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ヒーロー×ブレイブ~世界を救った英雄は静かに暮らしたい~  作者: 橋藤 竜悟
第一章:帝国編 第一部四節 交錯の戦争
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40 交錯の戦争

 にらみ合いが続く、聖騎士達はその場から動こうとしない上、ユカリも沈黙を守っていた。

 俺はというと相手の数が多く、こちらからすぐさま行動しづらい。


 そのうち騎士たちの会話が聞こえてきた。


「この状況どうします、ダニー」


 中央に立つ大盾と剣を持った聖騎士にその左隣、弓を持った騎士が話しかける。


「フィム様からは好きなようにしろと仰せつかってはいるが……」


「たしかリベリアの英雄が出てきても手を抜かないでいい、むしろわからせてあげろとかなんとか。オルコットはどうです?」


 弓の騎士が、他の騎士に話を振る。フィムの野郎、何てこと言いやがる……。


「やるしかないのでは?これもフィム様が決めた事だ、我々は忠実にあるだけでいい」


 オルコットと呼ばれたのは右端にいる槍を持った騎士らしい。


「脳死かよ、これだからエリート様は困る」


 それを聞き、オルコットの隣にいる大槌を持った騎士が悪態をつく。


「口が過ぎるぞジャスパー、フィム様もこうなる事を予見した上で我々にこの場を任されたのだろう。いいかロッソ」


 左端にいた斧槍を持った騎士が静止し、弓の騎士に話を戻した。


「そうですね、それに答えるしかないでしょう。あの方の先見は常に正しい」


「どこまで見えてるんだか、まぁやることはかわらない。ラーファ様のご期待通り勇者様をお守りするだけだろ」


 どうやら相談は終わったらしい。その相談の間も隙を見せないのはさすがの練度だ。

 ここまでの話をまとめると、どうやら殆ど状況がわからないままここに召還されたらしい。フィムらしい適当さではある。


「勇者殿、あなたはまだ迷われている様子だ。故に、ここは我々に任されよ。我々の肝はあなただ、後ろから支援お願いする」


「え?は、はい!」


 ロングソードの騎士がユカリに呼びかけ、ユカリが慌てて返事をしている。

 騎士が5人横に並び、盾を正面に構える。どうやらユカリを下がらせ陣形をとってくるようだ、ならばやりやすい。


「ではそろそろいかせてもらうぞ――冥よ、その暗き血にて世界を呑め」


 俺はそう言うと、先制で相手の有利を消す。フィムとは何年来の付き合いだと思っているのか、相手がどういった加護を受けているかは手に取るようにわかっている、対策は簡単だ。まあそれも含めてのあいつが考えた策なのだろうが……。

