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72話 懐柔と爪痕

なんとか泣き止み、落ち着いたマキシを前に、ウェッジは頭を悩ませていた。

(勢いで魔族と手を組むことが出来ましたが……、正直どうしたものでしょう)

一瞬で風景が変わるほどの魔法を行使できる存在、魔族。

転生者と同じく、人の手に余るものである。

しかも、つい先刻まで敵として刃を交えていたのだ。

(しかし、これほどの魔法を扱う相手を野放しにしておくこともできません。近くに置いて監視しつつ、情報源として利用しましょうか……)

マキシの処遇について一応の方針を立てたウェッジは、マキシに身の振り方を聞いてみた。

「えぇと、マキシ、で良かったですよね? 貴女はこれからどうするのですか?」

「これから……」

また、びえぇと泣き出す気配のマキシ。

ウェッジは泣きだす気配を察知して慌てた。

「ま、待ってください! 落ち着いて。元の場所に戻る気はないのですか? 行く当てはあるのですか?」

質問を重ねることで、相手が泣くことをなんとか収めようとする。

「行くところは……、もうあの場所には……、戻れません。当ても……、ありません」

この返答はウェッジの想定内であった。

「魔族ですから、人間界にそうそう根城があるわけないですからね」

そして、少しためらったが、言葉を口にする。

「……なら、私たちのところに来ますか?」

自分たちのところに連れていき、魔族を懐柔できるかは分からない。

だが、情緒が不安定なところを見ると、放っておけば寝返る可能性も否定できない。

ならば、いつか、どこかで襲われるという危険を、身近で対処の余地があるところまで落とし込むのが、ウェッジの考えであった。

「……いいんですか?」

マキシが返すと、ウェッジは頷いた。

「うえぇーん、ありがどぼござびばずー」

マキシはまたも泣いて、ウェッジの腰に抱きついた。

ウェッジとしては打算があるので、礼を言われるのは少し心苦しい。

(それより、よほど、優しくされることに慣れてないのでしょうか……)

「フィオも、それで構いませんか?」

「この者を敵に回すよりはまだマシか。だが、爆弾を抱えているという認識だけは忘れるなよ」

フィオはそう言うと、先程の掘削で埃だらけになった身体を毛繕いし始めた。

(味方にできれば、心強い戦力になると思うのですが……)

向こうから狼の鳴き声が聞こえた。

マキシが声の方を見ると、狼の魔獣が尻尾を振りながら走ってきた。

大した傷もなく、どうやら無事である。

危険を察知して大地に挟まれるのを避けることが出来たようだ。

飼い主は抱きついて狼の無事を歓迎していた。

狼は迷惑そうな顔である。


ウェッジは脅威が一応は去ったことで、ひとつため息をついた。

砂混じりの風が、頬を撫でる。

ウェッジは振り返り、広がる渓谷を見渡した。

目に映るのは、辺り一帯が隆起していびつとなった大地。

それは魔族との戦いの痕だった。

ウェッジは改めて、マキシに対して、そして魔族に対して恐怖を抱いた。

だが、アリスのことを思い出すと、ナイフを握り、その恐怖を飲み込んだ。

数ある作品の中から、本作品をお読み頂いてありがとうございます。


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