ルーミア (王子レリック)
長い時を経て、僕は司祭になっていた。あの時のアキム司祭様と同じ地位についたが、僕は到底彼には及ばない。自分の想いで精一杯で、彼にように優しく誠実に誰かに寄り添うことはできていない。
新しく教区の大司教が替わると通達が来た。そして、大司教としてやって来たのはアキム様だった。
「お久しぶりですね」
アキム大司教様から声をかけてくれた。
大司教室へ通され、二人で向き合って座る。これまで僕がどう過ごしてきたのかを聞いて、アキム大司教様は静かに頷いていた。
「以前、ロイに会ったときに聞きました。ラスター王国の不正を告発したのがあなただったと。ああ、ロイというのは、ルーミア様の件を調査した高等法務院の調査官です。つながりをみる能力の子がいたでしょう?ラスターの孤児院にいた子でね…。あの子が、告発したのがあなただと知って、民を想ってくれるところはやっぱり姫様のお兄様なんだと思ったと言っていましたよ」
ルーミアの兄として、僕は正しい行いができていたのだろうか…その思いに一つ答えをもらった気がした。
「あなたは笑わないのだと聞きました…」
「妹を死に追いやった僕に、笑う資格はないので…」
僕の言葉を聞いて、アキム大司教様は悲しそうな顔をした。
「あなたは、まだ姫様の死にとらわれているのですね…」
うつむく僕に、アキム大司教様は続けた。
「姫様が亡くなって、長い時間が経ちました。姫様の死を…生きたことを忘れてはいけないと思います。けれど、ずっと己の罪と…罪悪感や後悔と向き合ってきたのでしょう…?ルーミア様に恥じないように生きてきたと思えるのなら、もう自分を許してあげてもいいのではないですか…?」
思いがけない言葉に、顔を上げてアキム大司教様を見た。
「ルーミア様は優しい方でした。いつまでもお兄様が自分を責め続けていることを喜ぶ方ではありませんよ。確かに、ルーミア様は冤罪で亡くなった。けれど、大好きだった兄が自分のせいで笑ってはいけない、喜んではいけないと思い続けて生きることを姫様は悲しまれると思います」
何も言えない僕に、さらに言葉をくれた。
「もう一度言います。もう、自分を赦してあげなさい。笑ってもいいんです。あなたの生に喜びがあることを、姫様だって喜んでくださいます」
僕の瞳から涙がこぼれた。
アキム大司教様は、他にも僕にたくさん言葉をくれた。大司教様と別れる時、笑顔を見せた僕に、アキム大司教様は一瞬目を見開き、そして微笑んでくれた。
「姫様のお兄様ですね…笑い方がルーミア様に似ています。目じりを下げて、優しく微笑むところがそっくりです」
ルーミアと同じと言われたことが嬉しかった。これほど心が温かく感じたことは本当に久しぶりだ。
ルーミアに最期まで寄り添ってくれたアキム大司教様に「自分を赦してあげなさい」と言ってもらえたことで、自分の心が軽くなった感じがした。
笑ってはいけない、喜んではいけない、幸せだと感じてはいけない…そう思って凝り固まっていた自分に、光が差した。
時々、祈りを捧げた早朝に神聖で透き通るような光を見るときがある。その暖かく柔らかい光を見ると、ルーミアの笑顔を思い出す。
あの日、アキム大司教様と会ってから、大司教様が昔言っていたことがわかるようになった。
死ぬまでルーミアのことは忘れない。ルーミアのために祈り続ける。
ルーミアの愛した民のため、神に祈り続ける。
これからは、嬉しかったこと、幸せだと感じることを自分に許したい…出会う人々、起こる出来事すべてに素直に感謝し、生きていきたい。
いつか、ルーミアに報告できるように…ルーミアに恥じない生き方をしていきたい。
教会の窓からさす穏やかで優しい光が、僕の行く道を照らしている。
僕はあれから、過去の償いのためだけではなく、未来の希望のためにも祈れるようになった。
皆の進む道に、暖かい光が降り注ぎますように…。
これにて完結です。
はじめはアキム司祭の視点で終わりの予定(18話→21話)でした。王女の兄については「聖職者になったらしい」だけで、兄視点はなく終わる予定だったのですが、それではあまりに兄への救いがなさすぎると思って急遽話を追加することにし、19話、20話、22話を書きました。
ブクマしてくださった方々、いいねをくださった方々、読みに来てくださった方々、皆様への感謝の気持ちでいっぱいです。
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最後までお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました。




