転生少女と雪の国3
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翌日、二人はクレマン・ヴィトリーが収監されている刑務所に足を運んだ。既に吹雪は止んでいる。エルネストが前もって話を通してくれていたので、すんなりと面会を許された。
薄暗くて静かな監獄に、二人の足音だけが響く。クレマンのいる独房の前に立つと、男の低い声が聞こえた。
「あんたらか?俺に会いたいって言うのは」
独房の中には、白髪交じりの黒髪を長く伸ばした大柄な男がいた。年齢は、四十四歳だと聞いている。
「クレマン・ヴィトリーだな?僕はレーヴ王国の第二王子、エルネスト・アベラールだ。こちらは、僕の婚約者のアニエス・マリエット」
クレマンは、鉄格子の中から二人の姿を確認したが、アニエスの黒髪と紫色の瞳を見て、一瞬眉毛を動かした。
「この子は、お前の兄、マリユス・ヴィトリーの娘だと言われている。聞きたい事は沢山あるが……まずは、マリユスが生前誰かに魔術を教えていなかったかどうかを聞きたい」
「……何故俺が教えなければいけない?メリットが無い」
アニエスは、頭を深く下げて言った。
「お願いします、教えて下さい。……最近、レーヴ王国で魔物が頻繁に出現してるっす。私は、私の周りにいる人達を守りたいっす。頼れるのは、クレマンさんだけなんです」
しばらくの沈黙の後、クレマンが口を開いた。
「……マリユスは、魔術の詳しい方法を本に纏めていた。赤い表紙の本だった。でも、誰かに教えていたかどうかはわからない。少なくとも、俺は教えている姿を見た事が無い。兄貴が捕まった当時、俺は兄貴と一緒に住んでいなかったしな。……しかし、レーヴ王国で魔物が出現してるって本当か?そこら辺の人間には魔術なんて使えないぞ?魔術には特殊な鉱物と血液が必要だが、俺達の一族以外の血は使い物にならない」
「魔物が出現してるのは本当っす。どうやって生み出しているのかは不明っすけど。……その赤い本が今どこにあるかは分かりますか?」
「わからない。家宅捜索では見つからなかったようだな」
「はい……見つかっていたら、もっと魔術の研究が進んでいたでしょう」
結局、魔術の継承者については何もわからないという事か。
「もう一つ、聞きたい事がある」
エルネストが口を挟んだ。
「アニエスの父親は、本当にマリユスなのか?それと、アニエスの本当の母親を知っていたら教えて欲しい」
クレマンは、アニエスをチラリと見た後口を開いた。
「……兄貴が捕まる十日位前だったかな。兄貴の家に行ったら、黒髪の赤子がいた事は覚えている。兄貴には農民の恋人がいて、その恋人が産んだ子供らしい。でも、その恋人については、産後すぐ亡くなったという事しか知らない。……一応身分違いの恋だったからな」
マリユスは、悪事が発覚する前は魔術師として重宝され、騎士団の特別な部隊に所属していた。
「……そうだったんすか、亡くなって……」
アニエスは、目を伏せた。
「他に聞きたい事はあるか?」
「……ないっす。ありがとうございました」
アニエスは、再びクレマンに頭を下げた。
「大罪人に頭を下げるなんて、変な娘だな」
クレマンは、フッと笑った。
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