誘い
魔王は目を開いた。
パックたちは魔王の回想の世界から立ち戻っていた。
ギズモ教授はつぶやいた。
「それではこの世界は魔王の夢の中の世界なのか? 魔王は……いや、パックはいまも眠りの中にいるのか?」
ふっふっふ……と魔王は含み笑いをした。
「少し違うな。この世界はすでに独自の世界となって成立している。第一、本来のパックはすでに息を引き取っているよ」
「それじゃぼくらはなんだ? ぼくとミリィは夢の産物なのか?」
「ある意味ではそうだ。そちとミリィは余が夢見た結果、この世界に存在する」
「なぜそんなことをした? ぼくらを作り出した目的は?」
パックの声は悲鳴に近くなっていた。そのパックを見つめる魔王の目には、悲哀があった。
「余は夢の世界で本来じぶんが生きるべき、あらたな人生を得ようと考えた。そのための魔法を学び、じぶんを夢の世界に閉じ込めたのだ……しかし胸のなかの棘がまだ刺さっている」
魔王は肘掛けを握りしめた。
「余はさまざまな世界を夢見た……戦いがたえない、野蛮人だけの世界。そこで余は英雄として生涯を送り、世界を切り従える支配者としての名声を得た。あるいは反対に平和で、学問が重んじられる世界。そこでは余は学究としての生涯を送った。また享楽的な世界も夢見た。そこでは一生、享楽的な遊戯のみが価値を持つ。さまざまな世界で余は暮らしてきたよ……しかしどの世界でも余は満足を得ることは出来なかった。つねに失った恋が余を苦しめた……そこで余はその恋を取り戻そうと考えたのだ!」
魔王はひた、とミリィを見つめた。
「余はこの世界で理想的な国王となっていた。国民の絶大な信頼と愛情の中、あいかわらず孤独が苦しめた。そこでミリィを生み出したのだ。生まれたときから余と出会う運命。そして絶対の愛を誓う女性として……しかし余は考えた。それなら本来の自分としてミリィと愛し合うチャンスではないか? そこでもうひとりの自分を生み出した。それがパックだった……」
ぐったりと魔王はあおむき、目を閉じた。
「しかし意外なことがおきた。ミリィの目覚めが早すぎたのだ。パックにじぶんの記憶を移し変えるまでは、彼女は目覚めないはずだった。パックは余の記憶を持たず、目覚めてしまった。そして旅を続けた……もうやり直しは利かない! しかしパックとミリィにはおたがい出会ったとき、運命の相手と感じるようになっている。ミリィがドーデン王と出会って、何事からを感じたのも無理はない。ドーデン王のモデルは、そこにいるパックなのだからな」
ふたたび魔王はまっすぐにパックを見つめた。
「パックよ……さあ、余にお前の人生を返してくれ! なに、簡単なことだ。その手にしている剣で、余の胸を刺せばよい。余が死ねば、お前はこの世界でただひとりのパックとなる。そしてミリィと一緒に幸せに暮らすのだ。余が生きている限り、お前は余のうつし身にすぎぬ。それは厭であろう?」
魔王はにたりと邪悪な笑みを浮かべた。指がさそうように招いている。




