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憎まれ令嬢、死に戻ったけど政略結婚を選び直します  作者: おいや


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 その後、図案を見つけてからイヴォンヌは早かった。

 普段あまり使わない頭のどこかを使っている感覚が心地よく、早く進んでしまった。

 居間組の母とローランに見せてみたら、思いのほか出来を褒められてしまい少し戸惑ったが。


(示された通りに刺していくだけですもの)


 そう思っていたのが、つい漏れていたようで、母に窘められた。それをよそのご令嬢の前では絶対に漏らしてはいけない、と。気をつけねばとイヴォンヌは思う。


 そんなイヴォンヌにローランが自分も欲しいと言ってきた。果たして自分がプレゼントしても良いものか。いずれローランにもプレゼントしてくれるご令嬢を考えると、イヴォンヌは返事に困ってしまった。

 しかし、彼女の母は娘の機微に気づいたのだろう。きれいなハンカチは何枚あっても良い、と笑った。


「誰にもらうか、が大切なのですから」


 その言葉にイヴォンヌは思う。


(なら、また殿下にお渡ししてもいいのかしら)


 それほどに刺繍にハマったというわけではないが、刺すにあたり色々な本を読んでもっと改良できるのではないかなどと、持病の癖がうずいたのである。試す口実が増えることは良いことだ。口が裂けてもそれは言えないが。


 作ったハンカチはメイドに頼んでしっかり火熨斗を当てて布地を整えてもらった。

 イヴォンヌは自分でやってみたかったが、何やら熟練の技が必要とのことで、丁重に取り上げられた。


 イヴォンヌは加えて、過去に買った件のクラバットピンも調達した。

 どうにも手作りのものだけを贈るということに気が引けていたのである。


(そういえば、私自身が家族以外の誰かに手づから作るって初めてだわ)


 小さいころ、父や母に絵を描いたこととか。そういった児戯の延長程度しかなかった。

 だから、心もとなかった。

 まさか、死に戻り前に贈りっぱなしになってしまったことへ罪悪感を覚えて取り繕おうとしたということではない。――ない。


 そんな、イヴォンヌの死に戻り前よりも幾分重くなった贈り物が、今しがた手元から離れた。

 イヴァルテの筆頭商会、メーンコイナ商会に輸送依頼をしたのだ。


(本当は、直々にお渡しした方が良いのだろうけれど)


 どうしても、どうにも無駄が多いと思ってしまう。

 面会となると、まだイヴォンヌが十四という年齢柄、通常よりももっと手間がかかる。

 まだ社交に出ていないため、父か母が同伴しなければならないし、まず王都とイヴァルテを往復する日程調整を組まねばならない。一々大きなことになってしまうのだ。


(すぐに手元に届くことの方を優先してしまうわ)


 多少送料はかかるが、宮廷許可商会経由で宮廷の人間へ贈答品や書簡を送る手段としては、割と一般的となっている。勿論、送り元は貴族に限る。各家の封緘がなければ、まず配送物として認められない。


 輸送依頼を受けた商会は、封緘偽装や取り違えの責を避けるため、宮廷への配送物を必ず単独で運ぶ。宮廷許可商会ともなれば、余計な疑いを向けられること自体を嫌うのだ。


 おそらく明後日には王都へ到着し、諸々の検閲処理を経て、五日後くらいにはフィリップ殿下の手元へ届くだろうか。


 自分が動けば、王都に着くだけで半月。それに、下手に人手を増やすより、荷の状態も守られる。この差を、今のイヴォンヌは軽く見られなかった。




 見送って数日後、イヴォンヌは家族と共に侯爵令嬢の務めにあたっていた。

 領都モンカリオに年の瀬、冬越えの社交として各郡から上がってくる貴族たちを出迎えるのだ。

 現在は数にして三十三の男爵及び子爵家にイヴァルテは支えられている。

 彼らが到着にあたり、侯爵邸へ挨拶を寄越すので、それぞれ応対するのだ。

 必ずしも、男爵や子爵が直々に挨拶へ訪れるわけではない。夫人、子息、令嬢が代理で来る場合もある。


「家長に代わりまして、ご挨拶に伺いました」


 もちろんその中には、マノンの家、アナマキエ子爵家も在るし、実際彼女が来訪した。

 イヴォンヌはそれを面食らった思いで迎えていた。

 マノンは、豆はじきを食らった鳥のような顔をした自分の主人と呼べる相手の心中をすぐに察した。

 言葉に困る人間のよくする苦い顔をして、


「姫様、餅は餅屋でございます」


 とだけ言った。それでイヴォンヌも概ね理解する。

 抱えている密偵にフィリップ殿下の素行調査を頼んで、マノン自体はここにいるということだろう。

 少し考えればわかる話だ。しかし、てっきりイヴォンヌは、マノンが王都に行って調査をするものだとばかり思っていた。

 なるほど、確かに手練はどの界隈にもいるものだ。頼む方が無駄なく質の高い仕事ができるなら、それに越したことはない。


「ああ、だから」


 そこで言葉を止めた。密会での話を自分で漏らすのは宜しくない。それでもしみじみと思う。どこまで話をしていいか、というのは、そういうことだったのかと。

 マノンはただ、にこりと微笑んだ。


(こうやって、アナマキエの家の人は家で仕事をしているのだわ)


「では、今年も一緒に美味しいお雑煮が食べられるのかしら」


 イヴォンヌは楚々と笑んだ。


「勿論ですとも。今年のシヴァルのモチゴメは良作と伺っております。今から待ち遠しいですね」


 と、マノンもまた微笑んだ。

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