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終末世界の生存記録。  作者: 雪見もち子
【3章】現在軸:日常編

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7/7

第5話:変わり映えのない日。

ーーーーーーーーーー

■補足データ

・氏名:年齢/装備品。


・響:18歳、少年/メリケンサック。

・亜美:16歳、少女/金属バット。


・ナルミ:推定16歳、少年/???

・ボルト:推定50代、女性/ショットガン。


・誠一:21歳、男性/刀(竹刀袋入り)

・真由:20歳、女性/小型爆弾。

ーーーーーーーーーー



ーーーーーーーーーー

×月△日(月)【PM 15:00】

都心部:瓦礫街の一角

ーーーーーーーーーー


 その日、誠一は寝たままのナルミを背負い、拠点へ向かうべく歩いていた。


「はあ。何故俺がいつもこんな目に……」


「ご、ごめんなさい!私、手伝える事全然なくて……っ」


「!いえ、真由さんが謝る必要は無いですから!寧ろ悪いのは、背中で寝てばかりいるナルミのせいなので……っ!」


 しゅんと項垂れる真由と、慌てながらも首を振る誠一。

 その背中に乗るナルミをちらりと一瞥し、再び真由に顔を向けた。その時。


ーーパチリ。


 閉じていたナルミの目蓋が開いた。


「セーイチ君、止まって」


 ナルミは言葉を掛けながら、誠一の襟周りをグイグイ引っ張る。


「ぐっ!おい、ナルミッ、首、締まって……っ!」


 息苦しさに唸る誠一の足が止まる。

 足が止まったのを確認すれば、ナルミはくわりと大きな欠伸を漏らした。


「ナ、ナルちゃんさん!いきなり襟を引っ張ったら、危ないです……っ!」


 ナルミは誠一の襟元から手を離した。

 突然の暴行を受け、表情に怒りを滲ませる誠一。

 二人の様子にワタワタと慌てる真由。


ーーだが。


「マユちゃんさんも動かないで。それと、ーー静かに」


 廃ビル群の奥を見つめるナルミが落とした一言に、二人は口を閉ざした。


 動きを止める。

 辺りを警戒するように気配をそっと研ぎ澄ませる。


 僅かの間を置く。

 そして、ナルミが誠一の肩を叩き、手元でジェスチャーを行う。


 意図を察した誠一は一つ頷くと、真由の腕を軽く掴んだ。

 真由は一瞬驚きに目を丸くするも、誠一の目を見れば再び表情を引き締める。


 二人はナルミが指差した方角に向かい、静かに移動を始めた。


 三人は物音を立てないように慎重な足取りで安全地帯を探した。

 足元や身体に崩れた廃材が当たらぬように、身を屈め、時には物陰に隠れる。


 ナルミの短い指示のもと、三人は安全地帯と思わしき大きな壁裏に身を潜めた。


「……此処なら、あっちからも気づかれにくそう」


「あっち……?」


「ああ、俺も後から気づいたが、拠点付近に敵軍の影が見えた」


「て、敵軍……っ!?」


 真由は動揺して声を上げると、慌てて口元を両手で押さえる。


「今の声で気付かれるような距離じゃないから良いけど。めんどいから、接敵したくないんだよね」


 誠一は腰元のポシェットから双眼鏡を取り出す。

 壁に背を張り付かせながら、拠点の方角を双眼鏡で覗き込んだ。


 すると、視界の先に敵の軍勢が拠点を囲うように点在し、配置していた。

 数の多さに誠一は眉間に皺を寄せた。


「迂回ルートは、分かるか?」


 ナルミは眠たげに目蓋を擦りながら、壁にもたれていた。


「ん。たぶん地下道使えば行ける。あっちはまだアイツらには、見つかってないみたいだし」


「分かった。ならばナルミ先導で急ぎ拠点に向かうぞ。……真由さん、大丈夫か?」


 真由は背中に背負っていた大きなリュックを抱え込み、ナルミの隣で緊張の面持ちを浮かべていた。


「はっ、はい、大丈夫……ですっ」


 大きく頷きながら、リュックを握る手に力を込める。


 誠一は、真由の手元を一瞥すると、ナルミに視線を向けた。


「……ナルミ、此処からは自分で歩け」


「えー……。まあ、仕方ないか」


 凭れかかっていた背を浮かせ、ナルミは猫背のまま身を翻す。


「じゃあ、俺に着いてきてー。あ、真由ちゃんさんは誠一くんから離れないようにねー」


「が、頑張ります……っ」


両手の拳を握り、真由はごくり固唾を飲む。

