19話 同盟契約と破城
「いくぞ! みんな!!」
レッドの掛け声に他の甲冑も呼応する。
『おう! 《精霊同盟契約》!!』
眩い光と共に、《精霊》が顕現した。
赤甲冑が手を掲げる。
すると、背後に紅い炎の鳥が実体化した。
炎の鳥は空中に舞い上がり停止した後、首が変形して身体の中央に移動した。
青甲冑が手を広げる。
今度は、蒼い竜が現れた。
頭と尻尾が変形して手の形になり、先ほどの鳥を横から貫くように合体。
黒甲冑と白甲冑は、黒い亀と白い金属質の虎を召喚した。
それぞれが変形して足の形になり、紅い鳥に合体する。
最後、黄甲冑がポーズを決める。
地面を割って、黄色い土のキリン(という動物だとフィオが言っていた)が出現した。
首はそのままに身体が変形して、上空に飛ぶと紅い鳥の上に合体した。
そして、遂に、キリン頭の巨大なヒト型精霊が完成した。
『見たか! 我らの《精霊同盟契約》! 巨大結合精霊エレメンファイブ!!』
ウェッジは我が目を疑った。
眼の前にそびえるのは、キリン頭はともかく、見上げるほどに大きな巨人。
はっきり言って、見たことも聞いたこともない。
その図体だけでウェッジたちを踏み潰すことも容易いだろう。
「侮るなよ、ウェッジ。あんなノリだが、五柱の精霊の実体化など魔法契約では最高難度だ」
「フィオ、貴方も巨大化とか、できませんか?」
「できぬわっ!」
ウェッジも侮るつもりはない。
まさか、《同盟契約》まで使うとは。
――《同盟契約》。
魔力を編み上げ、精霊の器を作り、そこに精霊を実体化させる、魔法契約の最奥。
精霊そのものの力を利用する、魔法契約の到達点。
甲冑たちは巨人の掌に乗ると、そのまま巨人の肩のところまで移動した。
そこが定位置のようだ。
ウェッジたちを見下ろし、赤甲冑が叫ぶ。
「どうだ、我らの切り札は! いくぞ、エレメンファイブ! 敵を殲滅しろ!」
命令を受けた精霊体は地を揺らしながらウェッジたちに迫って来る。
ウェッジはナイフを投げ放ったが、巨体に目立った効果は見られない。
「ハハハッ、そんな豆粒みたいな攻撃、全然効かぬわぁ!」
巨人が腕を振りかぶり、拳を叩きつけてくる。
ゆったりした動作に見えるが、拳だけでウェッジの倍近い大きさである。
それが迫って来るだけでも、十分な圧力になる。
走って躱し続けるウェッジたち。
攻める糸口さえ掴めない。
「フィオ、《同盟契約》に何か弱点などはありますか」
走りながら、フィオに問うウェッジ。
「《同盟契約》は通常の魔法契約と魔力消費の桁が違う。魔力切れを狙うのが定石だな」
「持久戦ですか。ですが……」
「分かっておる。こちらにはアリスがいる。巻き添えや狙われては叶わん。早めに潰すしかあるまい」
「潰す……。物理的に破壊は可能なのですか?」
「あれは魔力で実体化しておる。物理的干渉は可能だ。おそらく再生するだろうが、魔力はその分を消費させられる」
「分かりました」
出来るのか、とウェッジに問うフィオ。
ウェッジは答える代わりに、ナイフを構えた。
「フハハハ! どうだ、恐れ入ったか!」
赤甲冑が、泣け!叫べ!とウェッジたちを煽ってくる。
「レッドのコレさえ無けりゃなぁ……」
「レッド、悪役っぽい……」
他の甲冑たちは少し引いていた。
ウェッジはフィオとのやり取りでひとつの活路を見いだした。
転生者ではなければ、魔力の総量はおそらくそこまでのものでは無いだろう。
精霊体を削り、魔力切れを狙うのが、ウェッジの《同盟契約》攻略法だった。
しかし、普通のナイフ投げでは埒が明かない。
――ならば、
「私も全力で、相手しましょう」
ウェッジは温存していた切り札を使うことにした。
ウェッジは巨人から大きく距離を取る。
溜めの時間が必要だ。
距離を取られた巨人は、蒼白い光を放ち、魔法で攻めてくる。
土柱、水柱、火柱が大地から噴き上がり、ウェッジを飲み込もうとしてくる。
ウェッジに届く直前でフィオが炎で相殺する。
守りをフィオが担ってくれたことで、ウェッジは攻めに集中する。
ナイフを大きく振りかぶる。
腕の筋肉が張り、指に力が込められる。
