第5話:変わり映えのない日。
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■補足データ
・氏名:年齢/装備品。
・響:18歳、少年/メリケンサック。
・亜美:16歳、少女/金属バット。
・ナルミ:推定16歳、少年/???
・ボルト:推定50代、女性/ショットガン。
・誠一:21歳、男性/刀(竹刀袋入り)
・真由:20歳、女性/小型爆弾。
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×月△日(月)【PM 15:00】
都心部:瓦礫街の一角
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その日、誠一は寝たままのナルミを背負い、拠点へ向かうべく歩いていた。
「はあ。何故俺がいつもこんな目に……」
「ご、ごめんなさい!私、手伝える事全然なくて……っ」
「!いえ、真由さんが謝る必要は無いですから!寧ろ悪いのは、背中で寝てばかりいるナルミのせいなので……っ!」
しゅんと項垂れる真由と、慌てながらも首を振る誠一。
その背中に乗るナルミをちらりと一瞥し、再び真由に顔を向けた。その時。
ーーパチリ。
閉じていたナルミの目蓋が開いた。
「セーイチ君、止まって」
ナルミは言葉を掛けながら、誠一の襟周りをグイグイ引っ張る。
「ぐっ!おい、ナルミッ、首、締まって……っ!」
息苦しさに唸る誠一の足が止まる。
足が止まったのを確認すれば、ナルミはくわりと大きな欠伸を漏らした。
「ナ、ナルちゃんさん!いきなり襟を引っ張ったら、危ないです……っ!」
ナルミは誠一の襟元から手を離した。
突然の暴行を受け、表情に怒りを滲ませる誠一。
二人の様子にワタワタと慌てる真由。
ーーだが。
「マユちゃんさんも動かないで。それと、ーー静かに」
廃ビル群の奥を見つめるナルミが落とした一言に、二人は口を閉ざした。
動きを止める。
辺りを警戒するように気配をそっと研ぎ澄ませる。
僅かの間を置く。
そして、ナルミが誠一の肩を叩き、手元でジェスチャーを行う。
意図を察した誠一は一つ頷くと、真由の腕を軽く掴んだ。
真由は一瞬驚きに目を丸くするも、誠一の目を見れば再び表情を引き締める。
二人はナルミが指差した方角に向かい、静かに移動を始めた。
三人は物音を立てないように慎重な足取りで安全地帯を探した。
足元や身体に崩れた廃材が当たらぬように、身を屈め、時には物陰に隠れる。
ナルミの短い指示のもと、三人は安全地帯と思わしき大きな壁裏に身を潜めた。
「……此処なら、あっちからも気づかれにくそう」
「あっち……?」
「ああ、俺も後から気づいたが、拠点付近に敵軍の影が見えた」
「て、敵軍……っ!?」
真由は動揺して声を上げると、慌てて口元を両手で押さえる。
「今の声で気付かれるような距離じゃないから良いけど。めんどいから、接敵したくないんだよね」
誠一は腰元のポシェットから双眼鏡を取り出す。
壁に背を張り付かせながら、拠点の方角を双眼鏡で覗き込んだ。
すると、視界の先に敵の軍勢が拠点を囲うように点在し、配置していた。
数の多さに誠一は眉間に皺を寄せた。
「迂回ルートは、分かるか?」
ナルミは眠たげに目蓋を擦りながら、壁にもたれていた。
「ん。たぶん地下道使えば行ける。あっちはまだアイツらには、見つかってないみたいだし」
「分かった。ならばナルミ先導で急ぎ拠点に向かうぞ。……真由さん、大丈夫か?」
真由は背中に背負っていた大きなリュックを抱え込み、ナルミの隣で緊張の面持ちを浮かべていた。
「はっ、はい、大丈夫……ですっ」
大きく頷きながら、リュックを握る手に力を込める。
誠一は、真由の手元を一瞥すると、ナルミに視線を向けた。
「……ナルミ、此処からは自分で歩け」
「えー……。まあ、仕方ないか」
凭れかかっていた背を浮かせ、ナルミは猫背のまま身を翻す。
「じゃあ、俺に着いてきてー。あ、真由ちゃんさんは誠一くんから離れないようにねー」
「が、頑張ります……っ」
両手の拳を握り、真由はごくり固唾を飲む。
表情を引き締める真由の隣で、誠一は不安そうに見つめた。
のんびりと歩き出すナルミを先頭に、真由を挟むように誠一が殿を務めた。
かくして三人は暗い地下道に入り込み、拠点アジトに向かって行った。
◇
