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ヒーロー×ブレイブ~世界を救った英雄は静かに暮らしたい~  作者: 橋藤 竜悟
第一章:帝国編 第一部四節 交錯の戦争
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39 戦争遊戯

 カインはこの状況を切り抜ける方法を考え続ける。

 100近くの帝国兵に囲まれながら5人の聖騎士と向かい合う状況など悪夢としか思えない。


「よくぞ召集にこたえてくれた聖都の騎士よ、歓迎しよう。英雄殿もそう身構えなくてもいい、これから始まるのはゲームだ。どうか肩の力を抜いて楽しんでもらいたい」


 サミュエルが騎士と俺に対して呼びかける。騎士はそれぞれ顔を見合し様子を見ているようだ、どうやらどういった状況なのかいまいち理解していないらしい。


「このままこちらの兵力と英雄殿の4人では戦力差がありすぎる。これではゲームにならないだろう?何より面白くない」


 大げさに説明し始めるサミュエルはどこか愉快そうな雰囲気で話す。自分の思い通りに駒が進み、盤面が動いているとでも言いたげな表情だ。


「なのでルールと役者をこちらで用意させてもらった。ルールは簡単、ただ生き残ればいいだけ。これについては私も鬼ではないですからね、投降する意思があるなら命の保障はしよう」


「……こちらが勝った場合はどうするんだ?」


 サミュエルの論調ではこちらが勝つことが想定されていないことがよく伝わるわかりやすい説明だった。


「ふむ、さすが英雄殿、鋭い意見痛み入ります。では『あなた方をリベリアへ帰す』ではどうかな?」


 この状況から脱出できるという意味合いでは破格の条件だが、それ故相手の負ける可能性がないという自信が透けて見える提案でもあった。


「構わない、欲を言うなら『無事で』も追加してほしいがな」


「これはこれは、私のできる範囲で善処しましょう。では観客を待たせすぎるのもよくない、そろそろ役者の紹介といこうじゃないですか!」


 そう言い切ると、サミュエルは帝国兵たちへ振り返り、声を上げた。


「ご存知のとおり、リベリアからはあの救世の英雄にして『魔人殺し』、カイン・リジル殿がご参加だ!盛大な拍手と歓声を!」


 すると突然周囲の兵が歓声を上げる。今まできれいに整列していた集団が腕を振り上げながら歓声に沸き始めるのは一種の狂気のようなものを感じる光景だった。何よりその統率力が怖い。

 歓声が唐突過ぎてマオの尻尾も太くなっている、この異様さだと無理はない。

 それと、突然他人に口上を上げられるのは気持ち悪いな……。


「そして、それに対抗する我が帝国からは同盟の為はせ参じてくれた十人兵士と名高い聖騎士団たちと――」


 この声をきき、聖騎士たちは静かにたたずんでいた。彼らは成り行きを見守っているようだ。

 そしてサミュエルは信じられないことを言い始める。


「我が帝国秘蔵中の秘蔵!世界を救うため帝国へ舞い降りた『勇者』、マドカ・ユカリ!」


「なっ!?」


 勇者だと!?あの子供が伝承で現れる“勇者”だというのか……?

 特殊な術を使っていたが、俺は魔人の線だと考えていた。

 確かに勇者でも説明はつく、しかしそうなると勇者が現れたことから、世界は何かの壊滅的な危機に面しているということなのではないのか?

 その中、帝国はそれを利用して各国と戦争をしているというという事実が理解できない。

 勇者を掲げて正義を気取っているとでも?いや真に帝国の侵略戦争そのものに正義があるとでもいうのか?

 いったいどうなっているんだ……。


「英雄様!彼が勇者なんてどういうことです!?」


「……ゆうしゃ?」


 ジンがあせった様子で耳打ちしてくる。マオはいまいちピンときてないようだ、歴代勇者の物語を知らないわけではないだろう、だからこそ理解できていないわけだが。


「わからん、相手の虚言かもしれん。ここは様子を見るしかない」


「そ、そうですね、わかりました……。俄かに信じられませんが、聞いていた彼の戦いぶりでは十分ありえますし……」


 フィードは珍しく静かに様子を伺っている。その表情からは何を考えているのか汲み取れなかった。


「フィーも大丈夫か?」


「ええ、正直逃げ出したいですがそんな場所もタイミングもなくて困ってるところです」


「俺も同じ気持ちだ。どうやら真剣に腹をくくらないといけないようだな」


 こちらが騒然としていると帝国兵の中からつい先ほども見た顔、勇者と呼ばれたユカリが出てきた。違うところはクリスのほかにラーファと、もう一人小さいのを連れていることくらいか。

 そのままユカリが前に出る、他の三人も進もうとしサミュエルに止められた。


「ここはユカリ殿一人でお願いします。ラインハルト上五位と聖女様はどうかごゆるりと後ろで観戦願えれば」


「馬鹿をいうな!私は縁殿を預かっている身だぞ、このような危険な行動を一人でなど認められるものか!」


「そうよそうよ!縁一人に戦わせるなんて、なに考えてるのよ変態モヤシ!」


 クリスと小さいのがサミュエルにくってかかる。どうやらあまり信頼は得られていないらしい。

 隠れるようにラーファも同調している。今回はヴァンがいないのか、あの過保護がこんなところにラーファを出すとも思えないので、いないほうが納得できる。

 この大事なときにあいつは何をやっているんだ……。


「これはこれは、配慮が足りなく申し訳ございません。しかしラインハルト上五位、あなたがいくら上級騎士五位でラインハルト家のご息女であらせられましょうとも、この砦の指揮官は私でございます」


