【四】
本庄村の藤兵衛屋敷に入ろうとすると、深々と頭を下げて出て来た男性とすれ違った。格好は三人と同じような服装に頭上の名前は水色をしているので、きっと始めたばかりのプレイヤーなのだろう。彼は、三人に気を止める様子も無く峠の茶屋方面へと歩いて行ってしまった。
「今の人、プレイヤーだったね?」
扉へと近付く要はそう言って質問を投げ掛けたまま、
「松さん!おつかい終わりましたよー」
門の向こうに聞こえるように大きな声で言った。
「挨拶する暇も無かったな」
再び、後ろにいる二人の会話が始まる。
「会釈はしたんですけど、気付いて貰えませんでした。やっぱり声出して挨拶しないとダメですね」
「まあ、急いでたみたいだし」
そんな事を言っている間に松が扉から顔を出し、
「おお、ちゃんと渡してくれたか?」
真剣な表情で確認してくるので、要は
「ちゃんと渡したけど、本当に渡すだけで良かったの?」
彼に詰め寄るようにして言った。松はそれを無視するようにして一歩下がると、
「蔵に武器がいくつかあるから好きな物を持ってってくれ」
そう言って指を差す蔵の扉は開かれていて、そこには分かりやすい様に武器が並んでいた。
日本刀に短剣、薙刀、弓と苦無など実に様々な武器がある。
「これはちょっと迷う」
光は言うが、要はすぐに日本刀に手を伸ばし、
「やっぱりこういう世界観なら日本刀でしょ?普通にカッコいいし」
言って、それを腰に付ける。しかし、光の目には未だに日本刀が残っており、
「あ、これ他人が取っても無くなったりはしないんだ」
現実世界ではあり得ない事だが、ゲームの理論としては有り得る話だった。それぞれがクエストを受けている訳であるから、三人いようが四人いようが全員が同じものを受け取れないのは逆におかしい。だから、光も同じように日本刀を手に取り、
「使いやすそうなのはやっぱりこれかな?」
そう呟いた。そして、最後に残っていた葵は、悩んで悩んで悩み抜いた末に弓を手に取り、
「これなら、遠くからでも攻撃出来ると思うので」
理由を言ってはみたが、ちゃんと使えるかは甚だ疑問で、
「当てられるかどうかは分かりませんけど」
徐々に小さくなっていくその声は、最後には少し風が吹いただけでも聞こえなくなってしまうほどの声量だった。
「この武器あったら神輿も取り返せるでしょ?」
松に尋ねる要は、しっかりと藤兵衛さんから受けていたクエストを覚えていたようで、
「で、その盗賊ってのはどの辺にいるの?」
と、続けた。それを聞いた光はクエスト一覧を開き、藤兵衛から受けた『神輿奪還』というタイトルの付けられたクエストの詳細画面を見て、
「この村にある神社の向こうの森が迷宮ってのになってるみたいだな」
呟いた。それに反応したのは意外にも松で、
「なんだ、お前たち詳しい話を知っていたのか?ならば説明などしなくても問題無いな」
そこで言葉を一旦区切ると、
「何とかして神輿を取り返してくれ。頼む」
頭を深々と下げた。
「まあ、大船に乗ったつもりで待っててよ!」
日本刀を軽く振り回す要は、武器を手に入れた事でテンションが上がっているのか、それとも強気になっているのか、調子の良い事を言うが、
「泥船にならないと良いけどな」
笑いながらそう零す光に突っ込まれ、手を滑らせる。
「こういうのは雰囲気が大事なんだから、あんまり茶々を入れないの!」
面倒臭そうに日本刀を拾って鞘に戻す。
「では、そろそろ行きましょうか?」
最終的には葵のこの一言で屋敷を後にした。
いつも通り先頭を行く要は、
「目指すは迷宮!」
そう言って握り拳を高々と掲げるが、
「あれ?ちょっと待って、迷宮って何?」
足を止めて後ろの二人に尋ねた。




