表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/65

09◆天眼少女は取り扱い注意


 冗談じゃあ、ありませんよ?

 

 鑑定士を連れた追っ手に、馬車を特定されてしまった。

 俺の『鑑定』スキルは特殊すぎるので、絶対に知られたくはない。

 

 しかも、である。

 

 一緒にいる女の人。これが大変な人物なのだ。

 

 世にも名高い天才剣士、マリアンヌ・バーデミオンといえば俺でも知っている。

 俺と大して歳は変わらないのに、〝勇者の意志を継ぐもの〟なんて呼ばれていた。

 背に収めた大剣はかつて、勇者アース・ドラゴに次ぐ剣士が使っていた由緒正しく高額な代物だ。


 固有スキルは二つ。

 これだけ名声のある人だと少なく感じるけど、そのうちのひとつが、あまりにも破格なのだ。

 

 なんでも『超』が頭に三つくらい付く激レア固有スキル、『天眼』を持っているとか。

 伝説の勇者も持っていたとされるそのスキルのぶっ壊れ具合と言えば、

 

=====

『天眼』:B

 事象の本質を見抜く眼力。

 ランクBでは知識や経験の積み重ねで体系化された技術に対し、一見してその本質を完全理解し、最適な習得方法を知る。

 また対象の状況から動きを予測、対処法を瞬時に得られる。

======


 うん、よーわからん!

 でもたぶんこれ、一回見ただけで弱点とか見破れるってことだよね。

 この人の前で必殺技とか出せないじゃないか。

 

 加えて、俺の『鑑定』ランクEXに似た効果まであるんだな。

 俺は相手の思考を読み取って動きを予測するけど、彼女は目や体の動かし方なんかを総合的に判断し、しかも瞬時に対処しちゃえる、と。

 

 つまり、俺が彼女の行動を先読みしても、彼女は俺の動きを読んで対処できる。

 俺は相手の能力をそっくり読み盗って強くなれるけど、実力はまったく同じ。

 

 これ、戦ったら終わらないぞ……。

 

 いや、もう一人強いおじさんがいたから、その人も同時に相手したら詰む。

 捕まっちゃうよ。


 俺はシルフィをお姫様抱っこして、路地を駆ける。

 並走するクララの能力を読み盗っているのだ。やっぱりこの子、運動能力高いなあ。ふだんの俺じゃ、あり得ないスピードが出てるぞ。

 

「待ってくださいっ!」

 

 げっ、なんか追いついてきた。

 なんだか必死な物言いだけど、待てと言われて待つバカはいない。

 

 俺は振り返らずにひたすら走る。

 

 大通りまで出れば人波に紛れて逃げられるかも。

 ただそれを信じ、やってきました大通り。

 

 人は多いが隙間はある。

 さすが森を駆け抜けていた野生児の能力だ。俺たちはするすると縫うように進み、噴水のある広場に抜けた。

 

 噴水を横目に、反対側の通りに入ってこのまま街から出て行こうか。

 馬車はもったいないけど仕方がない。

 そんな風に考えながら、剣が刺さった大岩の横をすり抜けようとしたとき。

 

「待ってくださいと――」


 ダンッ!

 

 なんか後ろで大きな音がしましたね?

 

「言っていますっ!」


 ズガンッ、と。赤い鎧を軋ませてマリアンヌさんが降ってきたっ!?

 

 俺たちは慌てて急ブレーキ。空を飛んだ? いや、飛び越えてきたのか。まあ、いずれにせよ。

 

「あんたホントに人間かよっ!」


「むぅ、このような出で立ちですから『淑女レディーに向かって』などと言うつもりはありませんけれど、その言い方は、すこし悲しいです」


 いかん。〝女の子扱いされなくてしょんぼり〟させてしまった。そもそも人扱いしてなかったんだが。

 

 にしても、この人、間近で見ると本当にきれいだな。

 お人形みたいな愛らしさのシルフィとは方向性が違う。凛とした美しさだ。

 俺より二つ上の17歳か。

 鎧に隠れて見えないけど、クララ並みに立派なものもお持ちのようで。

 

 ヤバい。ドキドキが止まらない。もしかして、これが恋っ!?

 

 冗談はさておき、こんな時こそ冷静に。

 

 俺はシルフィをそっと降ろすと、彼女の状況を深く読み取る。

 

 マリアンヌさんは〝単独で追ってきた〟。強そうなおじさんは〝宿で待機〟しているし、鑑定士は〝仲間へ連絡するため〟ここには来ない。

 

 よし、いいぞ。

 俺はだいぶ『鑑定』の使い方に慣れてきたので、必要な情報をぴこっと表示させることができるようになっていた。

 

 彼女は『天眼』の持ち主。

 同じ実力となった俺と彼女が戦えば、長期戦は必至。その間に助っ人がやってくる危険があった。

 

 しかし。しかぁし!

 

 うわはははっ、この人、とんでもない弱点を抱えてるじゃないですかっ!

