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90話 束縛と加速

侵食樹海ディープ・フォレスト》に向かうことになったウェッジとフィール。

フィールが胸ポケットから地図を取り出して、現在地と目的地を確認する。

「そうですね……、障害となる起伏や構造物は、うん、無いですね! これなら半日もせずに《樹海》に着けそうです!」

フィールは張り切った様子だ。

「半日……。それは凄い」

《樹海》まではウェッジの足だと一週間はかかりそうな距離である。

「いやいや、僕なんかまだまだです! 師匠なら、僕の更に半分で行けるんじゃないかな」

「さすが《運送屋》ですね」

「ありがとうございます! 師匠ともどもご贔屓にお願いします!」

彼ほどの少年でも、さすが商売人だ。

商魂が溢れている。

「じゃあ、さっそく出発しましょうか!」

「何か道具や乗り物は使わないのですか?」

フィールは身ひとつで、軽装に近い。

ウェッジの知る《運送屋》は、馬車を使ったり、魔法陣を描くための水晶粉を一袋抱えたりしていた。

「はい! 僕と師匠は純粋な強化魔法で速度を出します。なので、ウェッジさんにはこれをお願いします!」

フィールから手渡されたのは、一本のロープだった。

「これは?」

ウェッジが首をかしげると、フィールはロープの端を握り、後ろに回り込んだ。

「ちょっと失礼しますね!」

あっという間にウェッジを縛り上げる。

警戒していなかったとはいえ、ウェッジにナイフを触らせる暇すら与えない早業。

「一体、何を!」

「最初は皆さん、驚くんですけど、こうでもしないと大変なんですよ。そらよっと!」

フィールは縛ったウェッジをそのまま背負った。

ウェッジより体躯の小さいフィールであるが、大人ひとりを軽々と背負っている。

そして、フィールはロープを自分の身体にも括りつけ、ウェッジを固定した。

「これで良し!」

「フィールさん、この恥ずかしい状態は……?」

さすがに、ウェッジにも子供に縛られておんぶされるのを恥じる羞恥心はある。

「これが僕らの運送スタイルです。目的地まで我慢してください!」

状況を補足すると、ウェッジたちがいるのは《協会ブロンヅ》本部建物を出てすぐの大通りである。

当然、道行く人も多い。

「これで、準備完了です! ウェッジさん、注意点ですが、口をしっかり閉じていてください。舌を噛みますから」

「分かりました……」

一刻も早くこの場を離れたいウェッジは、無抵抗であった。

「じゃあ、行きます!」

フィールは気合を入れると、全身から蒼白い燐光を放った。

「《星の如く準螺旋(シューティング)を駆け上がれ(・スター)!」

フィールが魔法を実行した、その瞬間。

ウェッジの身体は宙をんでいた。

フィールが跳躍力を強化して、周囲の建物を飛び越えたのだ。

建物の屋根に着地する。

かなりの高さから落下したが、衝撃も魔法で吸収しているようだ。

フィールが足を踏み出す。

景色が後方に流れる。

屋根を飛び跳ね、建物を跨ぎ、都市の城壁を飛び越えた。

街の外の荒野に降り立っても、速度は衰えない。

弾丸の如き疾駆。

風の唸りが耳朶を打つ。

気がつけば、魔法都市は遥か後ろである。

「僕は師匠みたいに《音超え》までは出来ないですけど、この調子で行きますね!」

ウェッジはフィールにしっかりとしがみつく。

激しい躍動をしていても、少年の走りは安定していて、安心感がある。

(これなら、何の問題もなく《樹海》に辿り着けそうですね)

フィールの実力が確かなものであると分かり、ウェッジは《樹海》攻略の力強い味方を得た気分だった。

そして、《樹海》に向けて精神を研ぎ澄ませていくのだった。

数ある作品の中から、本作品をお読み頂いてありがとうございます。


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