11話 森と魔法契約論
ウェッジたちが街を出てからしばらくして、最初の要所である森の入口までたどり着いた。
街の者から《暗い宿り木の森》と呼ばれる、深い森である。
野犬、野盗、魔獣の類いが跋扈するため、冒険者がここを通る業者の護衛などを請け負うことも多い。
しかも、今は夜だ。
夜が深まるにつれ、野犬、魔獣は活発になり、人への害意も増すとされる。
「野犬に狙われると、数十匹の群れに一晩中追い掛けられることもあります。そうなっては面倒ですから、なるべくなら夜は避けたかったのですが」
ウェッジだけであれば野犬の群れなど恐れることもない。
しかし、アリスを守りながら、ナイフの残数も温存して、という条件下では無理は出来ない。
傭兵団の件が無ければ森を迂回する選択肢も選ぶことができた。
慎重に進みたければ、そもそも森に入るべきではないのだ。
「仕方ないので、休める所を見つけるまでは、少し急いでいきましょう」
ウェッジは次善の方針として、キャンプの出来る場所で火を炊きながら朝を迎えることにした。
名前の通り、昼間でも暗い森の中である。
木々がひしめき合い、その間を宿り木が蜘蛛の巣のように生い茂っている。
道自体は街からの往来があるため、踏み固められたものが続いていた。
フィオが尻尾に火を灯し、ウェッジが先頭となって進んでいく。
ウェッジはアリスとフィオの魔法も戦力に組み込むため、魔法について詳しく教えてもらうことにした。
「魔法については一通り知ってはいますが、アリスの魔法というのは何か特別なのですか?」
この手の話は、魔法というシステムの根幹である精霊だからか、フィオが得意としていた。
「魔法自体はアリスもそこらの魔法士も同じものだ。違う点は、出力だな」
「出力?」
ウェッジと、なぜか当の本人であるアリスも聞き返す。
「そもそも、魔法契約というのは、契約主体が魔力の対価を払い、精霊に現象としての魔法を出力させるものだ」
フィオの説明は、かなり噛み砕いたものであるはずだが、アリスは小首を傾げた。
「例えて言うと、水車だな。
水車を回す水流が魔力、水を受けて回る水車が精霊、水車の力を伝える棒とその先に付いている臼が魔法契約という仕組み、臼で曳かれた粉が魔法により出力された現象だ。
魔力の量、水流が強いものであれば、水車を回す力も相当になる。
そして出来上がる粉も多い。アリスの魔法は魔力により増幅されたものだ」
おぉ、とアリスが歓声を上げる。
自分の魔法の話なのだが、どうやら本人は仕組みを分かっていなかったようだ。
「我の魔法も、魔力の部分については同じことだ。
だが、我の場合は、精霊が精霊を行使するという話だから、契約の部分がだいぶ省略される。
水車から臼に伝える棒が短いようなものだ。
当然、魔法の発動も速いし、面倒な《契約書》も出てこない。
また、同じ魔力量でも伝える力の損耗が少なくて、結果として出力が上がるということだ」
フィオが畳み掛けるように説明する。
ついていくのがやっとのウェッジは、ひょっとして、このリス頭良いのでは?と思ってしまう。
「それから、魔法契約について原則を知っておけ。
魔法契約は、同時に複数の契約が出来ない。
たとえ、いくつもの魔法を使いこなしているように見えても、瞬間で魔法を切り替えているか、一つの契約に複数の出力を持たせているか、ということだ」
「それは重要、なの?」
アリスが質問した。
「大いにな。たとえば、アリス、お前が《治療魔法》を実行しておったら、その間は身を守る魔法などが使えんということだ」
「なるほど、それは知らなかった」
今までアリスは、治療しているとき、他のことを考える余裕はなかったのだろう。
「それから、魔法は意思を持つ者のみが契約できる。
意思の有る者でしか意思無き者である精霊を動かすことは出来ん」
魔法のことになると饒舌になるフィオである。
「最後に、死者は魔法契約が出来ないことを覚えておけ。死んだら、魔法契約は解除される」
──そして、どんな魔法であろうと、死者は甦らん。
フィオのこの言葉は、誰に向けたものだったのか。
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