 

 〝猫が怖い〟

 

 なんとも可愛らしい弱点に加え、〝他者に触れられるのも嫌〟という潔癖なるご令嬢らしい。

 

 (正確には猫じゃないけど)クララをけしかけ、怯んだところで一気にケリをつける。

 

 よし、これでいこう。

 

 ところで彼女、他の人にはない【注意事項】なるステータス項目があるんだけど、なんでしょうね?

 

 〝猫を近づけてはならない〟

 〝直接触れてはいけない〟

 

 ……俺の作戦はダメってこと?

 

 それやっちゃうとどうなるの? もしかして『天眼』以外の固有スキルに関係してる?

 

 思った瞬間、答えを得た。

 

 ……………………うん、これはやっちゃアカンやつや。

 

 恐々とした俺は知らず、ムサシさんからもらった腰の剣に手をかけてしまった。

 

 すると彼女は――。

 

「剣を抜くのはやめてください。私は争いに来たのではありません。ああ、そうでした。捕縛されると危惧しているのですね。安心してください。私にその意思はありません」


 ん?と首をひねりつつ、よくよく彼女の意図を読み取ってみれば。

 

 この人、俺が殺した偽神父が大盗賊ヘーゲル・オイスだと知っている。 

 俺を追ってきたのは〝殺害した状況と動機を知るため〟だったのだ。

 

 誤解は解けているらしい。より正確に言えば、ちゃんと話せば完全に解ける状況にある。

 だからといって、彼女と行動はできない。

 一緒にいた鑑定士に、俺の能力が知られては困るのだ。

 

「まずは自己紹介を。私は赤鳳騎士団副団長、マリアンヌ・バーデミオンです。貴方は、メル・ライルート君ですね?」


「そうですよ♪」「ってクララが答えてどうする!」


 頭を抱える俺。

 いきなり怒鳴られてしょんぼりするクララ。

 あわあわするシルフィ。

 猫っぽいに対応されて顔をこわばらせるマリアンヌさん。

 

 彼女、本気で猫が怖いんだな。


 まあ、それはそれとして。

 

 誤解が解けるなら、話してわかってもらったほうが断然いいな。

 

 簡潔スピーディーに話を終わらせ、『じゃ、俺たちはこれで』と別れてしまおう。

 お、なんかこれ、スマートじゃね?

 

 俺は神父殺しの一件について、『鑑定』スキルやシルフィの正体をひた隠しにしつつ、かくかくしかじかと説明した。

 

「なるほど、よくわかりました」


 にっこり微笑むマリアンヌさん。でもこの人、ぜんぜんわかってくれてなかった!

 

「正式に事情聴取をするので、一度宿まで戻りましょう。なに、形式的なものですから、時間は取らせません」


 〝彼の固有スキルがどんなものか知りたい〟と半透明ウィンドウに書いてあるんですけどっ。

 

 冗談じゃないぞ。プライバシーの侵害だ。

 

 でもこの人、基本いい人なんだよな。もっと言えば誠実で信用のおける女性だ。

 

 事情を詳しく話さなくても、『固有スキルを知られると困る』と言えば、追及してこないように思う。

 

「あの――」


 意を決し、ぶっちゃけようとしたときだ。

 

 

「見ぃつけた」


 

 のほほんとした男性の声に、遮られた。

 

 横を向く。

 鬼がいた。

 頭に角を2本生やした、長身の男性。賞金稼ぎの、ムサシさん……。

 

「まさか君が『神父殺し』だとはねえ。悪いけど、拘束させてもらうよ。ああ、『抵抗するな』なんて言わないから、思いきり抵抗してくれていい」


 ムサシさんは腕を前で交差させ、それぞれの手で剣を握った。

 慌ててマリアンヌさんが割って入る。

 

「待ってください。この少年は――」


「おっと、どこの誰かは知らない(・・・・・・・・・・)が騎士風のお嬢さん、邪魔をするなら――とうっ!」


 ムサシさんが石畳を蹴る。

 スキルは使っていないのに、ものすごいスピードでマリアンヌさんに肉薄する。

 

「ちょ、話を――」


「問答無用っ!」


 きらりと白刃が陽を弾く。

 

 ダメだ、この人。

 

 〝事情はこっそり盗み聞きして知っているが、『天眼』持ちと戦えるまたとないチャンスだから知らないふりして襲ってしまえ〟なんて考えてますよっ!?

 

 さあ、どうする俺!?

 

 いや、でもこれ、実はチャンスじゃないか?

 

 マリアンヌさんに話せることは話した。すくなくとも彼女は真摯に受け止め、信用してくれたのだ。

 

 もう、俺たちがここに残る理由がない。

 できればシルフィを早く故郷に帰してやりたい。

 

 だったら、二人が戦っている間に、逃げてしまえばいい。

 

 そうだ、逃げて、しまえば……。

 

 両者の戦いに見惚れていた俺は――。 


 ガキィィンッ!!

 

 二つの衝突音が、同時に響いた。

 

 ひとつはマリアンヌさんが斬撃を弾いた音。

 

 そしてもうひとつは、俺の刀とムサシさんの刀が、衝突した音だった――。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このお話はいかがでしたか?
上にある『☆☆☆☆☆』を
押して評価を入れてください。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