表情を引き締める真由の隣で、誠一は不安そうに見つめた。


のんびりと歩き出すナルミを先頭に、真由を挟むように誠一が殿を務めた。

かくして三人は暗い地下道に入り込み、拠点アジトに向かって行った。



ーー拠点、3Fのフロアに全員が集まった。


 ソファに寝転び早々に眠るナルミ。

 ナルミの傍に立つ不安げな真由。

 そして誠一は、部屋の中央の椅子に腰掛ける響と対面していた。


「敵軍は目視出来るだけでも30人近く配置されていた」


「ふーん。たったの30人なんだ。今回は随分少ないんだな」


 響は手元の小説から目も離さず、ただ静かにページを捲る。


「どうするんだ?」


 誠一は淡々とした口調で響へ問いかける。

 しかし、言葉所か、表情さえ返ってこなかった。


 すると、響の背後にある窓枠の傍で、腕を組みながら待機していた亜美が顔を上げる。


ーーズル、……カキンッ。


 亜美が手にしていた金属バットの先端が床を擦る。

 そして一度、存在感を示すようび叩き付けた。


ーーパタン。


 響はその音に釣られるように手元の本を閉じ、顔を上げた。


「もちろん、お出迎えしてあげないとね」


 獰猛な双眸が細まり、口端が三日月のように上がる。

 響は不敵な笑みを浮かべていた。



 全員揃って拠点の正面から堂々と出た。


 拠点を囲うように無数の敵軍が銃口を向け、彼らの動きを見定めていた。


 緊迫した空気。

 殺気立つ互いの陣営。


 肌にピリピリとした痛みが走る。


 敵軍の主な装備は銃火器。

 対する彼らの装備はーー。


「おい、骨のある奴いそうか?」


 ザッと地面を滑るのは、亜美の履き潰されたスニーカー。

 金属バットを片手に肩を回す。

 味方の数歩前に立ち塞がり、敵軍と対峙する。


「知らん。だが、敵は無数。……守る為なら俺は、力を振るう」


 竹刀袋から刀を引き抜いた誠一が、亜美の隣に並んだ。

 集中するように呼吸を整え、背筋を伸ばす。

 誠一の気配が、研ぎ澄まされていった。


「じゃあ、お前ら二人に前線は任せるから」


 響がひらりと手を振る。

 そして、壊れた建物の瓦礫の上に腰を掛け、高みの見物をしだした。

 ついでというように、ナルミは自然に響の傍で寝転んだ。


「あ、あのっ、私も……!」


「下がってろ、お前は前に出るな」


 前を向く亜美の鋭い声が、真由に向けられる。


「な、なんでですかぁ、二人だけじゃ危険ですよ!!」


「大丈夫ですよ、真由さん。この数なら俺たちは負けませんから」


 続くのは誠一の声だった。

 当然のことのようにさらりと真由へと告げる。


「それにお前、ノーコンの自爆ハムスターって言われてるらしいじゃねーか」


 亜美の呆れ混じりの声が、真由の胸に刺さる。


「い、一体誰からそれを……!!」


 そう言いながら、真由はハッとしたように勢いよく振り返る。

 呑気に寝てるナルミを視界に映した。


「まさか……ナルちゃんさん、言っちゃいましたね!?」


 羞恥に涙を滲ませる真由が声を上げる。

 だがナルミは反応を示さず、すやすやと眠り続けていた。


「ま、そういうこった。お前は大人しく後ろいとけ。あたしが行く」


 項垂れる真由を放置し、亜美は柄を両手で強く握りしめた。


「さて、そんじゃ、行くか……」


 そして、先端を正面に向け構えーー。


「ストレス発散の時間だ!!!」


 亜美は、金属バットを振りかざした。



 赤いスカーフと黒いスカートが戦場で舞う。


ーーブォン。


 空を切り時に打撃音を鳴らす金属バット。

 亜美の獰猛な笑みと吠えるような声が、建物や敵軍の破壊音と共に響く。


 その背後を守るように、誠一の刃が敵の銃弾を切り伏せていた。

 目にも止まらぬ速さで銀色の線が幾度か振るわれる。


ーーカキンッ。


 空を切っているかのように見える、その太刀筋。

 無数の銃弾は亜美たちに当たる事はなく、地面にカラカラと虚しく落ちた。


「あーあ。そんなことしたって無駄弾だって分かんないのかな」


 自身の膝の上で頬杖を付く響が戦場を退屈そうに見つめる。


「これだから能無し無脳のゴミは嫌いなんだよな」


 瓦礫の上に座ったままの、響がつまらなさそうに吐き捨てる。

 鋭い瞳孔は形を顰るように細まる。


「非生産的かつ非効率。それに無駄な資材の不法投棄」


 敵軍の銃からカラカラと落ちる薬莢を見て静かに首を振る。

 

