009
ここにくるまで一人だったカーゴに、もう一人乗り込んでいた。
それは、倉庫で助けたあの若い少女だ。
名前は『レン』と名乗る女を乗せて、俺はカーゴの運転席に座っていた。
茶色のミディアムボブの少女で、顔も蓮よりずっと幼い。
白いブレザーに、赤いスカート。初め見たときは、よく分からなかった。
そんなレンは、頭に大きな黒い帽子を被らせていた。
「で、学生か?」
「そうよ、あたしはレン……中学は浦安の学校に通っていたけど」
「浦安?」聞き覚えのない単語に、俺は首をかしげた。
同時にスマホの『マートン』で、俺は尋ねてみた。
【マートン、『浦安』ってなんだ?】
【浦安……大戦前の日本という国にある都市の名前】
スマホアプリに話をしていると、険しい顔を見せたレン。
「なによ、あたしにちゃんと聞きなさいよ」怒った顔のレン。
「知らない単語を聞いたからな」
「で、あんたは何者?」
「俺か?碑文谷 修成。番号は『8929314847』」
「なに、その番号?」
「お前、アールナンバーを知らないのか?」
俺の質問に、レンは静かに頷いた。
「うん、知らない。ゴホッゴホッ」
「なるほどな、だからこれを……」
取り出したのは麦わら帽子。大きなつばが特徴。
「で、この麦わら帽子は?」
「お前の番号が無いからな、これを被っておけ。
この人工島には、番号が無いは存在できない。
さっき分かったと思うけど、あのドローンで消される」
「殺されるじゃ無くて?」
「消される。人類にとって不要な存在だと、神であるマートが判断したからな。
だから帽子を被って、番号の探知されないようにするしかない」
「なによ、それ?ゴホッゴホッ」
彼女……レンは何も知らない。
番号も知らない上に、番号も無いし、不思議な存在だ。
それでも、カーゴを見ながら「未来」とか「かっこいい」とか不思議なことを言う。
「そもそも、お前はあそこで何をしていた?」
「あたしも、目を覚ましただけだからわかんない」
「あの倉庫で寝ていたのか?」
「いや、倉庫の遥か地下よ。
なんであんな場所で寝ていたのか……思い出せそうで思い出せない」
「なんだ、それ?」
考える仕草を見せる少女。俺は話をしながら、前を向いていた。
今のところ、ドローンの追っ手はない。
一応彼女はレッドナンバーではないので、そこまで追撃はされていないのかもしれない。
「だけどね、ゴホッゴホッ」咳き込んだ少女。
「おいおい、大丈夫か?風邪か?」
「風邪じゃ無くて……うーんあたし……感染症にかかっていたんだ」
「うおっ、マジ?」いきなり変なことを口にしてきた少女。
だけど、俺は首をかしげていた。
「感染症なんか、かかるわけないだろ。今は二十二世紀だ」
「あたしは、かかっていたの。って、今は二十二世紀なの?」
「ああ、今は2123年の5月だ。お前、そんなことも知らないのか?」
「知らないわよ……あたしはずっと眠っていたんだし」
「ふむ」感染症と、番号無し……それから今の時間も知らない。
眠っていたという決定的な言葉を加味して、俺は一つの結論を出した。
「お前、コールドスリープしていないか?」
「あっ、そうよ。それ!」
レンはそう言いながら、俺の事を指さしていた。
「思い出した!あたしは、コールドスリープをしていたのよ。
あたしが眠っていたのは多分、あの数字2022……かな?」
「それって、100年前じゃ無いか!」
俺は思わず、レンに対して突っ込んでいた。
それでも、レンは胸を張って俺を見ていた。
「そうよ、あたしは百年も眠っていた中学生ってことね。ゴホッゴホッ!」
レンが叫ぶ中、俺たちが乗っているカーゴは大きなマンションの駐車場に辿り着いていた。