 カインの足元から急速に地面が闇に呑まれて行き黒い地面がフィールドを覆い尽くした。


「な、上位の闇魔法だと!?英雄がっ、ここまでできるか……!」


 そのまま闇は5人の騎士とユカリを呑み込みその加護を砕いた。


「お前たちが頼りにしてるのはその頭のおかしい純度をした光の加護だろ?フィムとは付き合い長いんでね、対策ぐらいわかっているさ」


 どれだけ俺がそのサポートをやらされていたか……。戦闘中の仕事量なら今より昔のほうが多すぎて頭を抱えるレベルだった。


「……さすがは英雄ですな、しかし我々を加護なしでは戦えん一兵卒と思わんでいただきたい。各々自分の魔法を使え!上がるぞ、槍の陣だ!」


 大盾を持った騎士が叫ぶとともにこちらに駆け上がる、その両脇を槍と斧槍を持った騎士が追走している。


「見るからに突撃して押し切るつもりだな、――火よ」


 目くらましに先陣を切る騎士に向かって火球を放つ。

 しかしその火球は騎士の目前で掻き消えた。試してみたが、やはり魔法対策もしたフル装備か、とことん殺すつもりなんだな。


「我々に魔法がきかないのはわかっているでしょうに、魔力の無駄です!」


「わかってるさ、フィムとは長いからな――火焔よ、その身を散らせ!」


「だから何度やっても、なっ!」


 魔法が当たらないならあたる前にあててやればいい。

 火球が相手に到達する手前で大きく爆発する。それを見て正面の騎士が揺らいだ。

 そのわずかに生まれた隙を見逃さず、そのまま正面から走りよる騎士に踏み込み切りかかる、だがその剣はシールドで防がれた。ここまで早く姿勢を整えてくるかッ。


 次の瞬間、両脇から槍が突き刺さる。それをすんでのところで、俺の斬撃を受け止めた大盾を踏み台にし、騎士を飛び越える形で避ける。

 そのまま後ろで弓を引き絞っていた騎士へ駆け寄る。


「こちらへきましたか。ですが、そのまま射抜くまでです。――風よ、我が力を導け」


 正面から鉄弓を3連射する、だがそれを迫るカインは剣だけで叩き落し速度を緩めず前進した。


「な、強化した鉄の矢ですよ!?それをいともたやすく……!」


「後ろに飛べ、ロッソ!!――火よ、我が敵を砕け!」


 その声を聞き、すぐさま弓を持った騎士が飛びのくと右横から大槌が振り下ろされる。

 それを反対側へ飛んでかわすと、大槌がそのまま地面を大きくえぐると共に爆発を起こした。


 地面の破片を振り払い、大槌を振り下ろし動きが止まった騎士の兜の隙間から剣を通そうと構えなおす。が、体勢を立て直し反転してきた騎士がこちらに追いつき、剣を振り下ろしてきた。

 それをとっさに剣で受けると、その騎士の背後に隠れていた槍が俺の胴体に迫っていた。


「くそっ――光よ!」


 即座に魔法を詠唱すると、辺りを一瞬眩い光が覆う。

 それに怯んだ剣を受け流し、体をひねることでかすりながらも槍をかわす。そのまま地面にたたきつけられた剣を足で押さえこんだ。

 ついで、無防備に突き出された槍を空いた手でつかみ、引き寄せることで槍を持った騎士のバランスを崩し、前に倒れこませる。

 それを見て、振り下ろそうとしていたハルバートが巻き込むことを恐れて動きを止めた。


「数が多いと囲んだときにやりにくいよな、弓や長物は特にさ」


「く、フィム様のご友人とはいえ調子に乗らないでもらおう……!」


 足で押さえ込んだ剣を捨て、腰から短刀を抜いて応戦しにかかってきた。

 ハルバートも構え直すが、連携を重視したのか槍が態勢を直す為の警戒に回った。

 大槌や弓も少し距離を開け囲むように向かい合う。


 状況的には完全に囲まれてしまい不利には変わらない。まだユカリが動いていないから何とかなっているが、彼が動くと一瞬で勝負が終わるだろう事は予想がついた。


「んー、英雄殿はすごいですね。あの聖騎士を5人相手にして渡り合うとは!さすがさすが、あの悪辣なる魔王を退けたというのも納得できます」


 サミュエルは嬉しそうに声を上げていた。今はその聖騎士5人と切り結ぶのに必死でこいつにはかまっていられない。

 正直黙っていてほしかったが、やはりというべきか横槍を入れてきた。


「それで、我が軍が誇る勇者ユカリ殿はどうしたのでしょう?先ほどから様子を伺っているだけだが……気分でも悪いのかい?」


「い、いえ、そういうわけじゃ……」


「ならどうしたというんだい?あの英雄は打ち倒すべき敵だ、君も聞いているように世界を脅かす悪だ。君が躊躇する理由はどこにもないんだよ?」


 縁を諭すように薄く笑いを貼り付けながら話すサミュエル。

 何てこと言いやがる、俺への風評被害もそうだがここでユカリに出張られたら俺が死ぬ……!


「ユカリっ!そいつの話を鵜呑みにするな、それを決めるのはそいつじゃない、お前だ!」


 騎士の攻撃をやり過ごしながら何とか叫ぶ。


「おやおや、ユカリ殿は英雄殿と面識があるので……?これはこれは、よくありませんね。それは……悪くとられても仕方ないですよ?」


 ッ、ユカリの名前を出すのはまずかったか。

 だがこの状況でそんなことに気を使えるほど俺に余裕はない。


 パチンとサミュエルが指を鳴らすと、クリスたちを囲んでいる兵やキースが抜刀した。

 くそっ、余裕がないとはいえ悪い方へ流れが変わったか……?


