【十】
町へと戻る道を歩く光の隣には思い詰めた表情の香香香がいた。当然そんな状況で会話などが香香香から始まる訳が無いので、光は何を話そうかと散々悩んだ結果、
「わざわざ送ってくれなくても大丈夫ですよ?」
はにかみながら出た言葉そんな当たり障りの無い言葉だった。
葵がゲームログインしたという通知を見て、一度町に戻りたいという旨を話したところ、
「わざわざこんな所まで来て貰ったんだから、町まで送ってあげたら?」
と、村正が香香香に提案したのがきっかけで今のこの状況になっているのだが、彼女には光の言葉が届いていないのか、全く返事が返って来ない。しかし、光も諦めずに、
「でも、香香香さんが言ってたように、やっぱり職人っていうのも大変そうですね?」
まだ経験はしていないが、追い込まれた香香香の様子や村正とのやり取り、そして酒井忠次なんて有名な人から武器を作ってくれと依頼されている様子を一部始終見たからこそ分かる鍛冶職人の大変さ。まあ、鍛冶だけでは無く製作系の職人さんには全て同じ事が言えるのだろうけど。
「あ、ごめん。ちょっとボーっとしてた」
獣道をゆっくりと進む香香香からそう言葉が返って来たのは数秒経ってからだった。
「大丈夫ですか?大分、追い詰められてるように見えるんですけど」
「あ、うん。大丈夫。……だと思う」
露店で初めて会った時と比べるとまるで別人のように弱々しくなってしまっている姿に、光は心が痛んだ。だから、
「製作を経験してない俺が何を言っても説得力は無いと思いますけど、あんまり考えすぎないで軽い気持ちでやって下さいね?今回の条件は、村正さんがそういうのも考えて言ってくれたんだと思いますから」
「それが逆にプレッシャーになってる気がする」
「だったらいっそ、失敗したら村正さんのせいにしちゃえば良いんじゃないですか?」
言葉の後に、「なんちゃって」と付け足す前に、
「ああ」
そう彼女に遮られ、
「それは良いかもしれない」
本気で受け取られてしまった事に光は焦るが、すぐに彼女が笑って、この世の終わりがこれから来るんじゃないか?と思わせるような表情から笑顔に変わった事で訂正しようとしていた言葉をそのまま飲み込んでしまった。
「失敗したら村正さんが無茶言うからだ!って逆ギレしてやる」
香香香は、そう言ってもう一度笑う。
「そうです!その意気ですよ」
そんな話をしている間に倉賀野の町へと戻って来た。薄暗い路地裏から出たところで、
「何かあったらまた相談に乗って貰える?」
「はい。もちろんですよ」
二人はそれぞれのウインドウを開いて友達登録を済ませると、
「もし良い武器が出来たら光、あんたが貰ってくれるかい?」
「え、良いんですか?」
突然のサプライズにテンションが上がってしまったが、それと同時に初めて名前を呼んでくれたという事にも嬉しさがあった。
「うん、今回の事に巻き込む形になっちゃったし、相談とか愚痴も聞いて貰う事になると思うからさ」
彼女はそう言うと、
「あんまり期待せずに待ってて」
照れ臭そうに笑うと、手を振って、
「じゃあ、また」
彼女らしい淡白な別れの言葉を残して再び村正の自宅へと戻って行った。
「いつでも連絡下さいね」
彼女の背中に向かって光も言葉を返し、同じように手を振って町の中へと歩みを進めた。




