【二】
確かに戦国時代というのは昔から様々なジャンルでゲーム化されている。あれだけ濃いキャラが揃っている時代というのもそうあるものでは無いし、命を賭けた男同士の戦いというものには人を惹き付ける何かがあるんだろうと、勝手に考えていた柴田は、中道の言葉で想像の世界から引き戻された。
「多分、今流行りのアレだね。仮想現実。」
柴田にとっては聞き慣れない言葉だった。が、かろうじて意味は分かる。しかし、正解を知らない人間の頭は勝手に想像で不足分を補う為、
「まあ、ゲームの画面に集中して没頭していれば、それがバーチャルな現実になるかもな」
と、中道にとっては一体何の話をしているのか分からないレベルの珍発言が飛び出したが、彼は小さく笑みを零すと、
「仮想現実って言って意識をゲームの世界に送って、まるでゲームの中に入ったような感覚で遊べるってやつだよ。まあ、僕も実際やった事がある訳じゃないからそれくらいしか分からないけどね」
「え、最近のゲームって、そんなとこまで進化してるのか」
彼にとってのゲームは、画面とゲームを線で繋いでそこからまた線を繋いだコントローラーでキャラクターを操作するというレベルの話だ。主人公を自分にしたいと思っても、せいぜい名前をシバタにする程度のもので、実際に自分がゲームの中に入ってしまうなんて考えたことも無かった。
「子どもの頃にVRっていう眼鏡みたいなやつが流行ったけど、あれのもっと凄い版って感じかな?」
「ああ、あったね」
柴田の言葉に中道が思い出したように乗っかり、
「当時、結構な値段したけど持ってたの?」
ゲームという名前ではあったものの、明らかにターゲット層はお金を自分たちで稼ぐことが出来る大人向けに作られたもので、子どもが自分で買うにはあまりにも高価な物だった。この頃辺りから、新作で発売されるゲームハードは高価な物が多くなった。そんな事もあって、中道は柴田に尋ねたのだろうが、
「いや、全然。社会現象というかニュースとかでも取り上げられてたから覚えてた。家電量販店に前の晩から並んで朝早く買う客の列にインタビューしてるやつとか、キャスターが実際に眼鏡みたいの装着してゲームしてる様子とか」
その話を聞いて、
「多分、柴田君が知らないだけだと思うんだけど」
そう前置きをした中道は、
「その頃と同じような社会現象が今現在起こってるんだよ?」
言って、スーツの胸ポケットからタブレットを取り出すと、『VRG』と検索を掛けて、先程柴田が言っていたような家電量販店で行列を作るお客さんにインタビューをする動画などを画面を向けて見せて来た。
最後まで、見終わった柴田は、
「全然知らなかった」
と、驚いた様子を見せていたが、
「こういうの見るとちょっと興味沸くなあ」
遠く、未だにゲームの話で盛り上がっている向こうの集団へと視線を移しながら言った。
お昼休みも残り半分を過ぎたという事もあって、人混みは徐々に解消されつつあるが、二人のように食べ終わってものんびりとその場で過ごしている人間や、少し遅れてやって来る人間もいるのでそれほど寂しさは無いが、あそこの空間だけはそんな事とは無縁の盛り上がりを見せている。
「あそこで話してるゲームは、戦国武将と合戦に出て戦を疑似体験するみたいなゲームになるのか?」
独り言のように呟いた柴田の言葉を待ってましたと言わんばかりに、
「基本的には、プレイヤーが敵を倒して経験値を獲得して強くなって行く所謂ロールプレイングゲームって言われているジャンルになるみたいなんだけど、結構そういうものに縛られないで遊べるのが醍醐味っぽいよ」
中道が早口で補足説明を入れた。いつもより饒舌な彼であったが、早口でも聞き取りやすく。その聞き取りやすさが、柴田との会話に拍車を掛けた。
「敵を倒してレベルアップして強くなるだけが目的じゃないって事?」
「まあ、そういう風に楽しむことも当然出来るんだけど」
そう返して、
「例えば、少し目線を変えてさ。敵を倒して強くなりたい人ってのはやっぱり武器とか防具が必要になるよね?」
目を輝かせて説明する彼を見ながら柴田は黙って頷く。というか無言のプレッシャーのようなものを感じて頷く事しか出来なかった。
「そういう武器や防具を求めてる人に作って売ってあげる人ってのが必要になるでしょ?」
先程までは黙ってただ聞いているだけだった柴田は、その言葉に反応して、
「武器屋とか防具屋で買う訳じゃ無いのか」
「そういう所でも売ってはいるらしいんだけど、やっぱり性能差があるみたいだよ。あとは敵からダメージを受けた時に回復をする薬とか空腹になった時に食べる食料とかそういう物を生産する人達が必要になるってこと」
「ゲームというよりリアルって感じだな」
「仮想現実って呼ばれてるくらいだからね?」
そこで一息ついた中道は、喋り過ぎて喉が渇いたのか、トレイに乗っているお茶に手を伸ばし一気に喉を潤した。
「で、なんで武将の名前が?」
少し話を聞いただけだが、ある程度の事は知っていそうだなと思った柴田は、ずっと気になっていた事を聞いてみた。
「うん、このゲームには少し特殊なシステムがあってね?プレイヤー自身が戦国武将の名前を獲得出来るんだ」
意味が分からず怪訝そうな表情をする柴田。それに気が付いた中道も、
「名前を獲得出来るって言うと変かもしれないんだけど、その人になれちゃうって言った方が分かりやすいかな?その武将にしか使えないスキル、簡単に言うと技みたいなものかな?そういうのが手に入ったり、お城が建てられたりとか家来が持てたりとか、色々あるみたいだけど、俺も別にプレイしてる訳じゃ無いから詳しくは分かんないな」
苦笑いで言う中道だったが、柴田からすれば十分すぎる程知っているし、多分自分から積極的に情報を仕入れているんだろうと思うほどの博識ぶりだった。
「で、そのゲームの名前は?」
「『G.O.U』だよ」