ーー拠点、3Fのフロアに全員が集まった。
ソファに寝転び早々に眠るナルミ。
ナルミの傍に立つ不安げな真由。
そして誠一は、部屋の中央の椅子に腰掛ける響と対面していた。
「敵軍は目視出来るだけでも30人近く配置されていた」
「ふーん。たったの30人なんだ。今回は随分少ないんだな」
響は手元の小説から目も離さず、ただ静かにページを捲る。
「どうするんだ?」
誠一は淡々とした口調で響へ問いかける。
しかし、言葉所か、表情さえ返ってこなかった。
すると、響の背後にある窓枠の傍で、腕を組みながら待機していた亜美が顔を上げる。
ーーズル、……カキンッ。
亜美が手にしていた金属バットの先端が床を擦る。
そして一度、存在感を示すようび叩き付けた。
ーーパタン。
響はその音に釣られるように手元の本を閉じ、顔を上げた。
「もちろん、お出迎えしてあげないとね」
獰猛な双眸が細まり、口端が三日月のように上がる。
響は不敵な笑みを浮かべていた。
◇
全員揃って拠点の正面から堂々と出た。
拠点を囲うように無数の敵軍が銃口を向け、彼らの動きを見定めていた。
緊迫した空気。
殺気立つ互いの陣営。
肌にピリピリとした痛みが走る。
敵軍の主な装備は銃火器。
対する彼らの装備はーー。
「おい、骨のある奴いそうか?」
ザッと地面を滑るのは、亜美の履き潰されたスニーカー。
金属バットを片手に肩を回す。
味方の数歩前に立ち塞がり、敵軍と対峙する。
「知らん。だが、敵は無数。……守る為なら俺は、力を振るう」
竹刀袋から刀を引き抜いた誠一が、亜美の隣に並んだ。
集中するように呼吸を整え、背筋を伸ばす。
誠一の気配が、研ぎ澄まされていった。
「じゃあ、お前ら二人に前線は任せるから」
響がひらりと手を振る。
そして、壊れた建物の瓦礫の上に腰を掛け、高みの見物をしだした。
ついでというように、ナルミは自然に響の傍で寝転んだ。
「あ、あのっ、私も……!」
「下がってろ、お前は前に出るな」
前を向く亜美の鋭い声が、真由に向けられる。
「な、なんでですかぁ、二人だけじゃ危険ですよ!!」
「大丈夫ですよ、真由さん。この数なら俺たちは負けませんから」
続くのは誠一の声だった。
当然のことのようにさらりと真由へと告げる。
「それにお前、ノーコンの自爆ハムスターって言われてるらしいじゃねーか」
亜美の呆れ混じりの声が、真由の胸に刺さる。
「い、一体誰からそれを……!!」
そう言いながら、真由はハッとしたように勢いよく振り返る。
呑気に寝てるナルミを視界に映した。
「まさか……ナルちゃんさん、言っちゃいましたね!?」
羞恥に涙を滲ませる真由が声を上げる。
だがナルミは反応を示さず、すやすやと眠り続けていた。
「ま、そういうこった。お前は大人しく後ろいとけ。あたしが行く」
項垂れる真由を放置し、亜美は柄を両手で強く握りしめた。
「さて、そんじゃ、行くか……」
そして、先端を正面に向け構えーー。
「ストレス発散の時間だ!!!」
亜美は、金属バットを振りかざした。
◇
赤いスカーフと黒いスカートが戦場で舞う。
ーーブォン。
空を切り時に打撃音を鳴らす金属バット。
亜美の獰猛な笑みと吠えるような声が、建物や敵軍の破壊音と共に響く。
その背後を守るように、誠一の刃が敵の銃弾を切り伏せていた。
目にも止まらぬ速さで銀色の線が幾度か振るわれる。
ーーカキンッ。
空を切っているかのように見える、その太刀筋。
無数の銃弾は亜美たちに当たる事はなく、地面にカラカラと虚しく落ちた。
「あーあ。そんなことしたって無駄弾だって分かんないのかな」
自身の膝の上で頬杖を付く響が戦場を退屈そうに見つめる。
「これだから能無し無脳のゴミは嫌いなんだよな」
瓦礫の上に座ったままの、響がつまらなさそうに吐き捨てる。
鋭い瞳孔は形を顰るように細まる。
「非生産的かつ非効率。それに無駄な資材の不法投棄」
敵軍の銃からカラカラと落ちる薬莢を見て静かに首を振る。
「……そこらの死人たちですら、しないっつーのに」
温度の低い声が戦場の後方では静かに落とされていた。
「あっ、あの、響さん!」
「ん?何?俺、今は戦況の確認中なんだけど」
「確認中って……。あの、私、よく見えなくて……」
年季の入った銀フレームの眼鏡を取り外す真由は、目を軽く手の甲で擦った。
その様子を一瞥すれば、響が口を開く。
「んー、屋上に敵が五人……いや、六人?」
