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本好きの女

「あのぉ~・・・お隣さん・・・ですかぁ?」


女性の声が壁の向こうからしてくる。俺と同じく独房に閉じ込められた人のようだが・・・はてさて、どうしたものか。


普通に考えれば、声をかけるメリットなんて何もない。そもそも、どんな罪を犯したのかは知らないが相手は犯罪者だ。犯罪者と知り合いになるメリットなんて何もない。


だがなぁ・・・俺と似たような理由、つまり、無実の罪を着せられたものという可能性もなくはない。何故なら、普通の犯罪を犯す分にはわざわざ城の独房になんて入らないからな。


それにまぁ、幸いにも俺たちの間には石の壁がある。俺が土木魔法で穴をあけない限り被害はないだろう。


そう思って、相手の会話に乗ることにした。


「はいはい、お隣さんですが?そういうあなたはどちらさんですか?」


「ああよかったぁ~。私はノベル・フォンスキーといいます。」


「・・・」


ノベル本好き?

なんだ、このバカげた名前は・・・いやいや、ここは異世界だ。まさか俺の世界の奴らにウケることを狙った名前じゃないのは考えればわかることだろ。


しばらく沈黙していると、その女性は少し慌てたようだ。


「あのっ?あのぉぉ?何か私失礼なこと言いました??」


「いっ、いや・・・ちょっと名前に驚いたというか、変な名前だな・・・というか。あ、初めてなのに失礼しました。私は和田洋平っていいます。」


「そちらこそ変な名前じゃないですかぁ・・・」


俺の名前は日本じゃ普通の名前だっつーの!と突っ込み入れたくなったが、突っ込んでもこちらの世界の住人には理解してもらえないので黙っていることにした。


「それで、えっとノベルさんは何をして独房に入れられちゃったんです?」


「よく聞いてくれました!和田さん、聞いてくださいよぉ~・・・」


ああ、これは話が長くなるなぁ・・・と、どうしてこんな話を振ってしまったのか?と後悔したくなる。でもねぇ。それ以外話すネタもないしね。


「私は図書館の司書だったんですぅ。」


・・・マジで?本当に本好きやん。いやいや、この世界のことだ。きっと代々図書館の司書やってる家系なんです!って話かもしれないじゃないか。あったら怖いが・・・


「へっ、、へぇ~。ノベルさんは本が好きなんですねぇ。」


「まぁ、好きですけどぉ。うちの家は代々図書館の司書やってるんですぅ。一応下級貴族なんですよぉ。」


マジでこういう話ってあるんだな。さすが異世界。


司書とか、貴族じゃなきゃ務まらない仕事じゃない気もするんだけどなぁ・・・


「で、ですねぇ?王立の図書館に勤めていたんですけどぉ、図書館といっても広さに限りがあるじゃないですかぁ。だから、不要な本を処分しようとしたんですぅ。」


「ほほぅ。えーっと、ちなみにどんな本を処分しようとしたんです?」


「勿論、貸出回数が少なく、歴史的価値が無いものを対象にしましたぁ。」


「まぁ、そうでしょうね。」


「そしたら、王宮から呼び出しがかかっちゃいましてぇ・・・王女様にすっごく怒られましてぇ・・・そして、投獄されちゃったんですぅ。しくしく」


王女が怒るとはただ事じゃないな。しかし、どうして怒ったのだろうか?ノベルさんの処分する本の選定が間違っていた?うーん、わからん。でもまぁ、処分された本に問題があったのは間違いないだろうな。


「ちなみに、何ていう本を処分したんです?」


「えっとですねぇ。『我がバラ色の人生(著:アリア)』ですぅ。一応中身見たんですけどぉ。ひたすら「私の人生はバラ色!光り輝いてるっ!」って感じの本だったのでぇ、王女様にも大した本じゃないから捨てましたっ!って言ったんですけどぉ、そしたら激オコでしたぁ。なんででしょぉ・・・」


アリアって・・・アリア王女のことだよな?

まぁ、王族貴族が本を書くのはまだいい。しかし、よりによって自画自賛ネタかよ(汗)。誰に見せたかったんだ一体。というか、いくらくだらない本だったとしても、それを作家である王女に言ったらさすがに怒るよあぁ。


いかん、この子天然だ。


もしかして、作家のアリアとアリア王女を同一人物と知らなかった?という可能性はあるな。


「ちなみに、おそらくですけど・・・その本の作者は王女様ですよ・・・だから怒ったんじゃないかなと思いますけど。」


「ほぇ??は?王女様が?あの本を?」


「いや、だってどちらもアリアでしょ?アリアって名前、この国じゃあ珍しいんんです?」


「いや・・・・・・・・・王女様がアリアっていう名前だなんて、知りませんでしたぁ・・・・・」


うぉいいいいいい?

自分の国の王女様の名前、知らんのはまずいでしょぉぉぉぉ!

(いくら下衆い王女とはいえ)


「は、、はぁ・・・まぁ、それが原因ですかねぇ。」


すると、ノベルの泣く声が聞こえてきた。


「ぐすん、ぐすん、ふえぇぇぇぇん。私、いっつも抜けてるんですぅ。お隣の幼馴染の弟君の名前も覚えてないしぃ、ペットの名前も覚えられないしぃ・・・もぅやだぁ・・・」


すげーな、それでよく司書とかやってられるな。あれこそ、たくさんの本の情報を覚えてないと務まらない職業だと思うんだが。


「しかし、よくそれで司書が務まりますね・・・」


いかん、思わず嫌味的な発言をしてしまった。これは失礼にあたる。


「あぁ、本は大好きなのでぇ。読んだ本のことは全部覚えてますよぉ?私、「完全記憶」っていうスキルもあるんですよぉ?」


「完全記憶っていう割にはペットの名前も覚えられないという・・・なんだそのスキル?」


すると、ノベルは慌てた。


「かっ、完全記憶って言ってもぉ、自分の興味のあることしか覚えられないんですよぉ。」


なるほど。つまり、幼馴染の弟君もペットも君にとっては興味なかったってことね・・・

これで幼馴染の弟君がまさかのまさかで彼女に気があったらホント気の毒だな(汗)


それにしても、本の内容は全部覚えている、かぁ。それはかなり優秀な能力だな。王立図書館にどれだけの書籍があって、彼女がそのうちどれだけの本を読んだのかあは知らないが、この世界の知識がない俺にとって、彼女の頭にある情報は宝の山・・・かもしれない。


「ちなみに、どんな本を読まれるんです?」


「よくぞ聞いてくれましたぁ!私ぃ、歴史、地理、魔法、生物、の内容なら図書館の本を読破してますぅ。」


おおっ!それは凄い!欲しい。顔も分からないし、性格はちょっと・・・だし、素性もよくわからないけど、少なくとも俺の欲しいものを彼女は持っている。


ちょっと欲が出てきたなぁ。脱獄するにあたり、この人を連れていくかどうか。

もっとも、彼女の意思もあるから無理強いはできないけど、でも合意が得られるのなら連れていきたい。


ということで、俺は彼女に脱獄の話を切り出してみることにした。

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