光
ぶるぶると震える腕でパックは剣を持ち上げた。鞘から抜きだし、さえざえと光る刀身を構える。
タルカスが叫ぶ。
「殺せ! あいつが本当のパックだろうがなんだろうが、やつがいるかぎりこの世界に魔物が絶えることはないんだ」
ラフレシアが口を開いた。
「そうよ、あなたが本当のあなたになるためには、この魔王を殺すべきなの! さあ、その剣で魔王の胸を刺し貫きなさい」
さらに何か言いかけたとき、ひゅっ、と矢が飛びラフレシアの胸を貫いた。
驚きに彼女は矢の飛んできた方向を見た。
弓を構えているのはファングだった。その目に涙があふれている。
「兄さんの仇! お前が兄さんを殺したんだ!」
ごぼり、とラフレシアの口に血があふれた。ずるずると膝からちからが抜け、魔王の玉座によりかかるようにして床に倒れていく。最後ににやりと笑おうとしたようだったが、生命がぬけたその顔には苦悶の表情がきざまれている。
「なにを迷っているのだ? わしを殺したくはないのか!」
魔王は怒号した。
パックは剣を構えたまま動かない。
いや、動けないのだ。
がちゃり、と剣を放り投げる。
その場の全員が凍りついた。
「やめた! なんだい、魔王だかなんだか知らないが、ただの根暗ないじけ者じゃないか! 失った恋だって? それまでどうして自分から告白できなかったんだ? その後始末にぼくが呼ばれたわけってことかい。まったく馬鹿馬鹿しい」
くくくく……パックの隣りで立っていたミリィが笑い出した。くっ、くっと腹を抱え、顔を真っ赤にして笑っている。
「パックの言うとおりだわ! あたしだってあんたの夢の中のミリィなんかじゃないわ。あたしはあたしよ! あんたの夢の女なんかじゃない!」
魔王は蒼白になっていた。怒りがその形相を怖ろしげなものに変えている。
ゆっくりと魔王は立ち上がった。
「そうか……それならしかたがない……余を殺せないというならば、余がそちを殺すまでだ! 覚悟せよ!」
腕をふりあげ、なぎはらう。すでに魔王の身体はさらに倍にふくらんでいた。一振りで、その場にいた全員が押し倒されていた。
くそう……口から血を流しタルカスは立ち上がった。
「やられるものか!」
叫んで剣をかかえて飛び込んでいく。大振りに魔王に切りかかるが、その皮膚を切り裂くだけで深手をあたえるにはいたらない。
うるさそうに魔王はタルカスの身体を跳ね飛ばした。宙を飛んだタルカスの身体は立ち並ぶ列柱にぶちあたり、どさりと床に落ちた。タルカスは起き上がろうとしたが、どこか骨折しているのか、歩き方が変だった。
「畜生……」
唇をかむ。
その間、ファングは矢筒から矢をつがえ、弓を引き絞った。
ひゅっ、ひゅっと何本もの矢が飛び、魔王の身体に突き刺さる。しかしそれもまるで感じていないようだ。魔王が突き刺さった矢をふりはらうと、ぽろぽろと抜けて落ちていく。
ミリィは鞭を揮った。
鞭の先端が魔王の皮膚に食い込む。それを魔王はおおきな手で掴むと、ぐいと引いた。
あっ、と叫んだミリィの手から鞭が離れていた。魔王は鞭を両手で掴むと、簡単に引き千切ってしまった。
「馬鹿者どもめ!」
おおきく口を開き、ごおおおっ……と、オレンジ色の炎を吐いた。
たちまち謁見の間は焦熱地獄と化した!
パックは魔法のバリアを作り、それに対抗した。
ふん、と魔王はひといきついた。
「ふむ……魔法は一人前に使えるようだな。では、これではどうだ?」
指先をあげる。その先端からばりばりと放電がはなたれる。
うあああ──っ!
パックの全身を電流がおそう。
ちりちりと髪の毛が焼け焦げている。
ミリィが悲鳴をあげた。
「パック!」
パックはミリィをふり向き、笑った。
「大丈夫さ」
魔王を見つめ、両手を構える。
ハランスの町で、ロング老人が言った言葉が蘇る。
邪悪な存在に対抗する、究極の善をなす魔法……それにはじぶんなりの魔法を習得しなくてはならない……。
そしてハランスの町に行き着く前、生きている死人たちにはなったあの魔法……。
パックは目を閉じた。
両手を挙げ、光をイメージする。
すべてを照らし出す光……究極の光……。
全身の気力があふれ、両手に集まっていく。
パックの全身に光が満ちた!




