第1話 よくある異世界召喚
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「……うおっ!? なんだこれ、眩しっ!?」
ついさっきまで、日本一の山、富士山に見守られながら、俺はコンビニからの帰り道を歩いていたはずだった。
それが突然、足元に幾何学的な模様の光――いわゆる魔法陣ってやつが浮かび上がったかと思えば、視界が真っ白な光に包まれた。
俺の名前は、「佐藤 駆」
今から、15年前。
日本一の高さの山、富士山と日本一の深さをほこる海、駿河湾にはさまれた町に、生まれた。
父と母は、なんでもいいから、「日本一」、「世界一」と言える人になっていってほしいという意味で、「駆」と名付けたらしいが、今現在、特にすごい人にもならず平凡に、生きている。
平凡が一番なんだけどね。多分。
一応、今は、中学3年生。勉強は好きではあるが、あまり得意ではない、運動も好きではあるが、得意ではない。でもアニメとか小説とか、散歩とか、好きなものがないわけではない。
今の人生に、満足しているかと聞かれたらきっと満足しているのであろう。
という回想シーン的なのはさておき、そろそろしゃべるのが疲れてきたので、この白い光の中で落下していくのを楽しむとしよう。
しばらく続いた浮遊感のあと、ドサリと固い床に尻餅をつく。
慌てて目を開けると、そこは現代の日本ではなく、異世界物のアニメとかに出てくるようなバカ高い天井と大理石の柱が並ぶ、豪華絢爛な「玉座の間」だった。
「おお……! ついに、ついに成功したぞ! 異世界の勇者召喚だ!」
ローブを着た髭モジャの老人 (神官っぽい)が、両手を挙げて狂喜乱舞している。
その奥の立派な椅子には、王冠を被った偉そうなヒゲのおっさん (国王っぽい)が座り、周囲にはフルプレートの鎧を着た騎士たちがずらりと並んでいた。
(マジか、これネット小説で100回は見ためちゃくちゃ王道の異世界転移じゃん……!)
俺が状況を理解して呆然としていると、すぐ隣にもう一人、同じように召喚された奴がいることに気づいた。
制服を崩して着こなした、いかにも「クラスの主役」と言わんばかりのイケメン高校生だ。
「おい、神官。早速だが、僕たちのステータスを鑑定してくれ」
イケメンは驚く風でもなく、フッと不敵な笑みを浮かべて神官を促した。こいつもネット小説の読みすぎだろう。環境に適応するのが早すぎる。
「は、はっ! ただいま! ……おお、素晴らしい! こちらの御方のスキルは『聖剣の加護』に『全属性魔力適正』! まさに我が国を救う、本物の『勇者』様です!」
「フッ、当然だな」
周囲の貴族や騎士たちから「おおお……!」と地鳴りのような歓声が上がる。イケメン勇者はこれ以上ないほどドヤ顔をキメて、チラリと俺を鼻で笑ってきた。
「……で、もう一人のそっちの冴えない男は?」
国王が値踏みするような目で俺を見て、神官が慌てて別の水晶を覗き込む。が、その顔がみるみる青ざめていった。
「……な、数値が……出ない? 魔力値、ゼロ! スキル、なし! 完全な無能! 申し訳ございません国王陛下、ただの召喚事故、ゴミを巻き込んでしまったようです!」
一瞬で玉座の間が通夜のように冷え切った。
イケメン勇者はあからさまに哀れみの目を向けてくる。
「チッ、役立たずか。我が国の国家機密である召喚術を知られた以上、生かしてはおけん。兵士よ、そいつを地下の処分場へ連行し、即座に処理(殺害)しろ」
「ハッ!」
ガシャガシャと音を立てて、強面の騎士たちが槍を構えて俺を囲む。
おいおいおい。勝手に拉致しておいて、人違いだから殺すって、この国の倫理観どうなってんだ!?
「ちょっと待ってくれ! 俺、魔力ゼロとか言われたけど、魔法ってなんとなくのノリで出せるんじゃないの!?」
俺の必死の抗議に、イケメン勇者がクスクスと肩を揺らして笑った。
「ハハハ! バカじゃないのか? 魔力ゼロのお前に魔法なんて使えるわけないだろ。魔法ってのはな、体内の魔力を緻密にコントロールして、古代の呪文を詠唱して――」
「え、詠唱? めんどくさ。なんかこう、『ウオオオーッ!』って気合入れて、目の前の空気をギュッと掴んで、ドカンって投げるイメージでいけない?」
「はあ? そんなゴリラみたいなノリで出せるわけ――」
出せるわけ、なかったらしい。
常識的には。
でも、俺は理不尽に殺されそうになってムシャクシャしていたので、やってみた。
目の前の空間を、両手でギュッッッ!!と雑に凝縮してみる。
すると――パキパキパキパキッ!!!
「なっ、空間が割れて……!?」
イケメン勇者の顔から余裕が消えた。
俺の手の中で、なぜか空間そのものが悲鳴を上げて凝縮され、パチパチと漆黒の電撃を放つ、野球ボールサイズの「超高密度な空気の塊 (質量兵器)」が出来上がった。本人は魔法のつもりである。
「お、なんか固まった。じゃあ、そーれ」
俺は近づいてきていた騎士たちに向けて、ピッチャーばりの綺麗なフォームでそれを全力投球した。
ズガアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!
「ぎゃあああああああ!?」
放たれた空気の塊は、騎士たちの頑丈な盾や槍を木っ端微塵に粉砕し、彼らをまとめて天井へと吹き飛ばした。
それだけでは勢いが止まらず、そのまま玉座の間の分厚い大理石の壁に激突。凄まじい衝撃波と共に、城の壁を派手にブチ抜いた。
爆煙が晴れると、そこには直径五十メートルほどの綺麗な丸い穴が開いており、異世界の美しい青空と、はるか眼下に広がる街並みが見えていた。
「えっ」
イケメン勇者が、アゴが外れそうな顔で固まっている。
国王も、座っていた椅子から転げ落ちてガタガタ震えていた。
神官にいたっては「魔力ゼロのはずなのに、神代の消滅魔法を無詠唱で……!?」と白目を剥いて卒倒している。いや、ただ空気を握っただけなんだけど。
「あ、すんません。力加減間違えました。弁償は無理です!」
俺はそう言い残すと、自分がブチ開けた壁の穴(地上およそ三百メートル)から、楽しそうに大空へと飛び降りた。
なんとなく、足の裏の空気を思いっきり蹴っ飛ばせば、着地の衝撃とか相殺できる気がしたからだ (のちに主人公が勝手に開発した飛行魔法『二段ジャンプ』と呼ばれるものである)。
「じゃ、お疲れっしたー!」
「待てぇええええええ! 捕まえろ! 全世界に指名手配だぁあ腹立つぅううう!」
背後から国王の必死の叫び声が聞こえたが、落下する風の音でよく聞こえなかった。
こうして、王道な異世界召喚から始まった俺のファンタジーライフは、国家破壊の指名手配犯としてハデに幕を開けたのだった。
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