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吸血鬼のミュージックコントローラー  作者: 朱田 秀隆
吸血鬼のミニッツワルツ
13/13

7.とりあえずおしまいです

 鮫島をぼこぼこにして、それから「家は必ず元に戻します」という念書を書かせたまどかは、事の発端になったコンビニにいた。


「いやー、それはひどい目にあったね」

「笑い事じゃないですよ」


 沢良宜はげたげたと笑うばかりで、まじめに取り合う気はないらしい。


 いぬこの身体に薬を塗りながら、まどかは心の中で拳を握りしめる。


 こうなったのはお前のせいだろう!


 と。

 まぁでも、起きてしまった事は仕方ない。


「ともあれ。家の建て替えには時間がかかりそうなので、いぬこを預かる事は出来なくなりました」

「あー。うん、そうだね」


 約束の一週間にはまだまだ早い。

 だが、事情が許さなくなったのは、沢良宜にも理解できたのだろう。

 すんなりと受け入れてくれた。


「じゃあ、いぬこの薬は置いていきますから、日に一度お風呂に入れて、よく乾かしてから塗ってあげてくださいね」

「わかった。……んで、まどかちゃんはどうすんの?」

「んー。まぁ、なるようになります」


 というより、どうもこうもないのだ。

 昼間、日の当たらない――例えば、ラブホテルの一室を一ヶ月くらい借り切るしかないだろう。

 ネットカフェなんかも使える。

 終夜営業のお店だって少なくない。


 少なくとも、大空襲で焼け野原になった横濱で太陽を避けるよりは生き延びやすい。

 便利な世の中だ。


「じゃあ、いぬこをよろしくお願いしますね」

「あー、うん。ごめん、こんな事になって」

「いえ……。じゃあ、いぬこ。元気でね」


 よっこいしょ、と一声かけて立ち上がったまどかに、いぬこは「ひーん」と小さく鼻を鳴らして答えた。

 その姿はどことなく寂しそうに見える。


 でも、犬が一緒というのは、あとあと障害になりそうだ。


 いぬこの声に、少し後ろ髪惹かれる気持ちのまま倉庫を出る。


「また、一人だなあ……」


 呼吸が出来たら、きっとため息をついていたんだろうな。

 そんな気持ちを抱えて、まどかは空を見上げた。


 夏の夜。

 少し青みがさした月が、さえざえと見下ろしていた。




 おしまい

年に一度のお祭り的に、あんまり品のない言葉を連ねてきたお話もとりあえず一段落。

上品とは言えないお話につきあって頂いてありがとうございました。

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