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第8話 簡単に片づけられる魔王城

「あーなんか、めんどくさくなってきた。」


漆黒の雲が渦巻き、禍々しいオーラを放つ魔王城を目の前にして、俺は盛大にため息をついた。


これから、よくあるゲームの展開だと、魔王城の一層から最上層まで、各階を守る中ボスだの守護騎士だのをいちいち倒しながら上らなきゃいけないのか……。トラップとか隠し扉とか、どうせ仕掛けられてるんだろうな。だるすぎる。


「よっし!とりあえず魔王城周辺ぶっ飛ばすか……!」


まずは小手調べだ。適当に景気よく挨拶してやろう。


「火属性魔法、火炎攻撃ファイアーアタック!……ついでに、花火、ヒュードン!」


俺が手をかざすと、手のひらから勢いよく炎の弾が射出され、魔王城の前衛砦に直撃した。さらに追撃で放った魔法が、夜空に綺麗な大輪の赤や緑の花火を咲かせる。ドォン、パラパラパラ……と気の抜けた音が響き、砦の門番たちが「な、何事だぁー!?」と右往左往しているのが遠目に見えた。


……が、さすがは魔王城。門の一部が焦げた程度で、本体にはかすり傷一つ付いていない。


「なんか……もっと楽にやりたいな……」


一階一階、階段を上る自分の姿を想像して、早くもゲッソリする。汗をかきながら剣を振るうなんて、俺のキャラクターじゃない。もっとこう、一撃で、サクッと、ボタン一つで全自動で終わるような、そんな都合のいい方法はないものか。


あ、そうだ。


「そうだ、なんか宇宙の力でも借りればよくね?! 俺天才!」


だいたい、こういう異世界って、火・水・風・土の基本属性のほかに、概念的な魔法もあるじゃん、この世界にもあるんじゃね?

そうだった場合、この世界の枠組みを超えた「宇宙コスモ」のパワーを引き出せば、魔王城ごと一発でいけるんじゃないか? うん、いけるいける。天才のひらめきだ。


俺は適当に、それっぽいポーズを決めて、頭に浮かんだ呪文(?)を大声で叫んだ。


「宇宙属性魔法! 宇宙そらよ、いまここに、恵みと天罰の雨を、雷を降らせておくれ! 雷雨サンダーアタック……おりゃあー!!」


その瞬間、世界の法則が悲鳴を上げた。


ドス黒かった魔王城の空が、一瞬にして夜空を通り越して「漆黒の宇宙空間」のような、星々が明滅する異常な色へと変色する。そして、大気圏を突き破って、巨大な隕石のような、あるいは超高濃度のプラズマを帯びた雷雲の塊が、ピンポイントで魔王城の真上に召喚された。


どんがらがっしゃーーん!!! どかーんばきゃああーーん!!!


言葉にできない質量と破壊のエネルギーが、上空から魔王城へと垂直に叩きつけられた。それはもはや「雷雨」なんて可愛いものではなかった。天と地がひっくり返ったような大爆発。光と衝撃波が周囲を覆い尽くし、轟音が鼓膜を震わせる。


その後、滝のような大雨が、凄まじい勢いで降り注いだ。


ざーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……。

ざーーーーーーーーーーーーー……。


まさに地獄絵図。世界の終末とは、きっとこういう光景を言うのだろう。


数分後。

あれほど激しかった雨がピタッと止み、雲の切れ間から、なんだか気の抜けたような青空が顔を出した。


雨が止むと、そこには綺麗さっぱり更地になった魔王城の跡地があった。

瓦礫すら残っていない。ただただ、平らな地面が広がっている。


そして、その更地のド真ん中に、すすまみれになった男たちがぽつんと佇んでいた。

一人は、俺より先に魔王城に乗り込んでいたはずの、ボロボロの鎧を着たもう一人の勇者。

一人は、なぜかこんな最前線にいた、豪華絢爛な王冠がひん曲がった王様。

あとは、さっきまで魔王軍とたたかっていたであろう騎士。

ついでに、その横には「魔王だったもの」のツノだけが転がっている。


「あ……なんかできちゃった……」


予想以上の威力に、俺自身が一番引いていた。冷や汗が背中を伝う。

沈黙に耐えかねて、俺はとりあえず彼らに向かって片手を挙げた。


「いエイ」


「そういえば…魔王さんにあいさつもせずにこんなことしちゃったのか…なんかごめんね…魔王。」


「てめぇなにもんだ……この怪物!!」


もう一人の勇者が、血管をちぎれんばかりに怒張させて叫んだ。命からがら魔王の部屋までたどり着き、これから命がけの最終決戦が始まるというその瞬間に、天井から宇宙の雷が降ってきて全てを消し去ったのだ。彼の怒りと理不尽さは計り知れない。


俺は精一杯の愛想笑いを浮かべ、人差し指を頬に当てて言った。


「ただの人間ですよ」


「うそをつくなー! とらえろー!!」


王様が顔を真っ赤にして、泡を飛ばしながら騎士に命令する。しかし、騎士はガタガタと震えるだけで動けない。そりゃそうだ、魔王城をワンパンで消し飛ばす人間を捕らえろなんて、自殺志願以外の何物でもない。


だが、捕まる前に、妙な現象が起き始めた。

俺の手の先が、ガラスのように透き通ってきているのだ。


「あいつ、いやあの脳筋ゴリラのせいで徹夜したんだーって、体が薄くなってる……?」


もう一人の勇者が、自分の手を見つめて呆然と呟いた。見れば、彼の体も、俺の体も足元からじんわりと光の粒子になって消えかけている。


「あら、俺も」


俺の体も、まるでホログラムのように透けていた。どうやら、世界を滅ぼしかねない俺の規格外の魔法のせいで、世界のシステム自体がバグを起こし、強制終了シャットダウンを始めたらしい。


「これ、役目を果たしたから帰還ってやつか」


魔王(と魔王城)が消滅したため、「魔王討伐」のクエストが強制達成され、異世界に召喚されていたメンツが元の世界に戻される処理が始まったのだ。なんというガバガバなシステム。


「てめぇ……世界戻ったら、見つけたらただじゃおかんからな……!」


消えゆく光の中で、もう一人の勇者が般若のような顔で俺を睨みつけてくる。元の世界でも同じ日本人だったらしい。完全に逆恨みだが、あの怒り具合だと本気で人探しを始めそうだ。


「ワーコワイ」


俺は棒読みで返した。どうせ日本に戻れば、何億人も人間がいるんだ。そう簡単に見つかるわけがない。


「棒読みだな……」


騎士が最後にボソッと、何かを諦めたような呟きを残し、完全に光となって消滅した。


「わははは!」


誰もいなくなった更地で、俺は一人で声を上げて笑った。

色々めちゃくちゃだったけど、結果オーライだ。めんどくさいダンジョン攻略も、命がけの戦いも、全部すっ飛ばしてクリアしてやった。


さようなら異世界。ただいま日本。


視界が真っ白な光に包まれ、強烈な浮遊感が体を襲う。


次に目を覚ました時、俺は、あの見慣れた町の中にいた。

だから、とりあえず、家に帰った。

「……あー、やっぱり我が家が一番だな」


俺は大きく背伸びをして、スマホに手を伸ばした。異世界の記憶が夢だったかのように思えるほど、いつもの日常がそこにはあった。


「よし、とりあえず、ゲームのデイリーミッションでも消化するか」

「そのあとは…ランニングかな…」


画面をタップしながら、俺は小さく呟いた。もう二度と、宇宙の力を借りるような面倒な事態には巻き込まれませんように、と願いながら。

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