【八】
二人が合流し、迷宮へと旅立った新町の東側の入り口へと戻されていた。出発した時と違うのは辺りが暗闇に包まれている事くらいだろうか。
「色々勉強になりました。誘ってくれてありがとうございました」
要が頭を下げると、
「いえいえ、私もお話ししながら戦闘が出来るのは新鮮でとても楽しかったから」
「長政さん達とは迷宮に行ったりしないんですか?」
綱親の言葉を聞いてそんな疑問を抱いた。
「長政はほとんど毎日ゲームには入ってるけど、本格的な戦闘に出向くのは必要最低限かな?それよりも領地をフラフラしたりとか、のんびり過ごす事の方が好きみたい」
要は数時間前に目撃した田植えの事を思い出す。
「確かに、長政さんは田植えも上手でしたね」
そう言って笑うと、
「前に、田植えに役立つような農業系の技能を本気で取得しようとしていて清綱に止められてた」
彼女も同じように笑う。
「農業の技能なんてあるんですね」
それを確認するようにウインドウを開き、
「あ、清綱さんはどうなんですか?一緒に迷宮とか?」
「うーん、清綱はゲームにインしても長政に付きっ切りだから。長政が迷宮に行くって言えば行くだろうけど。それに……」
妙な所で言葉に詰まる綱親を気にしてウインドウに向けていた要の視線が彼女へと向き、指先だけで自分のウインドウを閉じる。
「今日はインしてたんだけど、あんまりイン率が良くないんだよね?」
「あ、そうなんですか?リアルが忙しいんですかね?」
「どうだろう?でも、清綱よりももっと酷いのがいるから強くは言えないんだよね」
「もしかして、結構名前が出てる人ですか?」
「そそ、雨森清貞って言うんだけどね。覚えにくいかもしれないけど、頭の片隅にでも置いておいてあげて」
再び笑い、笑顔を零す彼女は、
「この浅井三将三人の名前も結構面倒だからね?」
「清綱、綱親、清貞ですもんね」
それを聞いた彼女は笑顔のまま、
「分かりにくいよね?もし良かったら私の事は茜音でも良いよ?ほとんど呼んでる人いないけど」
「それだけ号の印象が強いって事ですよ!俺も何か貰えたら要って名前も呼ばれなくなるのかな?」
嬉しいような寂しいようなそんな複雑な感情が心の中に広がっていく。
時刻は間も無く二時になろうかとしていた。
ウインドウを開いてそれを確認した綱親は、
「結構遅くまで付き合わせちゃったけど、大丈夫だったかな?」
「はい。ゴールデンウイークに入って仕事も無いですし、全然問題無いです」
「あ、社会人さんですか?」
「はい。そうですけど」
それを聞くと、すぐに頭を下げる綱親に要は驚いて、
「え?」
声を上げる。
「ごめんなさい。私、まだ学生で。要さん、話し方とか感じが若かったから同じくらいなのかな?って」
「あ、ゲームの中だし、俺はあんまり気にしないですよ。一応、四捨五入したら三十路になるような年齢だけど、若いと思われてたなら許します!」
冗談っぽく言うと、フフッと笑い声が聞こえ、
「要さん、いつの間にか敬語に戻っちゃってますから、タメ語に戻してください。年齢もはっきりしましたし、分かりやすくて良いじゃないですか!」
彼女のそんな提案に要は一つ条件を付けた。
「俺もタメ語で話すから、茜音もタメ語でね?」
と、しばらくそんな話で盛り上がっていたが、要の頭に光の言葉がふと過ぎる。その言葉通りに、
「もうこんな時間だし、そろそろ解散にしようか?」
そう告げると、
「そうですね」
と、彼女は寂しそうに呟いた。
「女の子は睡眠時間ちゃんと取らないとお肌がボロボロになっちゃうぞ?」
またしても冗談っぽく言うと、
「それってセクハラになるんじゃ?」
綱親も同じように冗談っぽく返す。
「いやいや、まあ、それは冗談としてもそろそろ寝よう。明日も明後日も俺は暇だから、また誘ってくれればいつでも付き合うし、こんなへなちょこで良ければ」
目尻を下げる要。
「はい。ありがとうございます」
彼女も素直に従い再び頭をゆっくりと下げた。
17.08.24 誤字修正




