【七】
文字が消えた瞬間に二人は同時に走り出す。ボスの手前で左右に広がるが、彼の視線は右へと流れて行く綱親を追う。攻撃範囲に入って来るタイミングで二本の刀が綱親を襲うが、
「相変わらず重いけど、攻撃が単純」
彼女は両手で握った自分の刀でしっかりと受け止めていた。
動きが止まり隙が出来たボスの背中を要が斬り付けダメージを与える。そして、すぐさま後ろへと退いて距離を取る。光と葵の三人で戦った時には、本職では無いにしろ回復の技能が使える葵がいたので、ある程度のダメージは気にする事無く戦闘に没頭出来たが、今はそれが無い。だから、慎重に行動し無駄なダメージを受けない事が大事になってくる。
普段一人で迷宮に潜っている綱親と二人で迷宮を回る事で学んだ戦闘術の一つでもあった。
ダメージを受けたボスの標的は要へと移ったが、右手の初撃から左手の二撃という一連の流れは最初の戦闘でしっかりと頭の中に残っていた為、落ち着いていなす事が出来、最後にやって来た押し出すような蹴りも脇を締めた防御態勢で最少ダメージに留めた。
ターゲットが移り余裕の出来た綱親は小さく微笑むと、
「技能:秒読」
と、小さく呟いた。すると彼女の右肩に『三』という文字が浮かび上がり、炎を灯したように燃え上がる。それを確認した綱親は頷いて背中を向けるボスへと駆け寄り、
「技能:三枝」
振り下ろした切っ先から光が零れたかと思うと、その光が刃と化して三つに分かれ隙だらけのボスの背中に大ダメージを与えた。そして、それと同時に『三』の文字は燃え尽き次に『二』という文字が浮かび上がる。
振り返るボスを嘲笑うかのように縮地でボスの向こう側へと移動した彼女はボスに背を向けたまま、
「技能:二心」
言って、誰もいない前方へと今度は突きを繰り出した。すると、何故かその攻撃は背後にいるボスへとしっかりとダメージを与え、『二』の文字も燃え尽きる。
その一部始終を見つめていた要は、自分も戦闘に参加している事を忘れて見入ってしまう。流れるような攻撃、そして何より技能自体のかっこ良さに。
燃え、浮かび上がる『一』の文字で発動された技能は要も一度見ている一輪刺しであった。
背中に二度も大ダメージを受けるボスに構う事無く旋転切りを浴びせながら宙高く舞い上がり刃を下へと向ける。そして、頭頂部目掛け自重で突き立てる。
『一』の字が燃え尽き、最後に『零』が浮かび上がると、戦闘を終え地面へと降り立った綱親は持っていた日本刀を一度宙で振り払い鞘へと収めた。
「綱親さん、今の凄くないですか!」
興奮しながら駆け寄って来る要が彼女の肩へと目をやると、いつの間にか『零』の文字は消えていた。
「まあ、このボスで使う事も無かったんだけど、こういう派手な技能もあるんだよっていうのを見せたかったからさ」
頬を指で掻くような仕草をして照れ隠しをする彼女は、
「レベル上げ頑張る気持ちが沸くでしょ?」
悪戯っぽい表情で眼前に立つ要へと言った。そんな彼女の計画通りというか、雰囲気に飲み込まれていた要は、首を千切れんばかりに何度も縦に振ると、
「それはもう!レベルを上げて行けばこういう凄い技能も手に入る訳ですもんね!」
更に興奮度を上げて捲し立てた。
「技能自体はレベルを上げれば手に入るよ。あとはどういう風に使うとかタイミングは練習あるのみって感じかな?」
「うんうん!あの、詳しい技能の解説をして欲しいです!」
熱気冷めやらぬ要の様子を黙って見つめていた綱親は、
「はいはい」
と、言いながらも楽しそうに解説を始めた。倒れたボスである侍の横で。
そんなこんなで二人の迷宮探索は無事終わりを迎えたのであった。




