86話 仇と不自然
休憩ということで、アリスが紅茶を入れて皆に配る。
紅茶で口を湿らせたウェッジはアリスたちに聞いてみた。
「お二人とも、マキシに何か質問がありますか?」
「え……っと、あたしは……、今はいいです」
アリスはそう言うと俯いて紅茶を啜った。
その横で、静観していたフィオが口を開いた。
「我はある。聞かせてもらおうか」
一拍を置き、フィオはマキシと正対した。
「貴様ら魔族で、炎の魔法を使う者はいるか?」
アリスの肩がびくっと震えた。
ウェッジも思わずフィオの方を見る。
「どうだ? 黒い翼で、炎を使う魔族はいるのか?」
詰め寄るフィオ。
マキシはフィオたちの反応が何に起因するものか分からず、戸惑いながら答えた。
「え、あ、はい。炎の魔法が得意な方なら、一人……。確かに、そう、黒い翼ですね。もしかして、お知り合いだったりしますか?」
フィオはマキシの能天気な問いには答えなかった。
代わりに、アリスが心配そうにフィオに声を掛ける。
「フィオ……、それって……」
アリスの住んでいた教会堂とアリスの友人たちを焼き殺した、黒い翼の魔族。
アリスの仇とも言える存在だが、今までは全く情報が得られなかった。
ここに来て、黒い翼の魔族に一気に迫ることが出来るのだろうか。
「そやつ、名は何と言うのだ?」
「ライリさん。炎のライリ、と呼んでいます」
「ライリ、か……」
フィオは噛みしめるように呟いた。
「とりあえず、それでいいですか?」
さすがに、仲間の情報をペラペラ喋るのは少し気まずいのか、マキシは話を切り上げようとした。
「いや、もうひとつ聞かせろ」
ここでフィオが食い下がる。
「そもそも、だ。貴様ら魔族とは一体、何なのだ?」
マキシの雰囲気が、いや、場の空気が一変した。
フィオは今、魔族の根本を問うた。
しかし、それはマキシの触れてはならぬところだったのだろうか。
マキシは先程とはうって変わって冷たい態度を取った。
「その質問に、答える意味はありません」
「何故だ?」
「魔族が何であるか……、その問いに答えることは人類に有益ではありませんから」
「人類に有益でない……?」
ウェッジが繰り返す。
(ずいぶん主語を広げてきましたね……)
ウェッジはフィオとマキシの問答を見守ることにした。
「我は思っていたのだが……、貴様ら魔族というのはどうも歪つだ」
フィオはマキシの周囲をゆっくり回りながら語りだした。
「侵食精霊の我と同等、あるいはそれ以上の魔法を使い、転生者を狩る存在、それが貴様ら魔族であろう。人間や魔獣が魔法を使うのは、基本的に生きるためだ。そのために身の丈に合った魔法を覚え、使っておる。……まぁ、人間については些か逸脱しておるがな。だが、貴様ら魔族は生きるのに必要な魔法という領分を遥かに越えている。まるで、転生者を屠るためだけに、何者かに与えられたかのような、それほどの魔法遣いだ」
「……何を言いたいのですか?」
マキシの眼はもはやフィオを見ていない。
「つまり、貴様らはどこから来た? どこへ行く? 魔族とは一体、何なのだ? さぁ、答えてみせろ」
「……、貴方がそれを言いますか、《侵食精霊》」
「何だと!?」
「自分のことは何も分かっていないようですね……。まぁ、いいです。……私たち魔族は世界の修正と管理を担う端末のひとつに過ぎません。」
「端末……?」
「残念ですが……、私にはこれ以上のことを話す権限は与えられていません。」
傍から見てこれ以上無いほど硬直した態度で、マキシはそれ以上の問答を拒絶した。
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