70話 狼と圧潰
「さぁ、仕事を始めましょうか」
マキシは冷酷に言い放った。
彼女は岩山の頂上で女王の如く君臨している。
ウェッジは周囲を見回した。
狭い谷底に落とされたと錯覚してしまいそうになる。
周囲一帯は岩肌が迫る渓谷に様変わりしていた。
一瞬で風景を変えるほどの大規模な魔法。
(やはり魔族……、侮れませんね……)
マキシの態度で軽く見くびりそうになるが、この規模の魔法を対人で使われては、こちらは成す術がない。
対するマキシは紙束をめくり、ぶつぶつと呟いていた。
「えぇと、作戦そのいちが上手くいったら、次の手は……」
どうやら紙に書いた作戦を確認しているようだ。
「フン、こうも容易く地の利を取られるとはな」
フィオは鼻を鳴らす。
プライドの高いフィオにとって、頭上を取られたことは面白くないようだ。
「この地形、敵にとって優位となることは間違いないですね。なので、まずは上に登りましょう!」
言うと、ウェッジは壁にナイフを投げた。
足掛かりを作って、壁を登っていくつもりだ。
フィオも高度を上げて、谷を脱しようと試みる。
しかし、頭上から岩肌を落ちるように滑り降りてくる影が見えた。
「行きなさい、ミチル! 作戦そのにです!」
「グルルルゥ、ウオォォン!」
マキシの号令を受けて、唸り声をあげた狼の魔獣が飛びかかってくる。
「素直に登らせてはくれませんね!」
ウェッジはナイフで、フィオは炎の矢で応戦する。
狼は壁を蹴り、ウェッジたちの攻撃を躱す。
壁のわずかな足場を利用して跳ねるように動き、的を絞らせない。
ウェッジが鉄線を取り出し、ナイフに絡める。
「フィオ、援護を! 動きの速い魔獣なら、《囲繞》で縫い付けます!」
鉄線をナイフで打ち出し、狼の動きを止めようと試みるウェッジ。
フィオは狼の行く手を阻む形で炎を広げた。
「このまま、絡め取る!」
狼の身体に鉄線が食い込む、その瞬間だった。
「そこ、落石注意ですよ!」
マキシが蒼白い光を放ち、ウェッジの頭上に岩の雨を降らせた。
ウェッジは鉄線を手放し、後ろに跳んで岩の雨から逃れる。
「まだ続きます!」
マキシの魔法によって、崖の上から次々と岩が降って来る。
ウェッジは周りに目を走らせた。
狭い谷底で身を隠す所はない。
ウェッジはフッと短く息を吹くと、ナイフを構える。
そして、降り注いでくる岩を見据えた。
「はぁあぁぁ!!」
力を込めた投擲で岩を穿つ。
岩が爆発四散し細かな瓦礫となっていく。
迫る岩を次々と砕いていくウェッジ。
フィオは狼の襲撃を炎の壁で阻み、ウェッジの隙をフォローした。
「えぇー! 今のアレ、防いじゃうんですか!?」
マキシは目論見通りにならなかったことに狼狽している様子だ。
「フィオはそのまま狼を食い止めてください!」
ウェッジはマキシの狼狽を攻める好機と捉え、ナイフを使って壁を駆け上がった。
「わ、わ、どうしよ!? こういうときの作戦は、どれー!?」
マキシは慌てた様子で紙束をめくる。
ウェッジが崖を登りきり、淵に手を掛けるところまで迫ったとき。
「これでいきましょう!!」
マキシがパチンと両手を打ち鳴らした。
途端、大地が揺れた。
(こんなときに、地震!?)
ウェッジの身体が揺さぶられる。
振動は更に大きくなり、地面が動き出した。
ここで、ウェッジは谷が急速に狭まってきていることに気付いた。
「作戦おしまい、これで貴女はぺったんこです!」
大地がウェッジを圧し潰そうとする。
ひときわ大きい揺れにより、ウェッジはついに手を離してしまった。
谷底に落ちていく。
空が閉ざされる。
そして、大地は無情にもウェッジたちを飲み込んだ。
数ある作品の中から、本作品をお読み頂いてありがとうございます。
もし、気に入って頂けたら、評価ptの入力やブックマーク登録を是非お願いいたします。




