第三章 カーボンニュートラルの存在と滑らかさ 1
一
『パーフェクトファイバー洗浄機能によるユートピア付き』
と、弥古尾がナルヴィクに提案したのは二週間前である。これまでは一か月は期間が開いていたが、今回、つまりラウンド四に至ってはそのいつもの半分の期間で再戦となった。
「塚さん、主任を知らないか」
「主任ならさっき、郡馬サブと一緒に、部長に呼び出されていましたよ」
まいったなぁ、と頭をバリバリ掻く弥古尾を見て、わたしが手伝えることがあればやりますよ、と塚はガッツポーズをしながら協力を申し出た。
「いやね、あのナルヴィクへの、洗濯機のキャッチコピーだよ」
「ちょっと覚えてないです」
ガックリ肩を落とす弥古尾に、落ち込まないでください、一緒に考えて解決しましょう、と塚は励ました。
「あ、あれでしたっけ。機能としてはまるきり一緒の洗濯機だから、あとはキャッチコピー合戦になっている、とかの」
「そう。でももうネタ切れだよ」
「今度は先方はどんな売り文句なんですか?」
「『アルティメットホワイトに袖を通して』だと。詩的に走られた」
もうまったく内容は伝わりませんよ、と塚は苦言を呈したが、ナルヴィクはもうそんなところで戦っていない、先方のリアクションがなくなるまで、オーバーなキャッチコピーを考えるつもりだよ、と弥古尾は、やれやれといった具合に首を振った。
「じゃあ、じっくり考えるしかないですね。わたしたちも詩を勉強しますか」
「時間がない。今日の夕方までなんだよ。どうも、CM撮影は既に終えていて、あとは編集するだけなんだけど、ナルヴィク社もライバル社も、キャチコピーがまだ固まっていないそうなんだ」
もう諦める方が早いんじゃないか、と弥古尾は毒づいたが、今朝からずっと、最近話題になったCMの文句を調べ続けているあたり、なんとか夕方までに一案ひねり出すつもりのようであった。
「洗浄がすごい、とか、すごく白くなる、とか、そこはもう言い尽くしましたよね。それ以外で、かつ、洗濯機を想起させる言葉で攻めましょうよ」
塚は一枚裏紙をもってきて、真ん中に『ピカピカの服』と書いて、そこから芋づる式に、想起できる単語を書き連ねていった。
「あ、バブル、ってどうですか」
「バブル、だけじゃ絶対に弱いよ」
「いえ、バブル、で区切るんです」
なにそれ、体現止め? と言う弥古尾に、
「いや、単語だけで、文としても成立させなくて。あとは弥古尾さんがポエムを続けるんです」
「なんでぼくがそんな恥をかかないといけないんだよ!」
「でも、もうネタが被っちゃうんですよね?」
それはそうなんだけどさ、と弥古尾はブツブツ言いながら、まぁ、ありがとう、と一人デスクに戻った。そういえば塚は、この会社で唯一の文系の学部だったな、と思った。
ずっと同じことを考え続け、かつ、締め切り時間もあったことから、ええい、ままよ、と弥古尾は思い切り、
『バブル 泡ははじけ消える 汚れとともに』
とポエムをしたためて、ナルヴィクに送信した。
八月、山のふもと青梅市にも、等しく猛暑日がやってくる。