「えっ!?」
響は数件先のビルの屋上を見ように顔を上げる。
目元をありもしない日差しから隠すように、片手で遮るように添えた。
「戦闘力は……うん、雑魚だな。銃もまともに撃ててなさそう」
「見えてるんですか!?」
「俺、視力もいいんだよね。メガネっ子には見えないだろうけど」
「いえ、メガネとか関係ない距離な気が……」
響が淡々と戦況の実況を始めていた。
真由は呆気に取られながらも、ボソリと本音を呟く。
「あっちのビルには十人くらいか。まあ、まだ余裕だな」
響が実況している合間にも、凄まじい速度で敵軍は二人により制圧されていく。
「あ、あわわ!!後ろ!!亜美ちゃん後ろですー!!」
「お、誠一の間合い、広くなったな。へえ、強くなったじゃん」
土煙が上がる前線。
瓦礫やパイプが辺りに飛び交う。
悲鳴と怒号が激しさを増す戦況。
銃弾の火薬の匂いが一層強く立ち込めていた。
「呑気に見てる場合ですか!?」
「いや、だって俺出る出番なくね?」
「そ、それはそうですけど……でも、ううっ」
真由は落ち着かなく身体を左右に動かした。
そして決意を固めたように前を見据え、真由はリュックの肩紐を握った。
「わ、私も……っ!!」
リュックからあるものを取り出し、あるモノを手の内に包む。
ーーカチリ。
小さな窪みを押し、スイッチを起動する。
その音に釣られた響が真由を見て、笑みを深めた。
瓦礫上に座る響の視線に気づかず、真由は狙いを定めるように前方へ目を凝らす。
そして、それを亜美たちの右後方に向けて、大きく振りかぶった。
「……っ、えいっ!!」
黒い球体が真由の手から離れていく。
だがーー。
何故か二人の方向へと向かい飛ばされていた。
「あっ、ああっ!二人とも、避けてくださいーっ!!」
「「は?」」
真由の声に嫌な予感を察知した二人が、即座に振り向いた。
その視界には、黒い塊が迫っていた。
「おいおい、まじかよ……」
目を見開き、冷や汗を頬から流す亜美。
「……!!亜美、下がれ!!」
その首元を掴み引き寄せる、必死な形相の誠一。
「ぐえっ」
亜美の頬をかする真由の爆弾。
誠一に引き寄せられた亜美は、間一髪直撃を避ける。
そして、爆弾はそのまま二人の背後にいる敵軍へと向かい、彼らの足元に落ちた。
ーーちゅどーーーん!!!
破裂音が大きく鳴り、爆風が上がる。
強い衝撃波に誠一と亜美の二人は大きく後方へと跳躍した。
ーーザザッ!
爆発の範囲は広く、敵軍の背後にあった建物を巻き込んで土煙を上げる。
ーーガラガラッ!
建物ごと戦線が崩壊した。
「おい、コラ、ムチ子ぉおおお!!!!」
「ひっ、ひぇええ!はっ、はいぃぃ!!」
「テメェー、またやりやがったな!この、クソコンハムスターが!!!」
「ご、ごめっ、ごめんなさいぃぃ!!!」
真由の情けない声が戦場に響き渡ったーー。
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×月⚪︎日(火)【AM 8:00】
ボルト婆ちゃんの家:縁側にて
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ーー翌朝。
いつも通り縁側で寝てるナルミ、そこへボルトが呆れ顔で話しかけた。
「おい、クズ猫。またあのドジっ子が爆弾使ったんだって?」
「んあ……?あー、そう。マユちゃんさんのノーコン発動した」
「そんで、あんたはその間何をしてたんだい?」
「んー……寝てた」
「知ってたよ!!」
ボルトは荒げた声と共にダン!と足元の床を踏む。
「ったく、あっちはアタシもよく使ってたルートだってのに……おかげで瓦礫撤去の方が大変だよ!」
ドスドスと足を踏み鳴らしながら、店に向かい廊下を歩く。
ふと、廊下の角で立ち止まると、ナルミへ振り返る。
「アンタも寝てるだけなら仕事しな!!」
「……」
「おい、寝たフリするんじゃないよ!!掃除しな!!!」
本日もボルト家の縁側では、騒音が鳴り響いていた。
#お約束なオチ。
#終末世界は、本日も異常なし。
終末世界で生きる彼らの日常は、いつだって騒がしい。
自爆ハムスターな真由ちゃんは、のちほどブチ切れた亜美ちゃんにより制裁が下るでしょう。
それを止める誠一と、ケラケラ笑っている響、我関せずなナルミ。
そして、オチのボルト婆ちゃんの怒声。
お読みくださり、ありがとうございました。




