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婚約者にいらないと言われた実はハイスペックなヲタク少年×押し付けられたぽっちゃりヲタク少女8

「どういうことなのよっ!?」

むしろこちらが聞きたいという現状なのだが、朔君の婚約者はファーストコンタクト時と同じようにブチキレていた。

細身のスタイルをより強調するようなデザインのドレスはとても美しく似合っているのでギャップが残念だ。


「婚約破棄? ふざけないで。どうして貴方のほうから破棄されないとならないわけ!?」

彼女が怒りに任せた口を動かすたびに感情的になっているのが、動作も大きくなっていたので大ぶりのピアスが揺れ動き恒星のように輝いた。


――元々いらないって言ったのはそっちじゃん!


随分と自分勝手な言い分に私は眉間に皺が寄ってしまう。

ここで私まで感情的になってしまったら、相手をより激昂させてしまうだろうから口を閉ざす。


「今ならまだ許してあげるわ。謝罪して婚約破棄を取り消しなさい」

お兄ちゃんがいたらどんだけ上から目線なんだと言われそうなくらいに、私が聞いてもすっごく上から目線。朔君がより戻さない可能性を微塵も考えてないのが不思議だ。

婚約者を怪我させるような人間とまた一緒に……なんてさすがに考えないと思うのだけれども。


「元々、婚約者として不要と言ったのは貴方からですよね。梨里家とは穏便に婚約破棄されたはずです。それを貴方は今更覆そうというのですか」

朔君は立ち上がると、私を隠すようにして前へと出た。


「わかるわ。私の気を惹きたいのでしょう?」

「……え」

「貴方が許しを乞えば、よりを戻してあげてもいいわよ。前はダサくて気持ち悪かったけど、今は良い男になったから。私に釣り合うようにでしょう?」

彼女が腕を伸ばし朔君に触れようとしたら、さっと朔君の体が横に動いた。

「触れないで下さい。僕は大切にしたい人が出来たので、貴女と付き合うつもりはありません」

「大切な人ですって? 誰よ。まさか、そこにいる女じゃないわよね」

彼女がこちらを見たので、ばっちりと視線が絡んだ。


「貴女、あの時のデブス!」

「こんばんは。相変わらずお元気そうでなによりですね」

私は立ち上がると、朔君の隣へと立った。


「三葉さんのことを侮辱するのはやめて下さい。彼女を傷つけるなら僕にも考えがあります」

「あら、どうするのかしら? 貴方のお父様にでも泣きつく? 梨里家が関与している事業から手を引いて下さいって。まぁ、そんなことしないわよね。いいえ、できないはず。男としてのプライドがあれば」

クスクスと笑っていた彼女だが、この場を支配するように響いてきた「俺はあの時に言ったはずだ。返品不可だって」という切り裂く声に反応して大きく肩をビクッとさせた。


「しつけ―女だな、お前。逃した魚が惜しくなったのか?」

弾かれたように声と気配がした方向に顔を向ければ、お兄ちゃんと神守兄のお兄ちゃんコンビの姿が……

神守兄に至っては、まるで親の仇のように元婚約者を睨んでいる。


「僕の可愛い弟に随分生意気な口をきいてくれたな。自分の立場をわきまえろ」

「どうわきまえるのかしら?」

口元を手で覆うと、彼女はクスクスと笑い始めた。


「誰も信じないと?」

「えぇ」

お嬢様の事は全く知らないけど、おそらく他の人には『お嬢様』として振る舞っているんだろうなぁって思った。


「俺から言わせてもらえば、詰めが甘いんだよ。あんな人混みで騒動起こすなんて本当に愚かだよな」

お兄ちゃんはそう言って右手に所持していた物体を掲げたので、私はそれを視界に入れて首を傾げてしまう。だって、特に珍しくもない日常でよく目にするものだったから。


「……スマホ?」

私が口にすれば、「正解」という答えが返ってくる。


「録音アプリって便利だよな。良いフレーズが浮かんだ時にすぐ録音できるから俺は入れてんだよ」

「まさか、貴方……!」

「当然だろ。相手の弱点となるようなものは自分の手中に収めておかないとな。それを使えば相手を従わせるのに有効活用できる。言わなくてもわかると思うが、今のやりとりも録音中だ。アプリはバックグラウンドで使っているから、ディスプレイ表示されてないから気づかなかっただろうけど。パーティー会場で流したらおもしろいだろうなぁ」

今までで一番良い笑顔をして喉で笑っているお兄ちゃんを私と神守兄が駆け寄り抱き付く。


「すごいお兄ちゃんっ! 暴君的な性格!」

「さすがブラック壱葉! 日常的に相手の弱みを掴んでおこうなんて普通なら思い浮かばない!」

「お前ら褒めてないからな、それ」

ぐっと眉間に皺を寄せたお兄ちゃんだけど、すぐに表情を消して朔君の婚約者へと顔を向けた。


「うちの妹と朔に手を出したら次はない」

感情の籠ってない声音のせいで、威圧感が凄まじい。

私が悪い事してないのに体の芯から冷たくなってしまうくらいだったので、当事者である彼女は体を大きく振るわせながら今にも泣き出しそうな顔をしたまま身を翻した。そしてそのまま逃げるように立ち去ってしまう。


