42話 杖と性癖
グロリアは控え室でアリスの治療を受けて、目を覚ました。
「はっ、ア、アリスさん、ウェッジさん、えと、し、試合はどうなりましたの?」
「なんとか、勝ちましたよ」
ウェッジが答える。
ウェッジは疲労こそしていたが、特に外傷はなかった。
グロリアも、峰打ちで気を失っていただけなので、軽い治療だけで済んだようだ。
ネムリとヘイズも別室で治療を受けているが、命に別状はないとのことだ。
しかし、この試合で失われたものがあった。
「実は、グロリアさんに謝らなければいけないことがあります……」
ウェッジは申し訳なさそうに切り出した。
グロリアに問題のモノを見せる。
それは、真っ二つになった魔導杖だった。
「すみません……。こちらに持ってくる途中で、折れてしまいました……」
ウェッジが頭を下げる。
「あぁ、まぁ、良いですわよ。そもそも試合中にカタナで半分以上斬られてましたから」
「でも、無くては困るのでは……?」
「そうですわね……」
ここで、グロリアは何かを思いついたようだ。
「そうだ! でしたら、ウェッジさんにお願いがありますの」
「私に出来ることなら、大抵は何でもしますが……」
「いま、何でも、って言いましたわね?」
「はぁ……」
◇◇◇
準決勝戦の次の日。
決勝戦は準決勝戦より一日挟んでの開幕である。
そのため、今日は丸一日、療養や準備期間として使えることになった。
そして、ウェッジとグロリアは魔法都市の商店街にやって来ていた。
「魔法都市なら、魔導杖の一本や二本、すぐ手に入りますわ」
「そうですか。それは良かった」
グロリアのお願いで、ウェッジは買い物の荷物持ちとしてグロリアに一日付き添うことになった。
「アリスも連れて来れば、良かったのでは?」
アリスはよくグロリアの話し相手になっているので、ウェッジは自分だけを指名する意味があまり分からなかった。
「たまには、良いじゃありませんか」
グロリアに手を引かれ、店を巡る。
(確かに、たまには良いのかもしれませんね)
アリスに付きっきりでは、向こうも息詰まることがあるかもしれない。
ウェッジはあくまで、アリスのために今日は一日そっとしておいておこうと考えた。
しばらく、色々な店を回る二人。
グロリアはどの店でも購入をせずに、他のお店も見たいと言って、次々と回っていった。
「どうですか? 良いものはいくつか候補がありそうでしたが……」
「そうですわね……。あとひと押し、といったところでしょうか……」
そもそも、魔導杖が魔法士にどういう役割を果たしているのか、いまいち理解していないウェッジである。
的確な助言など、出来ようはずもない。
黙って、グロリアが杖を選んでいるところを眺める。
グロリアは、真剣で、そしてとても楽しそうだった。
十軒目を物色し終えた二人の前に、見たことのある人物が現れた。
「おや、ウェッジ殿、こんなところでお会い出来るとは」
「これは、モダン卿。ご機嫌はいかがですか?」
「堅苦しいのはよしてくれ。そういえば、先日の儂の料理人はどうだったかな?」
「おかげさまで、とても良い料理を堪能させて頂きました。ありがとうございます」
相変わらずの貫禄と小さい身体が不釣り合いなキーロフ・モダンである。
傍にメイドの女性も伴って、どうやら魔法関係の買い物のようだ。
「あら、この方たち、ウェッジさんのお知り合いで?」
グロリアが尋ねる。
「あぁ、紹介しましょう。こちらは《検閲図書館》のキーロフ・モダン卿です。先日、縁があって、知り合いました」
「奇妙な縁ではあったな」
キーロフがちょこんとお辞儀をする。
「モダン卿、こちらはグロリア・コーデルさん。実は私、先日から魔法大会に出場してまして、そのパートナーが彼女なのです」
「おぉ、そうだそうだ、知っておるよ! いや、儂も応援しながら観とったのだよ!」
いや、年甲斐もなく興奮したよ、とキーロフ。
「いや、素晴らしい試合だった。まさに若者たちの青春、という感じじゃったな」
「そうでしたか。応援ありがとうございます」
ひとしきり世間話で盛り上がる。
「それでは、この辺で」
「うむ、決勝、頑張ってくれたまえ」
キーロフから励ましの言葉を受け、辞去するウェッジたち。
キーロフたちが見えなくなると、グロリアがおずおずと質問してきた。
「あの、先程の、モダン卿というのは、もしかして《転生者》の方ですか?」
「そうです。記憶型の方ですよ」
それが、何か? と聞き返すウェッジ。
「い、いえ、ただ少し気になったもので」
グロリアは顔を赤らめている。
「グロリアさん、大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫、大丈夫ですわ!」
「ですが、モダン卿というのは、いつもメイドの方を連れているのですか?」
「そうですね。本人はまだ子供の身体ですから、何かと不便らしいですので」
「……いい」
「はい?」
「凄く、いいですわ!!」
グロリアがくわっと目を見開く。
ウェッジは少し後ずさった。
「転生者と一般人の身分の違い。母と子ほどの歳の差。主人と従者。年端もいかない男の子とメイドの女性。……お姉さんと少年!! あぁ、何やら秘めたる関係性と可能性を感じますわぁ!」
グロリアは早口でまくし立てた。
ハァハァと息も荒く、何故か異様に興奮している。
眼の輝きになにか異常なものが見えたが、ウェッジは気のせいと思うようにした。
◇◇◇
「ところで、ウェッジさんは、アリスさんのこと、どう思ってます?」
先程の興奮も冷めて、グロリアは手頃な店でようやく杖を一本購入した。
そして、まるで今日一日の総括のように、ウェッジに聞いてきた。
「アリスは、私にとって、守るべき大切な人です」
「そうですか……」
「突然、どうしました?」
「もし、アリスさんが大変な目にあったら、ウェッジさんは守ろうとしますか?」
「グロリアさん……、一体……?」
グロリアの真っすぐな瞳。
夕陽に照らされて、紅い瞳が燃えているように見える。
「……アリスは何があっても守りますよ」
「たとえ、世界が敵に回ったとしても、ですか?」
「……グロリアさん。貴女は、何を知っているのですか?」
ウェッジの問いに沈黙するグロリア。
彼女の赤い髪が風になびく。
「……今日は、お付き合い頂いて、ありがとうございました」
先の発言を無かったかのように振る舞うグロリア。
「また、明日の決勝戦、一緒に頑張りましょう!!」
グロリアはいつもの笑顔に戻った。
しかし、その笑顔はある種の防壁だった。
何も聞かないでほしい、と。
おそらく、今は問い詰めても何も言わないだろう、とウェッジは感じていた。
「えぇ、では、また明日」
はい! と元気良く答えるグロリア。
明日、グロリアと共に決勝に挑む。
ウェッジは今のやり取りは胸に秘めておくことにした。
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