85話 質疑と応答
アリスとマキシ、二人の初顔合わせは共に叫んで終わってしまった。
だが、それでは話が進まない。
なので、その翌日、ウェッジは二人を再び引き合わせてみた。
「アリス、昨日は説明不足ですいませんでした。こちら、魔族のマキシと言います。私たちと戦って、一旦休戦ということになりました。ですが、色々聞きたいことがあるので当面はこちらに身を寄せてもらうことになります」
とりあえず、ウェッジが場を取り仕切る。
フィオは経緯を知っているはずだが、ふわふわ浮かぶだけで口を開こうとはしなかった。
「よ、よろしくお願いします……」
か細い声でアリスに挨拶をするマキシ。
アリスとマキシはテーブルに座り向かい合っていた。
アリスはまだ怯えが残っているようで、マキシと目をあまり合わせようとしない。
「た、確かに魔族の人には聞きたいこといっぱいあるけど……、ウェッジさん、大丈夫?」
「わ、私はその気になれば、この場に居る全員を巻き込んで倒せるだけの魔法を使えます。ですが、この期に及んでもそうしないというのが、敵意のないことの証明に、なると、思うんですけど……」
最後は消え入りそうなほど声が小さかったが、マキシはアリスに主張した。
アリスは助けを求めるような目でウェッジを見た。
ウェッジはそれに応えて頷く。
「分かりました。目の前に魔族の人がいて、こうやって喋ってるっていうのも、なんか変な感じですけど……。でも、あんまり悪いような人じゃなさそうだし、信じます」
アリスはそこでようやく安心したようだ。
「あ、ありがとうございます」
マキシは律儀に頭を下げた。
二人の様子を見て、ウェッジはようやく緊張を少し緩めることにした。
「これで、ようやく話を始められますね」
人間と魔族の溝というのは思う以上に深い。
だが、言葉が通じるのならば、お互いは歩み寄れるのではないか、とウェッジはほのかな期待を抱いた。
「まずは、魔族と呼ばれる者たちの組織規模、所在、目的、というところから教えてもらいましょうか」
ウェッジは差し当たり魔族という存在の外堀を埋めることにした。
「わ、私たち魔族って、そんな肩肘張った集まりじゃなくて、とりあえず四人で手分けして《転生者》を殺していこう、ってノリでした……」
”殺す”という物騒な言葉を聞き、アリスが身をこわばらせる。
「……ずいぶん、ざっくりしてますね」
ウェッジはマキシに話の先を促した。
「所在、ですか……。私も人間の世界がどうなってるのかよく分からないですけど、方角はあっちで、距離は大体……」
マキシの申告を信じるなら、遥か遠方の未開の地に、魔族の集う城があるようだ。
「残りの魔族を討伐するにも、場所が場所だけにこちらから攻めるというのは難しそうですね……」
「私たちは翼があるから、そんなに苦にはならないんですけどね」
魔族を異形たらしめる背中の翼。
それが魔族の神出鬼没の行動を支えているようだ。
「貴方たち、魔族の目的とは何ですか?」
「さっきも言いましたが、とりあえず《転生者》の抹消です。それが、私たちの存在意義、みたいになってます」
「《四獣遣い》というのは聞いたことは?」
「あ、そういえば昔、人間がそう言ってましたね。私たちは別に人間からどんな呼ばれ方でも気にならないから、好きに呼んでください」
「確認ですが、貴方たち魔族とは、四人のみの存在ですか?」
「はい、ウェッジさん。貴方が殺したテルモアさん……、彼を入れてもたったの四人。それが魔族の全てです」
ウェッジはわずかに眉間に力を入れて反応した。
だが、次の瞬間には表情を戻し、ため息をひとつ吐いた。
「……分かりました。残りの魔族についての情報も聞きたいところですが、ひとまず休憩しましょうか」
話を聞くだけとはいえ、魔族との対峙はそれなりに緊張感が伴った。
魔族は人類の敵、いや、転生者の天敵である。
しかし、話を聞いていると、それなりに人間味のあるところが見えてくる。
残りの魔族二人に関しても、対話次第では戦闘を回避できるのではないか。
マキシの何となく軽い受け答えのせいだろうか。
ウェッジはそんな楽観的な希望まで持ってしまった。
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