「な、なによ!あたし達は味方――いいわよ、かかってきなさいよ!あたしに歯向かうとどうなるか教えてあげるわ!」


「サミュエル!?貴方、まさか本気で!?」


 ちっさいのを何とか抑えながらクリスが叫ぶ。それにサミュエルが笑って答えた。


「これは申し訳ない上五位のラインハルト殿。いえしかしですね、ユカリ殿がカイン殿とつながっている場合あなた方もそうなるということだ。それは帝国臣民として見過ごせることではありません。わかりますよね?」


「な、私に剣を向けるということがどういうことかわかって――」


「何度も言わせないでください、これは私の部隊で、私が指揮官だ。それに彼女達を囲っているあなたの家も立場が危ういだけではないのですか?」


「ぐっ」


「これは個人的な忠言ですが、あなたは早く親離れしたほうがいい。持ってもいない親の威を借りてピーピー鳴いても滑稽なだけですよ?」


 言い捨てるようにしてサミュエルは縁に向き直る。


「失礼、話がそれましたね。それでユカリ殿、実際のところどうなのでしょうか。あなたはカイン殿と懇意にしているから剣を向けられないのではないですか?もしも、もしもそれが私の思い違いで、帝国の臣として自覚があるのならば、今私の前でそれを証明して見せてください」


 ユカリが顔を伏せ、小さく震えている。剣を持つ手に力が入っていくのを見て取れた。これはまずいか……!

 その時、叫び声にも似た声が響いた。


「宝探しの夜のこと、ヴァンから聞きました!もしも、縁様が悩んでいるのなら今度こそ心に――縁様の気持ちに従ってください!縁様がこの世界でやりたかったことは、こんな事ではなかったはずです!」


「そうよ、こんな雑魚共相手にあたし達がやられるわけないんだから!あんたは自分の事だけ考えなさい、いいわね!」


 ラーファが叫ぶ。

 サラも声を張った。


 だがその連続した叫び声を聞き、聖騎士が全員止まった。いや、止まってしまった。


「ラーファ様!?」


「帝国風情が、次期聖女様に剣を向けるというのかッ!!」


 おかげで聖騎士に大きな隙ができた。このチャンスは逃せない。


「気になるのはわかるが今はダメだろうがっ!」


 そのまま短剣を構えていた隊長風の騎士の鎧に剣を差込み、すんでのところで止める。


「リバージョン!!」


 それを見たユカリが叫ぶ。

 このタイミングで動いてきた!さあ、ここからどうなる……!?


 縁の能力に最大限の警戒を払う。

 だが、警戒する俺を尻目にその力は――俺や、差し込んだ剣を戻さず、周囲に施された結界を打ち消していた。


 ……どうやら首の皮一枚つながったようだ。あの力がこちらに向かなかっただけ僥倖だろう。

 鎧に剣を差し込んだまま、構えをとかずに周囲の騎士に下がるよう睨みつける。

 その状況を見て、聖騎士達も混乱しながらもゆっくりと下がった。


「……決着はついたので。サミュエルさんには申し訳ないけど、これで失礼します」


 あたりはいつの間にか静寂に包まれていた。

 言いながらその場を離れクリスたちの方へ向かうユカリ。それを聞き、状況を飲み込めずにか止まっていたサミュエルが小刻みに震えだした。


「な、ななな……!何を血迷って!?許されるのか、こんなことが……!そんなはずはない、あってはならない、この現状が間違っているのだ!!キース、命令違反だ!そのガキ共を殺せっ!!」


 取り乱しながら叫ぶ。だがキースは剣を鞘に戻し、クリスたちを守るように前に出た。


「き、貴様、貴様も私のことを馬鹿にするのかっ!!」


「めっそうもない、上官殿を馬鹿にできるほど自分は人ができていません。それ以上に味方を殺す度胸もございません」


 その言葉を受け、サミュエルは怒りを爆発させるように叫ぶ。


「上官命令だぞ!逆らえばどうなるか――」


「この状況で味方を殺して、その責任を上官殿は軍法会議でどう説明されるおつもりですか?まさか、全て私と部下にかぶせるとでも?それならば私も貴方と戦うまでです。――それに、この戦いも終わったようだ」


 キースが視線を向けた先、見ると、今まさに正面砦門はリベリア軍に押し切られようとしていた。

砦戦も佳境です。

聖騎士たちも圧倒的に強いのですが、カインが相手の戦術を知っていたのが大きな勝因でした。

ちなみにフィムの強化を解いていないと負けています。

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