第四章 Background of Spirited Daughter予想 11
十一
さて、青梅の夏の最後を飾るのは、弥古尾である。
ライバル社に対する、ナルヴィクのキャッチコピー闘争はまだまだ続いていた。
「代理、もう無理です。ポエム合戦になってきました」
仁楠は主任から、部長代理に昇進していた。
昼鈴らが懸念していた、仁楠はもう大抵の案件をこなせてしまって、昇進判断をしようにも壁にぶつからないな、ということについて、ここ数か月の一連の仕事によって評価されることになった。
ボルドー小学校、江東区緑課、ローザンヌ社、と、産学官と多方面にわたって、困難な、癖のある仕事を成し遂げて、賀臼も納得の昇進であった。
「あ、今どうなっているんですか?」
トコトコと塚が歩み寄って来た。今となっては、社長令嬢であると分かってはいるので、仁楠はその点では、もう必要以上に腰を低くする必要はなくなっており、強気に出ることができるようになっていた。
「塚さんが、体言止めだとかなんとか言ったから、ポエム合戦になっちゃったんでしょう?」
「え、代理。わたしのせいって言うんですか?」
「そうだよ。だから塚さんが手伝ってあげないと」
「髪の毛」
ボソリとそう口にした塚に対して、
「そうだね、上司は責任を持つということが仕事だからね。今のは失言だ。申し訳ない」
とまた早口に腰を低くする仁楠であった。あの日、これでおあいこですよ、と手打ちしたはずだが、塚は未だに、でも髪の毛集めってセクハラよりひどいですよね、と仁楠をからかっている。
手伝うはめになった仁楠は、ポリポリと頭をかきながら、とはいえもう打つ手はないよなぁ、と、早々に諦めた。
「もう諦めよう。これ以上は付き合いきれないよ」
「諦めないのがジン、と部長から聞いていますよ」
また無茶苦茶なことを押し付けてきたな、と仁楠は腕を組んだ。だがそう言われてしまえば、何も提案しないわけにはいかない。
「文学路線になったから、もう、歌でも詠もうか」
二時間二人で唸った結果、深夜テンションのように出てきたアイデアは、疲れ切った二人の判断能力では、素晴らしいと賞賛するほかなかった。
『すばらしい 洗浄力で オールクリーン』
そしてついに、五七五のコピーをひねり出した。
これを起因として、この後この二社、いやハンブルク研究所も加えて三社は、七五調や都都逸など、結果的にポエム調のコピーを考え続ける不毛な戦いをつづけることになる。
青梅は明日から九月を迎える。だが、弥古尾の案件については、ひと夏を経て尚、まだゼロ地点である。