「あいつはなんなんだ!! 僕の世界一可愛い弟に向かってなんていう口の利き方を!! 無礼な」

神守兄は吐き捨てるように口にすると、朔君の元へと向かってぎゅっと抱きしめる。朔君は「兄さん」と言いながら困惑気味に眉をハの字にしていた。


「すみません、兄さん。僕、壱葉さんにお話が……」

「壱葉に?」

不服そうだけれども、神守兄は大人しく朔君から身を離す。


「あの……壱葉さん。僕……」

「俺が先に聞くことじゃないだろ。三葉だ」

「はい」

朔君は苦笑いを浮かべながら頷く。


「じゃあ、俺達はそろそろ行くから。ゆっくり来いよ」

お兄ちゃんは私の頭を撫でながら肩を竦めて言うと、体の向きを変え私達に背を向ける形を取った。けれども、神守兄は「なぜ二人を置いて行くんだ?」と私と同様に首を傾げているので、お兄ちゃんは彼の腕を掴む。そして、「いいから行くぞ」とちょっとドスの利いた声で告げた。


「みんなで戻ればいいじゃないか」

「空気読めよ」

「おいおい。そういう言い方だと僕が空気を読めないような人間みたいじゃないか」

「いいから来いって」

腕を掴まれ強制的に引きずられるように神守兄が立ち去っていくのを眺めていれば、「三葉さん」と朔君に突然名を呼ばれてしまった。

気の抜けていた私が「はいっ!?」と声を裏返し返事をすれば、揺らがずに真っ直ぐとこちらを見ている真剣な朔君の瞳と絡み合い自然と姿勢を正してしまう。


「さっきの続きですが聞いてくれますか?」

「うん」

「僕は壱葉さんと三葉さん兄妹のことが大好きです」

「ありがとう」

理想の兄弟ってことなのかな? 言われた事がなかったので不思議な感覚がする。


「僕はまだまだ頼りないです。でも、壱葉さんのように三葉さんを守れるような男になります」

守ると言われ、心臓が今までに感じたことがないくらいに早鐘だった。


「プールで三葉さんに言われた言葉が胸に響き、あれからずっと気になっていました。三葉さんと一緒にいる時間が楽しくて、いつもあっという間に時間が過ぎもっと続けばいいなって思っています。好きなアニメや漫画の話を生き生きとして語っている貴方の笑顔が好きでこれからもずっと貴方の近くで見ていたいです。ですから、その……あの……僕と付き合ってくれませんか?」


――つ、付き合うって彼氏彼女ってことだよね……?


心の中で言葉にした瞬間、顔や体を駆け巡る血液の流れがますますよくなっていく。


「えっと……あの……朔君は最初と全然違って変ってきたのに、私はまだ太っているし……」

「関係ないです! 三葉さんは可愛いです。それにダイエットも頑張っているじゃないですか。僕では駄目ですか?」

「私も朔君と一緒にいる時間は凄く楽しい。でも、最近すごくドキっとする瞬間もあって……それはクラスが同じ男子には感じなくて……その……」

好きかって問われれば好きなんだと思う。

でも、正直不安の方が大きい。付き合うって言ってもどうしていいのか全く見当もつかないからだ。


「すみません。急すぎましたよね。瑠伊さんと抱き合っているのを見た時に、僕は三葉さんが他の人と付き合うのは嫌だって思ったんです。ですから、その前に告白をって」

「他の人と……?」

じっと朔君の顔を見た。


――朔君が誰かと付き合う?


