表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/118

83話 叫びと祈り

◇◇◇


さて(・・)……、どこから話し始めましょうか……。まずは時系列で、事件の始まりからですね。

貴方たち《ワンド》は《協会ブロンヅ》の本部を占拠しました。

人質を取り、外の者に要求を突きつける。

わずかな手勢で目的のものを勝ち取る手段として、立て籠もることを選んだ。

その手段の是非については私は論じません。

ワンド》のリーダー、アルファは緻密な作戦を練って、事件当日に臨んだのでしょう。

一方で、貴方も秘密裡に作戦を立てていた。

ワンド》の作戦に乗じて、自分の目的を果たすための作戦。

メンバーを裏切り、殺すための算段を立てたんですね。

そして、今日。

貴方は、まずメンバーの一員として活動を始めた。

人質を一ヵ所に集め、リーダーが交渉の準備を始めるところまで、貴方は従順なメンバーを演じていた。

自分の与えられた役割をこなす一方で、メンバーの隙をうかがっていたのでしょう。

おそらく、一度にメンバーを殺害していくのは困難だったと思います。

ですので、まず一人を殺害して、《ワンド》のメンバー内で疑心暗鬼を誘ったのかもしれません。

そして、《協会ブロンヅ》内が混乱に陥った状況で、貴方はある魔法を使った。

今回の事件で鍵を握る魔法。

それは鳥を使い魔にする魔法です。

貴方はこの魔法を使って、巧みに外と内を分断したのですね。

ワンド》のリーダー、アルファでしたか、彼は鳥の使い魔を通じて、憲兵団と交渉していた。

しかし、その相手は、憲兵団のふりをした貴方(・・)だった。

実際には、《ワンド》は憲兵団と何も話していなかったのです。

そして、交渉した気になった《ワンド》のリーダーを始め、メンバーを一人ずつ油断させてから殺害していった。

人質に目隠ししたのも、貴方の発案なのでしょうね。

ワンド》の殺害を途中で気付かれたり、余計なことを話されて邪魔されないために。

そうやって、人質に違和感を持たれないようにしながら、貴方は《ワンド》を全滅させた。

次に貴方がしたことは、人質に扮して憲兵たちの前に姿を現すことでした。

貴方は犯人たちから解放されたように装って、憲兵団の懐に飛び込んだ。

この時点で、立て籠もり事件の犯人はすでに死んでいるのに、それを悟られないように、まだ犯人は建物の中にいると錯覚させた。

ここで、犯人からの要求をひとつ付け加えたのですね。

おそらく、最後の逃亡用の資金と馬車は貴方が考えたものでしょう。

なるべく、要求の実行を遅らせるため、時間稼ぎのためのものでしょう。

そして、詰所から出て、憲兵団のところに鳥の使い魔を送った。

今度は、《ワンド》のリーダーを名乗り、貴方は憲兵団をたばかったということです。


つまり、貴方が行ったことを時系列にまとめると、こうなります。

①《ワンド》が《協会ブロンヅ》で人質を取り、占拠。

②《ワンド》のリーダーに憲兵長のふりをして、交渉。

③《ワンド》のメンバー殺害。

④解放された人質のふりをして、《協会ブロンヅ》の建物の外へ出る。

⑤憲兵団に《ワンド》のリーダーのふりをして、交渉。


……こうやって、貴方は《ワンド》と憲兵団の両者をそれぞれ演じ、本物の《ワンド》と憲兵団を騙しきったのです。

それが出来たのも、貴方が計画の中枢に近い、腹心のポジションに位置する人間だったからでしょう。

……私が分からないのは、なぜ仲間を殺したのか、その動機です。


――両手を血に染めてまで、貴方が得たものは何だったのですか?


◇◇◇


ウェッジの問いに、《ワンド》内でブラボーと呼ばれていた男は黙ったままだった。

「答えませんか……」

すると、憲兵長がウェッジと男の間に割って入った。

「もういいではないか。こいつが犯人なら儂はしょっぴくぞ」

憲兵長は何か言いたそうなウェッジの顔を見て、ため息をひとついた。

「それにな、こいつの動機なら……、儂にも分かる気がするぞ」

男とウェッジの視線が憲兵長に向かった。

「こいつが《ワンド》を壊滅させた理由は、十年前の事件の復讐だろう」

十年前の事件。

ワンド》が起こした公館占拠事件。

三十名の犠牲者を出した、憲兵団と《ワンド》双方にとっての汚点。

憲兵長の横槍にも、男は何も答えない。

だが、その死んだような目の奥に、ちろりと炎に似た意志が見えた気がした。

憲兵長は男に語りかけながら、彼のところに歩を進めていった。

「この墓地の、こいつが祈っていたところは、十年前の事件の犠牲者が眠る場所だ」

男がこの場所を示したのには明確な意味があった。

すべてが終わり、墓前に報告をしていたのだろうか。

男の十年越しの終着点は、このうら寂しい場所だった。

「ここにはな、……儂の部下と同僚も眠っておる」

憲兵長は傍らの墓碑に目を落とした。

「確かに、あの事件の関係者であれば、《ワンド》憎し、という思いはあるだろう。だが、自ら《ワンド》に入り、十年間も復讐の機会を窺っていたとなれば、並みの精神力ではあるまい」

十年間というのは途方もない年月だ。

その間、復讐の火を絶やすことなく持ち続けること自体、尋常の精神ではない。

憲兵長自身も理解出来るとは言ったが、この男の精神状態は計り知れないものがあると感じていた。

「そうだな……」

男がぽつりと呟いた。

憲兵長の足が止まる。

ウェッジも静かに男の次の言葉を待った。

「確かに、十年という歳月は長かった……」

男の声は感情の籠っていないものだった。

復讐を果たしたことによる喜びや達成感といったものも。

ワンド》に対する憎悪や怒りも。

失った者たちに対する哀悼や憐憫も。

男の声には何も無かった。

「もはや妻や娘の顔も、声も、思い出せないほどに、長い時間だった……」

復讐の動機、それは愛する家族を失ったことによるもの。

だが、ウェッジは男を見ていて憐れみを感じた。

復讐を果たしても、この男は何も残っていなかった。

おそらく、妻と娘だけではない。

この男の心も、十年前に、一緒に死んでしまったのだろう。

今、ここに立っているのは、《ワンド》を壊滅させた復讐の鬼ではなく、あまりに空っぽな一人の男だった。

憲兵長は歩み寄ると、腰の縄をほどき、静かに男の手首に巻いた。

男はただそれを眺めているだけで、抵抗はしなかった。

ここまで無抵抗の男が、なぜ立て籠もり事件で《ワンド》を壊滅させた後、その場ですぐに投降しなかったのか。

「最後に、祈りたかった……」

捕縛された男は誰に言うでもなく、言葉をこぼした。

応援の憲兵団が駆けつけてきて、墓地はにわかに騒がしくなった。

ウェッジは、男が憲兵たちに連れていかれる姿を、ただ、じっと見ていた。

数ある作品の中から、本作品をお読み頂いてありがとうございます。


もし、気に入って頂けたら、評価ptの入力やブックマーク登録を是非お願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