
水の悪霊に触れる。
――何も起きない。
シン……
魁斗「……あれ?」
父親「効いてない!!!」
悪霊「当然だ」
その体が、わずかに揺れる。
「“濃度”は調整した」
魁斗「そんなことある!?」
ズン……
一歩、近づいてくる。
床が濡れる。
だがその水は、すぐに蒸発する。
「……触れれば終わりだ」
魁斗、焦る。
「くっ……!」
ポケットからメモを取り出す。
ガサガサ。
・塩は効く
・量は大事
・見た目も大事
「いや効いてない!!」
ページをめくる。
・水系には塩めちゃ効く
・しょっぱすぎると死ぬ
「効いてない!!(2回目)」
悪霊、腕を振り上げる。
「終わりだ」
父親「逃げろぉぉぉ!!!」
魁斗、さらにメモをめくる。
「なんかヒント……ヒント……!」
・徹夜はつらい
・塩は重い
「いらん情報!!」
水の塊が、振り下ろされる。
ゴォォォ!!
その瞬間。
カツ――
音が、割り込んだ。
「……遅い」
一閃。
空気が裂ける。
水が、止まる。
気づいた時には
悪霊の体が、正確に切断されていた。
ズルリ……
音もなく、崩れる。
その場に立っていたのは、
漆黒の隊服。
腰に刀。
神楽坂 冥
父親「だ、誰……?」
魁斗「え、なに今……」
冥は一歩も動かず、ただ言う。
「構造が単純。対策も稚拙」
冷たい目。
「“水”という現象に逃げただけの低級霊ね」
悪霊が、再び再生しようとする。
だが――
冥が指を軽く鳴らす。
パチン。
結界が閉じる。
空間が固定される。
「逃がさない」
刀が、静かに振られる。
一度。
二度。
三度。
そのすべてが、
無駄なく、正確に“核”だけを断つ。
悪霊、絶叫。
「な……ぜ……!」
冥、淡々と答える。
「順序が逆だからよ」
「原因を断てば、結果は消える」
――消滅。
静寂。
父親「……終わったのか?」
魁斗「……すげぇ」
冥、振り返る。
そして初めて、魁斗を見る。
床一面の塩。
意味不明な十字架。
ぐちゃぐちゃの現場。
「……なにこれ」
魁斗「えっと……除霊を……」
沈黙。
「無駄。非効率。論外」
魁斗「すいません!!」
だが、冥の視線が止まる。
さっきの“残滓”わずかに歪んだ空間。
(……今の、こいつがやった?)
冥の目が細くなる。
「あなた」
魁斗「はい!」
「名前は」
「四六死苦魁斗です!」
少しの間。
「……弟子になりたい?」
魁斗「え!? なりたいです!!!」
即答。
冥「断るわ」
魁斗「ですよね!!」
だが、冥は動かない。
考えている。
(理論がない)
(だが、結果は出ている)
(しかも、あの一瞬……空間が歪んだ)
小さく呟く。
「……観察対象としては、価値がある」
魁斗「え?」
冥「ただし」
冷たい声。
「私の指示に絶対服従」
「無駄な行動は禁止」
「死んでも文句言わない」
魁斗「はい!!」
冥、さらに考える。
(それに――)
(人件費ゼロ)
わずかに口元が歪む。
「……いいわ」
魁斗「え!?」
「助手としてなら、使ってあげる」
父親「扱い雑!!」
魁斗、土下座。
「よろしくお願いします!!」
冥、冷たく言い放つ。
「冥様と呼びなさい」
魁斗「はい!冥様!!」
こうして。
正しすぎる除霊師と、
正しくない男が出会った。
そして
その背後で、誰にも気づかれず。
ほんの一瞬だけ、空間が“元に戻る”ように歪んだ。
まるで、“さっきの異常”がなかったことにされるように。
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短編で書いたものを連載にしてみました。
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