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第四章 Background of Spirited Daughter予想 2




 仁楠らが公園に到着すると、良足くんと堀音さん、それと担任の古里織がいた。




「増真くんは? それと、大道くんと通狩くん」




 あの日、ハンブルク研究所を相手取って大演説をした三人の姿がみえなかった。




「みんな熱を出してしまいました。風邪じゃないと思います。疲れちゃったんだと思います。かくいうぼくも、なんだか気持ちが疲れています」




 良足くんはため息をついた。ひどく落ち込んでいるようであった。




「こうなったのも、初めから決まっていたのかもしれません。


 結果というのは、ある起点のできごとに由来することしか起きませんから」




 ラプラスの決定論みたいなことを言い始めたな、口は減らないな、と仁楠は少し笑いそうになってしまった。




 古里織から事態の説明があった。増真くんたちが頼った議員、日田子ヒタゴに問題があった。




 増真くんは日田子に説明したメリットとして、小学生発案の土地整備計画といううたい文句で、それを実現した議員というのは良い票集めになるんじゃないですか、といったものを説明していた。日田子もその場で、国営の公園があっても税収は立川市に入らないから、立川市にとっても悪くない話だ、といった旨の話をしており、増真くんは、互いの利害が一致した、と満足していた。




 だが実情は違っていた。




 日田子にとってはボルドー小学校、いや押照の存在が憎いものであった。




 かつて、現在レスターで働く昌が告発して追放した、押照の元上司にあたる校長は、日田子の弟にあたった。世間が狭いのか、立川市が狭いのか。




 議員としては身内の立ち振る舞いやニュースがいつ自分の評価に降りかかるか気がかりである中、とんでもないバッドニュースが飛び込んできたので、日田子の怒りは相当であった。弟とは縁を切り、引き続き自身はクリーンな経歴と家系だ、とアピールしていた。




 しかし血は争えないものであった。日田子の弟のさぼり癖は、決して彼個人のものではなく、兄弟そろってのものであった。似た環境で育ったのだから無理もない。




 日田子としては、一度議員になった以上、この甘い蜜を吸い続けよう、という期待と同時に、なるべく働くことなく議員であり続けよう、という悪い欲望とがあった。簡単なことで、スキャンダルを起こさず、逆に新しい候補や同僚のスキャンダルを暴きさえすれば、再選は容易であった。与党ということもあり、また日田子自身、良くも悪くも、行動しない人間だったので、スクープとは無縁の存在であった。




 そこにきて、弟の不祥事が起きたので、日田子は支持率のために奮闘するはめになった。




 日田子は弟のことも情けなく思い切り捨てたが、その原因となった二人の教員への恨みが増大していった。とくに押照についていては、自身は告発せず、後輩に無理やりさせたのだろう、と決めつけていたので、日田子自身が目指す、楽して出世をされた、それも自分の弟を利用して、という激しい憎しみが生まれたのだった。




「よく、そこまで調べましたね」


「押照先生が調べ上げました。


 押照先生が我が校に赴任されたのはまだ最近なんです。それで、地固めとして、市議会議員の日田子さんに接触しました。同じ名字ということで、その場でお兄さんと分かったそうです。押照先生としては口にしづらい内容でしたが、日田子さんもそのことに言及されず、当時の教頭、というだけの自分のことなどそもそも把握していなかったのだろうな、と軽く考えていたそうです」




 それから押照と日田子は何度か接触しており、学校運営や税制についても相談にのってくれる、と押照は喜んでいた。だが日田子としては胸に秘める思いは強かったのだった。




「そこに来て、増真くんたちから接触があって、あ、利用してやろう、と日田子さんが思った、という形ですか」




 おそらく、と古里織はうなずいた。そこで和井得が口を挟んだ。




「じゃあ降江先生は、どういう立場なんですか」




 その通りであった。降江は元々、校長押照、という体制に反抗して、増真くんたちに協力したのであった。そうなると日田子にとっては、小学生たちと自分との間の折衝役にはちょうどいい立場だったはずであった。




「切り捨てられたんですか?」


「いえ、少し違っていて。日田子議員は本当に教員というのが嫌いなようで、はなから相手にもしなかったようです。これから騒音問題で矢面に立って説明をするのは自分だ、とストレスを抱えて、今は降江先生も寝込んでいます」




 一回も役に立たないな、と和井得は、馬が合わなかったことをつらつらと思い出していた。




 それで、具体的に日田子議員はどんな要求をしているんですか、と仁楠は聞こうとしたが、先に、良足くんと堀音さんとがベンチに座ったままうな垂れていることが気になった。自分たちが原因をつくった、という罪悪感もあるだろうが、信じていた大人に裏切られた、というのもショックだったようだ。




 仁楠は良足くんに歩み寄って、一言だけ声をかけた。




「ひとつだけ、教訓を伝えるよ。大人は、ほかのだれかの完全な味方にはならないんだ」


「じゃあ、あなたたちも?」


「そうだね。無償じゃ動けないよ」




 仁楠は古里織に向き合った。




「我々にまた相談があった、ということは、環境問題なんですよね」




 古里織はうなずいた。




「わたしたちハンブルク研究所は政治家ではありません。それに教育関係者でもありません。なので、直接どこまで助けられるか分かりません」




 ですが、と一拍おいて、仁楠は胸を張って言った。




「環境についてなら、できないことはありません」




 あの日のボルドー小学校事件以来、大きな問題を二つ乗り越えてきた仁楠には、強い自身がみなぎっていた。

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