「……そこらの死人たちですら、しないっつーのに」


 温度の低い声が戦場の後方では静かに落とされていた。


「あっ、あの、響さん!」


「ん?何?俺、今は戦況の確認中なんだけど」


「確認中って……。あの、私、よく見えなくて……」


 年季の入った銀フレームの眼鏡を取り外す真由は、目を軽く手の甲で擦った。

 その様子を一瞥すれば、響が口を開く。


「んー、屋上に敵が五人……いや、六人?」


「えっ!?」


 響は数件先のビルの屋上を見ように顔を上げる。

 目元をありもしない日差しから隠すように、片手で遮るように添えた。


「戦闘力は……うん、雑魚だな。銃もまともに撃ててなさそう」


「見えてるんですか!?」


「俺、視力もいいんだよね。メガネっ子には見えないだろうけど」


「いえ、メガネとか関係ない距離な気が……」


 響が淡々と戦況の実況を始めていた。

 真由は呆気に取られながらも、ボソリと本音を呟く。


「あっちのビルには十人くらいか。まあ、まだ余裕だな」


 響が実況している合間にも、凄まじい速度で敵軍は二人により制圧されていく。


「あ、あわわ!!後ろ!!亜美ちゃん後ろですー!!」


「お、誠一の間合い、広くなったな。へえ、強くなったじゃん」


 土煙が上がる前線。

 瓦礫やパイプが辺りに飛び交う。


 悲鳴と怒号が激しさを増す戦況。

 銃弾の火薬の匂いが一層強く立ち込めていた。


「呑気に見てる場合ですか!?」


「いや、だって俺出る出番なくね?」


「そ、それはそうですけど……でも、ううっ」


 真由は落ち着かなく身体を左右に動かした。

 そして決意を固めたように前を見据え、真由はリュックの肩紐を握った。


「わ、私も……っ!!」


 リュックからあるものを取り出し、あるモノを手の内に包む。


ーーカチリ。


 小さな窪みを押し、スイッチを起動する。

 その音に釣られた響が真由を見て、笑みを深めた。


 瓦礫上に座る響の視線に気づかず、真由は狙いを定めるように前方へ目を凝らす。

 そして、それを亜美たちの右後方に向けて、大きく振りかぶった。


「……っ、えいっ!!」


 黒い球体が真由の手から離れていく。


 だがーー。


 何故か二人の方向へと向かい飛ばされていた。


「あっ、ああっ!二人とも、避けてくださいーっ!!」


「「は?」」


 真由の声に嫌な予感を察知した二人が、即座に振り向いた。


 その視界には、黒い塊が迫っていた。


「おいおい、まじかよ……」


 目を見開き、冷や汗を頬から流す亜美。


「……!!亜美、下がれ!!」


 その首元を掴み引き寄せる、必死な形相の誠一。


「ぐえっ」


 亜美の頬をかする真由の爆弾。


 誠一に引き寄せられた亜美は、間一髪直撃を避ける。


 そして、爆弾はそのまま二人の背後にいる敵軍へと向かい、彼らの足元に落ちた。


ーーちゅどーーーん!!!


 破裂音が大きく鳴り、爆風が上がる。


 強い衝撃波に誠一と亜美の二人は大きく後方へと跳躍した。


ーーザザッ!


 爆発の範囲は広く、敵軍の背後にあった建物を巻き込んで土煙を上げる。


ーーガラガラッ!


 建物ごと戦線が崩壊した。


「おい、コラ、ムチ子ぉおおお!!!!」


「ひっ、ひぇええ!はっ、はいぃぃ!!」


「テメェー、またやりやがったな!この、クソコンハムスターが!!!」


「ご、ごめっ、ごめんなさいぃぃ!!!」


 真由の情けない声が戦場に響き渡ったーー。



ーーーーーーーー

×月⚪︎日(火)【AM 8:00】

ボルト婆ちゃんの家:縁側にて

ーーーーーーーー


ーー翌朝。


 いつも通り縁側で寝てるナルミ、そこへボルトが呆れ顔で話しかけた。


「おい、クズ猫。またあのドジっ子が爆弾使ったんだって?」


「んあ……?あー、そう。マユちゃんさんのノーコン発動した」


「そんで、あんたはその間何をしてたんだい?」


「んー……寝てた」


「知ってたよ!!」


 ボルトは荒げた声と共にダン!と足元の床を踏む。


「ったく、あっちはアタシもよく使ってたルートだってのに……おかげで瓦礫撤去の方が大変だよ!」


 ドスドスと足を踏み鳴らしながら、店に向かい廊下を歩く。

 ふと、廊下の角で立ち止まると、ナルミへ振り返る。


「アンタも寝てるだけなら仕事しな!!」


「……」


「おい、寝たフリするんじゃないよ!!掃除しな!!!」


 本日もボルト家の縁側では、騒音が鳴り響いていた。



#お約束なオチ。

#終末世界は、本日も異常なし。

終末世界で生きる彼らの日常は、いつだって騒がしい。


自爆ハムスターな真由ちゃんは、のちほどブチ切れた亜美ちゃんにより制裁が下るでしょう。

それを止める誠一と、ケラケラ笑っている響、我関せずなナルミ。


そして、オチのボルト婆ちゃんの怒声。


お読みくださり、ありがとうございました。

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