心
魔王はパックの光に釘付けになっていた。
ひかりを浴びた魔王は、一歩も動くことは出来ない。
足もとになにか感じる。
そちらに目をやった魔王は凝然となった。
なんと足もとでうごめいているのは、ヘロヘロだった。
ヘロヘロは身体をぺちゃりと平らにさせ、魔王の足もとからその上へ這い登ろうとしている。
なんだ、なにをしようとしている?
やつはまだ大人になっていない、未成熟のスライムにすぎない。
なぜやつの存在が気になるのだ?
パックの光を浴びているヘロヘロの身体は金色の光に包まれていた。
にょろりとヘロヘロは身体をのばし、ついに魔王の胸にまでたっしていた。
ヘロヘロは魔王を見上げて口を開いた。
「思い出した……ぼくがなぜ、パックと一緒に旅に出たのか」
なに、なにを喋っている? こやつはなにを言おうとしているのだ?
「ぼくはあなたの心……」
「余の心だと?」
「そう、あなたがさまざまな世界を作り、そこに残してきた心だよ。あんたはいろんな世界でいろんな人生を送ったけど、そのたびに心をすこしづつ失ってきた。いまのあんたには過去の思い出と、後悔しか残っていないんだ」
ずきり、とヘロヘロの言葉は魔王の胸を切り裂いた。
「ここに過去のパックとミリィを作り出したとき、ふたりの守り役としてスライムを置いたよね。その時、あなたの心がぼくを作り出したんだ。ぼくが旅に出たパックに引き付けられたのも当然だ。ぼく自身がパックの本来の心なんだから。ということは、あんたの本当の心でもある」
やめろ、なにをするつもりなんだ! おれはパックに殺されることを望んでいたのだ! そうすればおれの魂はパックに入り込み、おれは本物のパックとして生きることが出来る。
「さあ、ぼくの心をあなたに返すよ。そうして、あなたは本当の自分にかえるんだ」
パックの光をあびたヘロヘロの身体から発している金色の光が強まっていく。その光に魔王の目はくらんでいた。
じょじょに魔王の姿はもとの姿を取り戻していった。
怖ろしげな姿は人間のものとなり、ドーデン王の顔となり、さらに若返っていく。
いまはかれはパックの顔となっていた。
と、その姿が急激に年を重ねていく。
少年から青年へ、そして壮年になって顔に老齢の印がきざまれていく。
そしてついに老人となっていた。
かれはじぶんの両手を見つめていた。
皺だらけの、老人の手の平だ。
がくり、と両膝を床につく。
しろい光の中、かれは顔を上げた。
ぱくぱくと口を開け、なにか言いかけたようだったが、言葉を発することはなかった。その目じりから涙が零れ落ちていた。
「ミリィ……」
ようやくそれだけ言葉にすることができた老人は、かくりと身体からちからが抜け、床に横倒しになった。
パックからはなたれた光はますます強まっていった。
もはやすべてが光の中に消え去っていた。




