【五】
屋敷を出て北へと歩くと民家と民家の間を抜けるように道が続いており、その先に長い階段が見えて来る。どうやらこの階段を上り切った先、頂上に神輿を盗まれた神社があるようだ。
ゆっくりと階段の近くまで足を進めると、その段数の多さと高さに驚かされる。見上げても神社の姿が確認出来ない程の高さだ。
後ろを歩く光は、この段数の多さに要が文句を言うんじゃないかと考えていたが、
「それで迷宮の説明はまだなの?」
どうやらそちらの方がより気になっているようだったので、
「この階段上がったらすぐに迷宮だから、行ったら分かるよ」
と、諭して先に階段を上って行く。
頂上には古びた小さな神社が生い茂る木々で囲まれており、その中の一つ、大きな銀杏の木には人が入らないように柵のようなものが立てられていた。その脇に獣道としか思えない程小さな砂利道があり、
「ここを行けって?」
光は思わず声に出すが、要はやる気満々で気にする様子も無くずんずんと足を進めていく。
「ゲームですけど、なんか細かい所までリアルですよね?」
代わりに返事をしてくれた葵が、光の視線を追い掛けるように砂利道に目をやり、
「虫とかヘビとか出ないと良いんですけど」
そう呟いて要の後を追った。それに続いて光も歩いて行くが、すぐに前を行く葵が足を止めたのでぶつかりそうになりながら、
「どした?」
と、彼女の更に前へと目をやった。
自分たちの足元まで丁寧に砂利が敷かれた道はその場で終わっており、先には鬱蒼とした森林が広がるだけで迷宮らしき物も盗賊の住処も見当たらない。
「とばの森」
そう呟いた要の先には立て看板が設置されていて、『コノ先 迷宮:トバノ森』と記されていた。
「で、どこに迷宮が?」
辺りを見回しながら言う要の視線には緑で生い茂る木々しか見えず、明らかに人が入って行けるような隙間も無ければ、迷宮の入り口らしき物も見当たらない。
「RPGだと看板調べたり、周りの物調べたり出来るけど」
その後に、「このゲームはどうするんだろうな?」という言葉を用意していたが、要はそこまで聞かずに看板に近付き、何か無いかと触り出した。その瞬間、辺りの景色が一瞬にして暗転し、再び明かりが戻ると目の前には森への入り口が顔を出していた。
今まで木が生えていたであろう場所に人一人が進める程の道が出来ており、
「これが迷宮?」
要が振り返って尋ねる。
「きっと盗賊が待ち構えてるから気を付けろよ」
光の言葉に、要は腰から日本刀を抜き、
「いきなりの実戦が人ってのはちょっと怖い」
などと言いながらも目を輝かせていた。
「まあ、ゲームなんだし、ある程度の配慮はされてるんじゃないか?リアルだったらちょっと引くわ」
「私のこの弓にも、そんな配慮がされていて、ある程度使いやすい事を願います」
背負っていた弓を左手に、矢を右手に持った葵が光の話に乗っかった。
入り口とは打って変わって迷宮内は意外と広い作りになっており、三人が横に並んで歩いてもまだ余裕があるほどだった。周りは太い杉の木で囲まれていて、自然にこういう場所が出来たとするならば超が付くほど不自然ではあるが、本当の森が迷宮になっていたとするならば、ゲーム内で遭難者が出る可能性もあるので、これくらい親切な方が良いのだろう。
迷宮という割には分かれ道など無かったのだが、
「お前らここで何やってる?」
突然、後ろから声が聞こえ、三人が振り返ると、腰に動物の毛皮を巻いた正に盗賊と言った恰好をした男がそこに立っていた。三人は驚きながらもゆっくりと武器を構える。
「どうやら仲間に入れて欲しい訳じゃ無さそうだな?」
鋭い眼光で睨み付けながら、言葉を続けた男は腰から刀を抜くと楽しそうに笑みを作った。
『戦闘開始!』