 サミュエルはクリスに対し跪き、恭しく頭を垂れながら上目使いに睨み付ける。


 ラインハルトは聞いた事がある、帝国最上位と謳われる騎士がその名前だったはずだ。

 クリスがその家の出だとは、つくづくユカリの周りはよくわからない人間が多いな。


「……あまり口出しはご遠慮召されよ、またあなたのお父上の立場が弱くなるだけですよ?それに、ペットの躾はきっちりとお願いします」


 サミュエルはそう言いながらちらりと小さいのを見て薄く笑う。


「貴様……!」


 サミュエルの脅しにクリスが噛みつくが、それを止めるようにユカリがクリスに笑いかけた。


「みんな、僕は大丈夫だから。今回は後ろから応援していて欲しいな」


 あいつはどこにいてもかわらないな、小さく安堵するとともにこれから起こる事を考えそれ以上に気が重くなる。


「縁殿がそういうなら……。サミュエル・ジル・ギレッド、縁殿に何かあればどうなるか、覚えていろ」


 クリスも負けじとサミュエルを睨み返す、あいつらは味方同士ではないのか?帝国騎士同士の確執はどうやらかなり根深いらしい。


「では縁様、どうかわたくしの加護だけでも。騎士様もこれくらいは許してくださいますわよね?」


「ええ、聖女様たっての希望とあらばかまいませんとも。では終わり次第後ろでお楽しみください。キース!」


 サミュエルは後ろでできるだけ存在感を消しながら様子を伺っていた騎士を呼び立てる。

 キースはしぶしぶといった様子で前に出る。お前またこんなところにいたのか……。


「何かご命令でしょうか?」


「聖女様達の護衛を頼むよ。ラインハルト家のご息女と聖女様だ、何かあってはいけないからな。“くれぐれも”よろしく頼みますからね」


「……了解しました。では皆様、こちらへ」


 キースが誘導するため進み出る。


「縁様、どうかご無事で。――天よ、この者に勝利を与え給わん」


「縁、危なくなったら助けてあげるから。あんたは安心して戦いなさい。逃げたっていいんだからね」


 ラーファがユカリに加護を与え、小さいのがユカリに何やら声をかけている。様相がトントの焼き増しになってきたな。あの時より状況は圧倒的に悪いわけだが。

 加護が終わるのを待ち、嫌々といった様子でクリス達3人を押しやるキース。この軍は本当に指揮系統が大丈夫なのか敵ながら不安になる。大きなお世話だろうが。


「いやはや、お見苦しいものを見せてしまった上、お待たせして申し訳ない。ではこのゲームでリベリア対帝国の雌雄を決しようじゃないか!」


「ひとついいか?」


 サミュエルが言い切り、帝国兵たちの歓声が沸く中、俺が提案の為に割って入る。


「なんなりと英雄殿、このゲームをキャンセルするような事以外なら受け付けよう」


「なら問題ない。このゲーム、こちらは俺一人で参加する」


「なっ、カイン様!?」


 フィードが駆け寄ってくる、ジンとマオも驚いているようだ。


「大丈夫、俺はあの英雄だぞ?フィムの部下と最近出てきたひよっこに遅れはしないよ」


「トントの時に思いっきりやられてたじゃないですか!無茶すぎます!」


 ぐっ、それをいわれたら弱い……。だがここは俺一人で戦わないと恐らく切り抜けることができない。


「ああ、それもわかってるよ。だからこそ俺一人で行くんだ。その間お前たちに頼みたい事がある――」


 相手に悟られないよう、魔法で隠しながら3人に各々これからの行動を伝える。


「……わかりました、命令というなら従います。でも絶対に死んじゃダメですからね!」


「そうです、英雄様といえど無理だけはしないでください」


 どうやら納得はしてくれたようだ。マオは何かブツブツと言っているが、理解はしてくれているだろう。


「わかってる、今回は久しぶりの全力でいく。なに、嬉しい事に相手の手の内は両方知ってる、十分やれるさ」


 カインはそのまま進み出る、サミュエルは律儀に待ってくれていた。


「相談は済みましたか?こちらにつき合わせているのですから、提案は受け入れますとも。では、そちらの準備も整ったようですし、はじめさせていただきます」


 サミュエルが指を鳴らす、すると俺とユカリ、聖都騎士を取り囲み闇魔法の壁が出現した。

 どうやら、ここが会場であり戦地らしい。


「君たちにはその中で戦ってもらいます。6対1とハンデは大きいですが、英雄殿たっての希望だ。文句は言わせませんよ?それでは、十分楽しませてもらおうじゃないか!」


 正面の6人と睨み合う。ユカリは静かな表情でたたずんでいた。

 空気が張り詰める、きっかけがあればすぐにでも張り裂けそうな気さえした。


 サミュエルがゴングを鳴らすように叫ぶ。


「では、存分に殺しあってくれたまえ!」

大目に見積もってもカイン負けますねコレ。

絶体絶命の大ピンチですが、カインがとった策とは……?

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