「届けっ!」
――最強の一撃が放たれた。
空気を貫く音がした。
放たれたのは一本のナイフ。
だが、力を込めて回転を掛けたその威力は、まさに大砲となる。
ウェッジのナイフ投げの《技能》の真髄を注ぎ込んだ、比類無き一投。
《破城》、とウェッジが呼ぶ一撃は、巨人の胸に炸裂すると大穴を開けた。
衝撃で巨人がたたらを踏む。
蒼白い光が胸の穴を埋めていく。
魔力による修復効果だろう。
甲冑たちは先程の衝撃でも、巨人の肩に踏みとどまっていた。
しかし、
「レッド!」
赤甲冑が跪いていた。
息も荒い。
赤甲冑の担当していた火の鳥が大きく損傷した。
その修復のために要した大量の魔力が、赤甲冑への負荷となったようだ。
その様子を見たウェッジは、第二投を放つ。
城壁をも砕く投擲で巨人の黒い足が吹き飛ぶ。
巨人が地響きを立て片膝を着いた。
今度は黒甲冑が倒れる。
防御魔法などで魔力を使い、元々魔力の余裕が無かったようだ。
そのためか、巨人の足は完全には治らなかった。
ウェッジは攻め手を緩めずに、《破城》を投げ続けた。
足を崩された巨人に次々と大穴が開き、甲冑たちの魔力が削られていく。
六、七撃目で遂に巨人はその身体を維持できなくなった。
精霊たちは蒼白い光の粒に還元された。
残ったのは、魔力を使い果たした甲冑たち。
皆がほとんど動けないでいる。
ウェッジはゆっくりと歩み寄った。
「我らの、敗けだ……」
赤甲冑が、息も絶え絶えに口を開いた。
「そのようですね」
ウェッジはナイフを手に持った。
今の彼らなら、喉への一刺しで容易く倒せるだろう。
(後顧の憂いを絶ちますか……)
必要とあれば、相手の命を奪うことも厭わない。
ウェッジはかつて人の命が軽い過酷な世界に身を置いていた。
自身の命を含めて、命とは簡単に失われるものだという認識だった。
だが、止めを刺そうとしたウェッジの後ろにアリスが近付いてきた。
「ウェッジさん、その……」
アリスがウェッジに語りかける。
「アリス、どうしました?」
「あの人たち、殺さないであげてください」
アリスの懇願。
ウェッジの心は揺れた。
揺れてしまった。
「ですが……」
「あたしは、人が殺されるのは嫌です……。ウェッジさんが、手を汚すのも、……嫌なんです」
「アリス、私は別に……」
ウェッジはアリスの眼を見る。
人を殺すことには慣れています、とは言えなかった。
「あたしの魔法、死んだ人は治せないんです。人の死って、取り返しのつかない、とっても重いものなんです……」
──だから、殺さないでください。
甲冑たちの武器、甲冑、身ぐるみを一切剥ぐウェッジ。
アリスが言うので、服は情けで残しておいた。
彼らをロープで縛り上げる。
「今回は敗けたが……、我らの正義は、まだ終わらんぞ……」
元・赤甲冑の暑苦しそうな青年が歯噛みしながらウェッジに言った。
「正義、ですか……」
ウェッジには馴染みの薄い概念だった。
敵の命にさえ慈悲をかける、この優しい少女を追い詰めることのどこに、正義があるというのか。
甲冑たちを退けたが、まだ安心するわけにはいかない。
傭兵団もじきに追い付いてくるだろう。
ウェッジたちは、村に戻ると、休みもそこそこに宿を引き払った。
村を出ていくウェッジたち。
わずかな間の滞在だったが、ウェッジにとってはわりと居心地のよい村だった。
だが、追われる身とあっては、名残惜しくても一ヵ所に留まることは出来ない。
目的地の魔法都市まで、困難な旅が続くのだ。
そして、
(殺さないで、ですか……)
ウェッジはまたも困難を背負ってしまった。
これからも不殺で追っ手を退けるということは、ウェッジの技量をもってしても難しくなっていくだろう。
だが、ウェッジはアリスの言った綺麗事を守りたかった。
ウェッジと同じく、彼女はすでに世界の残酷さ、不条理さを知っている。
それでもなお、慈愛を持ち、命の尊さを信じている。
ウェッジは、そんなアリスだからこそ守りたいと思うのだった。
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