想像したらドロドロとした黒い感情が湧いて出て来た。


「私もいや……」

手を伸ばして朔君に抱き付けば、彼の体が一瞬だけ強張ったように感じた。

「三葉さん。僕に都合を良い方向にとらえてしまいますよ?」

「いいよ」

そう返事をすれば、私の体に彼が手を回して抱きしめた。


「大切にしますから」

「よ、よろしくお願いします」

「はい」


私が顔を上げて朔君を見れば、微笑まれたので私も笑みを浮かべれば、彼の腕が離れたかと思えば頬に朔君の大きな掌が触れる。

戸惑う暇もなく、唇にあたったのは柔らかな感触だった。


「え、あ、え、えっ、え、あっ」

最初は頭が真っ白で何が起こったのかわからなかった。

でも、段々と現状を理解することが出来たけど、上手に言葉を発することが出来ず。

まるで外国で早口で英語を話された時のように。


「そろそろ中へ入りましょうか」

きっとまだ上手に言葉が出て来ないだろうからただ静かに私が頷くと、さっと手を繋がれる。

すごく幸せそうな表情をした朔君の姿を見て私も嬉しくなった。










朔君とお付き合いをすることになって幸せな日々を――というわけだけにはいかない。

もうすぐ中間テストがあるため、私達は勉強に勤しまなければならないのだ。


「なんでテストなんてあるのーっ!?」

私は半泣きになりながら、テーブルの上にある教科書を穴が開くくらいに見ていた。

いつもはお兄ちゃんが教えてくれるんだけど、「かれしに教えて貰え。様子を見て駄目そうなら俺が教えてやる」って。

……というわけで、私は朔君の家で勉強を教えて貰っている。


「ごめん、朔君。朔君もテスト勉強もあるのに」

「いいえ。僕は大丈夫ですよ。いつもテスト勉強はしませんし」

「マジで!?」

お兄ちゃんと一緒じゃん。お兄ちゃんもテスト勉強してなくても成績良かったんだよね。

朔君って実はハイスペックなんじゃない? お金持ちでイケメンでテスト勉強しなくても進学校の上位。

お兄ちゃんと一緒でチート……


「僭越ながら壱葉さんの代わりにテスト勉強をお手伝いさせていただきますね」

にこにこと微笑んでいる朔君。


「壱葉さんから全教科平均以上。赤点は論外だとお達しがありましたので、頑張りましょう!」

「私のダメダメなところが明るみに……」

高校入学して最初のテストで赤点を取り、両親からは赤点初めてみたと言われ、怒られるどころか逆に驚かれたのでお咎めなかった。

そのかわりにお兄ちゃんからお叱りがあり、以後お兄ちゃんがテスト勉強を見てくれるように。


――数学と現国が苦手で……他はかなり勉強すれば平均以上取れるんだけど……


「テスト勉強頑張ったらご褒美がありますよ! 実は、三葉さんと一緒にこの間みたいとって言っていたアニメの実写映画のチケット取れたんです。特典が特別冊子タイプのを!」

「えっ!? あれすぐに売り切れで買えなかったんだよ!? よく手に入ったね。私も朔君と行きたいって思って前売り買ったの。青い袋の店での特典用ー」

「同じ映画の前売り購入という気が合うのは嬉しいですが、どうしましょう? これではご褒美になりませんよね。何かリクエストありますか?」

「いや、特典違うから凄く嬉しいよ。だって、即完売のやつだし……でも、リクエストしたいものがあるんだけど」

私は隣に座っている朔君の制服の裾を掴んだんだけど、きっと私の顔は真っ赤だろう。


「あのさ……その……ほら、あの時から……」

言いにくい。朔君に告白された時にキスして以来キスしてないのでキスをして欲しいって。

みんなどんな感じなのか気になってたけど友達に聞くにも聞けなかったので、スマホで『付き合って』『期間』『キス』で検索してしまった……


「遠慮せずに言って下さい。僕が叶えられるものでしたら、なんでも叶えますので」

ポンと頭上に優しく手が乗り、私は勇気を出して唇を開く。

もうどうにでもなれ! というちょっとだけやけ気味になりつつ。


「あのね……キ、キスして欲しい……」

その言葉にぴたりと朔君の手が止まった。


「え……?」

「ごめん、忘れて! 勉強の続きしよう!」

さすがに二回も同じことを言うのは恥ずかしいどころの話ではないし、朔君にそんなことを言うのかと呆れられたりでもしたら立ち直るのに時間がかかってしまう。

それならなかったことにしてやり過ごすのが一番だ。


私はテスト勉強をするために、ノートへと手を伸ばせば、

「僕もご褒美が欲しいです」

と、朔君の声が聞こえたので彼の方を見たらキスされた。


「わ、私のご褒美なのですが……」

「僕も三葉さんとキスしたかったんです。でも、いつしていいものか、色々悩み過ぎてしまって。どんなタイミングかとか……」

朔君は顔を真っ赤にしながら、私を抱きしめた。

鼓動が早まり周りの音が遠くなっていけば、突然電子音が響き渡ってきてしまう。


――誰!? こんなタイミングで!


二人して音の発生源であるテーブルへと顔を向ければ、それぞれのスマホが点滅しディスプレイにメッセージが表示されいる。

お互い離れて各々スマホへと手を伸ばして読むと、私と朔君、お兄ちゃん、神守兄のグループのトーク画面だった。

差出人はお兄ちゃんで「イチャついてないで勉強しろ!!」という台詞が。


「お兄ちゃん!?」

「壱葉さんっ!?」

二人してきょろきょろと辺りを見回したがやはり姿が見当たらない。


今日、お兄ちゃんスタジオ練習だからここにはいないはず。

もしかして予想済みだったのだろうか? とちょっと兄の洞察力が鋭いことを改めて身に感じてしまった。






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