92話 魔鳥と設置
樹海の中はじっとりと肌にまとわりつくような空気が充満していた。
歩くほどに不快感が増す。
(この感覚、どこかで……)
ウェッジは心に引っかかりを覚えながら、大振りのナイフで草や枝、ツタやツルを切り進んだ。
「こうも見通しが悪いと、師匠たちを探すのは、骨が折れそうですね」
ウェッジの後をフィールが続く。
「そうですね。これほどの規模の森林なのに、生き物の気配が全く無いのは奇妙ですね。おかげで、物音や人の声は拾いやすいですが……」
樹海は静まり返っている。
鳥や虫の鳴き声すらなく、わずかに葉の擦れる音と、ウェッジたちの呼吸音だけが響く。
先遣隊を広い樹海で闇雲に探すのでは、ウェッジたちも遭難してしまう。
そこで、まずはエリィから預かった《集魔球》を結界の魔道具に設置する。
先遣隊も同じ目的でこの樹海に来ているため、魔道具の近辺に居る可能性が高いと踏んだ。
ここで、ウェッジの目が何かを捉えた。
手の動きでフィールに立ち止まるよう指示を出す。
二人で息を潜め、前方を注視した。
木々に隠れ、何かが動いている。
最初は木の一部かと思ったが、木肌に似た色合いの大型の鳥だった。
鳥は枝に止まり、周囲を見回しているようだ。
そのとき、フィールが枝を踏んでしまった。
ぱきっと乾いた音が響く。
前方の鳥がこちらを向いた。
(気付かれた……!)
鳥が嘴を開け、ぐえぇ、と潰れた蛙のような声で鳴いた。
蒼白い光が鳥の周囲に舞う。
すると、ウェッジたちの周囲の木々が動き、鋭い枝を伸ばしてきた。
「まさか、《原始魔法》を使えるのか!?」
魔獣が使える単純で野性に近い魔法。
ウェッジはナイフで枝を打ち払うと、鳥の喉を狙い、ナイフを放った。
ナイフは首を串刺しにし、鳥は落下した。
「生き物、それも魔獣がいるとは、驚きましたね」
ナイフを回収しようとウェッジは鳥の死体に手を伸ばす。
頭上から、先ほどの特徴的な、ぐえぇ、という鳴き声が聞こえた。
そして、後ろから、前から、鳴き声が重なり合う。
暗い森の中で、魔鳥の目が蒼く光る。
ウェッジたちを少なくとも十数羽の魔鳥が取り囲んでいた。
バキバキと枝が槍衾のようにウェッジたちに迫ってきた。
ウェッジは急ぎ、フィールの手を引くと駆け出した。
進行方向の魔鳥にナイフを投げる。
魔鳥の包囲網を崩すと、ウェッジたちはその穴から逃げた。
牽制でナイフを投げながら、鳥たちを引き離す。
ようやく鳥たちを振り切ると、ウェッジは木にもたれ一息ついた。
「エリィが言っていた、魔獣との戦闘は控えるように、という忠告は、このことだったのでしょうか」
群れで森の気配に溶け込み、《原始魔法》を使う魔鳥。
先遣隊もあれに襲われたのだろうか。
「ウェッジさん、ありがとうございました。確かに、あんなのに次から次に襲われたらたまりませんね……」
フィールも複雑に入り組んだ森では魔法が使えないようで、ウェッジと一緒に走り、今は息を整えている。
逃げているうちに、目的の魔道具のある地点から少し遠ざかってしまった。
「今度は慎重に、警戒しながら進みましょう」
ウェッジの提案にフィールも頷く。
ウェッジたちは周囲を探りながら、魔道具のある場所を目指した。
今度は何とか魔鳥に遭遇することなく、目的地に辿り着いた。
「これですね……」
結界を発生させる魔道具は木の幹に埋まっていた。
見た目は魔法士の使う杖によく似ており、幹の真ん中にぽっかりと穴が空いている。
「この穴に、《集魔球》を嵌め込むんですね」
エリィから聞いた方法で《集魔球》の設置を手際よく行う。
ピッタリと球が穴に収まる。
「これで、まずは一つ」
残るは三つ。
ちょうど樹海の東西南北に魔道具が位置しているので、これから時計周りに進む予定だ。
ふと、ウェッジは何かの気配を感じ、振り返った。
だが、何も無い。
ただ、魔道具の埋まっている木だけであった。
ウェッジは思い過ごしだと判断し、フィールと一緒に先を急いだ。
感覚を狂わせるような何かが、この《樹海》に蠢いている。
ウェッジはそんな言葉に出来ない恐怖をじわりと感じながら、森を進んでいった。
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