40話 侍と忍者
──魔法大会《天象杯》二回戦、当日。
ウェッジとグロリアは舞台の上で対戦相手と向かい合っていた。
対戦表によると、カタナ使いの女がネムリ、覆面がヘイズという名前だった。
審判による説明が終わると、ネムリが話し掛けてきた。
「あんさんがウェッジはんです?」
人懐っこい笑顔のネムリ。
異国の者独特の抑揚と言葉使いである。
「ウェッジはん、噂で聞きましたでぇ。あんさん、あの予選会、うちのヘイズと同じ勝ち方しはったらしいやん」
ウェッジは予選会を思い出した。
(つまり、覆面も魔法球全てを破壊した完全記録の持ち主……)
「それ聞いてから、うちのヘイズ、えらいあんさんのこと気にしはってなぁ。うちも今日楽しみやってん」
ネムリは依然笑顔のままだ。
しかし、ウェッジはただならぬ雰囲気を感じ始めていた。
「ほな、今日は存分に、殺り合おうかぁ」
突然、ネムリからの殺気が膨れ上がる。
ウェッジですら肌が粟立つほどだ。
グロリアに至っては、怯えだしている。
「冗談や。むしろ、お手柔らかになぁ」
からからと笑うネムリ。
どこまで本気が分からない、掴み所の無い人物だ。
そして、もう一方のヘイズは沈黙を守っている。
だが、覆面の間から覗く目つきは刃物のように鋭かった。
両者が開始位置につく。
「準決勝戦、始め!」
審判の合図で闘いが始まった。
ウェッジが相手を睨む。
普段であれば、ナイフを投げて相手の出方を窺う作戦を取ることが多い。
しかし、この二人と対峙すると、下手に動けないという圧力があった。
ウェッジは相手の様子を観察する。
ネムリはカタナを鞘に納めたまま、自然体で立っている。
頭の上でくくった黒髪がゆるりと揺れている。
服装も薄い布の服(グロリアいわく、着流し、というらしい)でカタナ以外の装備は無いようだ。
そして、ヘイズの方は頭と口を黒い布で覆っており、表情は読めない。
服装も黒一色の布の服に、袖口から鎖帷子がのぞいている。
ウェッジより小柄だが、男女どちらかは判らない。
こちらは手ぶらだが、魔法ではない何かを使いこなすという。
ここで、ネムリがため息をついた。
「いつまで睨み合いしても、おもしろないわぁ。ヘイズ、あんさんの腕、見せてあげぇな」
「……承知」
ヘイズが動く。
手を腰の後ろに回して、十字型の刃物を取り出したかと思うと、ウェッジたちに投げてきた。
ウェッジも動き、ナイフで刃を撃ち落とす。
両者の真ん中で金属の衝突音が断続的に響く。
(この技量、私と互角か……!)
ウェッジのナイフ投げと渡り合う技量。
「ほんなら、確か、グロリアはんでしたなぁ。うち、あんさんと遊ばせてもらうさかい」
よろしゅうに、と言うとカタナを抜くネムリ。
「まずい! グロリアさん、《支援魔法》を!」
撃ち合いを繰り広げながら、ウェッジはグロリアに警告する。
「わ、分かりましたわ!」
ふわり。
そうとしか表現できない動きで、ネムリがグロリアに接近する。
緩やかでありながら、坂を流れる水の如き速度。
羽毛の如き、重さを感じさせない体捌き。
ネムリがカタナを振るう。
グロリアは杖を盾に、初撃を防いだ。
杖にカタナが食い込む。
ネムリの斬撃には何回も耐えられそうにない。
「あらぁ、その首、貰うたと思たんやけどなぁ」
《支援魔法》で反応と筋力が上昇したおかげで、グロリアは命拾いしたようだ。
しかし、防ぐのがやっとの斬撃である。
(まずい! グロリアさんでは、あのカタナを押さえきれない……!)
何とかヘイズを倒さなければ。
ウェッジはナイフ投げのペースを上げた。
ヘイズも食い下がるが、落とし切れなくなり、数本のナイフがヘイズに迫る。
(よし! このまま押しきる!)
ウェッジは手応えを感じた。
だが、次の瞬間、愕然とする。
ナイフが刺さるまさにその時、ヘイズが丸太に変わっていたのだ。
「はぁ!?」
これにはウェッジも思わず声が出た。
奇術か何かを見た気分だ。
上に気配を感じ、ウェッジはとっさに後ろへ跳ぶ。
跳躍して短剣を振り下ろすヘイズを、かろうじて躱した。
「……残念」
ヘイズがボソリと呟いた。
(これが、魔法とは違う技……!)
ウェッジは困惑した。
魔法であれば、ウェッジにもそれなりの経験があるので、まだ対策は取りやすい。
しかし、全く違うものとなると、対応しきれない。
ウェッジは距離を取り、再び投擲での勝負に持ち込もうとする。
すると、ヘイズは棒立ちになった。
「……分身」
ヘイズが呟いた途端、その身体が一気に五体に増えた。
「幻覚だろうと、全て撃つ!」
ウェッジは、五つの分身にナイフを放つ。
だが、ナイフは全て素通りしてしまった。
(本物は……?)
ウェッジは全神経を研ぎ澄ませる。
「……後ろっ!」
背後に迫ったヘイズが斬りかかるのを、ウェッジは大振りのナイフで食い止めた。
再び距離を取ろうとするウェッジ。
「……無駄」
ヘイズはそう呟くと、胸の前で指を複雑に動かした。
「……火遁」
舞台にいくつも火柱が上がる。
ウェッジは炎に退路を断たれてしまった。
「やるしかない、ですね……」
ウェッジは腹をくくった。
ヘイズが距離を詰めてくる。
ウェッジはナイフを構えると、下から掬い上げるように投げた。
独特のフォームから放たれたナイフがヘイズに迫る。
「……迎撃」
ヘイズは刃を投げて撃ち落とすつもりだ。
しかし、その刃は悉く弾かれた。
「……!!」
ヘイズの顔に驚愕の色が浮かぶ。
この攻撃は、ウェッジの最速の投擲に比べれば、さほどの速度ではない。
だが、風を巻き込みながら迫るナイフは、今までのものとは違う圧力がある。
ヘイズは短刀でナイフを防御する。
ギャリギャリと、金属が激しく削れる音がする。
ヘイズの短刀ががくがくと震えている。
ウェッジが放ったこの技は、回転力を極めたものだった。
触れるものを弾き、削り、穿つ。
名を《羅咬》。
ウェッジはこの技を使い、一か八かの賭けに出た。
他の技ではヘイズに撃ち落とされる。
《破城》では殺傷力が高すぎる。
ヘイズの迎撃を突破し、かつ無力化を図るには、この技しかなかった。
ヘイズの短刀が跳ね上がる。
回転に負けて弾かれたのだ。
ナイフはそのままヘイズに刺さる。
ヘイズは運動エネルギーの余波で螺旋のように回転しながら吹っ飛び、闘技場の壁に叩きつけられた。
「……不覚」
ずり落ちていくヘイズ。
ダメージが大きく、戦闘不能になったようだ。
(まず、一人を撃破!)
ウェッジは急ぎ、グロリアの元に向かおうとする。
「あらぁ、ヘイズ、やられてしもたんかいなぁ」
しかし、すでにネムリはグロリアを斬り伏せていた。
「それじゃあ、うちと遊びましょか」
ネムリがカタナを構え、ウェッジを迎え撃とうとする。
共に、武芸を極限まで鍛えた者同士の闘いが始まった。
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